プロジェクト6。


 3月に入って、6年間携わってきたプロジェクトが終了した。このプロジェクトは自分が育てたというよりは、プロジェクト自体が己自身で勝手に育っていったようなものだったなと思う。とりあえず、無事に終わったことを喜びたい。


 一昨日はプロジェクトのスタッフとともにお疲れさん会の打ち上げを代官山のイタリアンレストランで行なった。洒落た店内、美味しい料理とワイン、そのワインを選んでくれたのはイタリアで資格を取ったソムリエ等々、これぞ代官山という店にあって客の我々だけがその場の雰囲気に馴染んでいないのは否定できない。それでもほぼ貸切の店内で楽しく2時間余りを過ごした。二次会は、その店の地下にあるbar。天井が高く、座り心地の良い高級なソファとジャズのライブのためのウッドベースが置かれたこちらも洒落た店だった。気心の知れたメンバーが残っていたので、話は盛り上がり、あっという間に時間が過ぎた。すでに次年度の人事は発表されており、プロジェクトのスタッフたちはバラバラになり、それぞれの部署に分かれていく。僕はこれまでにない異動の仕方をされており、今の自分が上司からどのように思われているのかが嫌という程分かる。半分は自分から望んで引き起こした事であるから別にショックという訳ではない。この状況を好機と捉えてやっていこうと思う。





 今日は休日。仕事はしない。午前中ゆっくり過ごし、昼過ぎにカバンに村上春樹騎士団長殺し」(新潮社)を入れて家を出る。

 先日『Hanako』のパン特集を見ていたら、木村衣有子さんが、この近くにできたコッペパンの店を紹介していたので昼食はそこにする。その駅で降りると駅前にその店があった。知人の店があった時はよく訪れていたこの街から知人が引っ越したここ数年はすっかり足が遠のいてしまっていた。そのためこんなパン屋ができたなんて全く知らなかったのだ。岩手の福田パンやその影響を受けた東京の吉田パンと同じように、コッペパンにいろんなものを挟んで売っている店。記事に載っていたコンビーフポテトとつぶあんマーガリンを買う。テイクアウト専門店なので店内で食べるわけにはいかない。そうだ、近くの川縁にカフェを併設しているあゆみブックスがあったから、そこでコーヒーを買って、天気もいいからそこの土手で食べようと店の前まで行くと、「2月で閉店しました」の貼り紙が。他の街であゆみブックスが閉店したという話を聞いていたのでもしかしたらと思っていたが、ここも無くなっていたらしい。この規模の店としては品揃えもよく、地元の本屋で手に入らない本があるとこちらまで買いにくることも何度かあった。地元から本屋が無くなるようなことがあったらここまで買いに来ようとも思っていたが、どうやらこちらの方が早かったようだ。残念。



Hanako (ハナコ) 2017年 3月9日号 No.1128[今、食べたいのは なつかしいパン。]


 諦めて歩き出すと、以前には無かったカフェができているのを見つける。スタバでもドトールでもない、知らないオレンジ色の看板の店でコーヒーをテイクアウトして河原に出る。天気もよく、風もほとんどない。土手沿いに菜の花が咲いており、その前は家族連れが多く座っているので、少し離れた護岸用コンクリートの上に腰掛けてコッペパンを食べる。この土手は就職してから約30年間、野外仕事の仕事場として利用してきた馴染みの場所だが、プライベートで来たのは初めてのようなもの。その野外仕事も上司の口約が守られればもう直ぐ担当から外れるはず。そうすれば、この河原にくることもほとんどなくなるだろう。そう思いながら、パンを二つコーヒーで流し込む。



 電車に乗り、馬車道へ向かう。車中は「騎士団長殺し」。まだ第一部の前半を読んでいる。とりあえず、これまでの村上春樹作品のショウケースのような小説だなあと思う。これをマンネリと思う人は嫌気がさすかも知れないが、僕はそれを面白がる方なので「あはは」と笑いながら楽しく読んでいる。



 馬車道駅で下車し、馬車道通りを歩く。日曜のこの通りは人出も多い。いい天気なので恋人たちも濡れる心配はない。目的地はこの通りにあるディスクユニオン。ジャズの中古レコードを買いに来たのだ。僕は、じっくり時間をかけて新入荷の棚を見て回り、ジーン・アモンズとサル・サルバドールとアイク・ケベックのアルバムを抜き出し、それをレジに持っていった。店員が「メールマガジンの登録はありますか?」と聞くので「ありません」と答えると「そうですか、ではこれとこれは黄色いラベルなのですが定価になります。これは新品なので定価になります。」と言いながら会計をする。どうやら、メールマガジンに登録していると黄色いラベルの中古品は10%引きになるらしい。それは別に構わないのだが、一つひとつ割引にならないことを伝える必要はあるのだろうか。なんだが自分が正当な手続きを取ることを忘れた間抜けになったような気がした。



ジャミン・ウィズ・ジーン
ジャズ・ジャイアンツに捧ぐ
ボサノバ・ソウル・サンバ+3



 馬車道駅から各駅停車に乗って帰る。別に急ぐ訳でもないので、途中で急行の待ち合わせがあったが乗り換えもしなかった。窓から午後の暖かい日差しが差し込み、「騎士団長殺し」を読んでいた目を閉じていつの間にか寝てしまった。