シングルの夜。/ダブルの旅。


 昨日は、朝から出張野外仕事。


 朝は肌寒い感じだったが、昼に近づくにつれ日差しが照りつけ、半袖一枚で大丈夫という気温になり、午後日が陰り始めると風の強さも加わってすぐにまた肌寒くなった。この時期の気温の上下動はやはりめまぐるしい。


 夕方5時過ぎに仕事が終わる。いつもならこのまま帰宅するのだが、7時半から横浜駅近くの焼肉屋で知人たちと待ち合わせをしているため、少々時間をつぶさなければならない。


 時間つぶしとくれば迷わず本屋へ。西口地下街の有隣堂に行く。

気まぐれ古本さんぽ

気まぐれ古本さんぽ

古本屋ツアー・イン・首都圏沿線

古本屋ツアー・イン・首都圏沿線




 地元の本屋では手に入らなかった2冊が平積みで並んでいた。よしよし。内容・装幀ともに兄弟のような雰囲気の本だが、やはりそれぞれ異なる個性を持っている。まだ、ちゃんと読んでいないので大雑把な言い方になるが、前者が事典とすれば、後者は辞書。辞書には辞書の、事典には事典の味がある。


 まだ、待ち合わせには時間があるので、地下街を出て西口の先にあるあおい書店へ。以前に一度来てその品揃えの見事さに感服した店なのだが、駅から少し離れているうえに周囲が僕があまり好きではない繁華街なので足が向かなかった。それを反省させるに充分な店として健在だった。ただ、建物全体が古く、照明も暗めで客もまばらなのがちょっと気になる。地元の本屋になかった文庫と新書を1冊ずつ購入。僕の後ろにも客がいるのに、若いバイト店員(と思われる)2人が、もうひとつのレジを閉めて両名で僕の相手をしていたのもちょっと不思議。大丈夫だろうかとも不安になる。いい店だからこれからもあってほしいと思う。


 あおい書店の下にレコファンが入っているのを知り、寄ってみる。いきなり入口に1枚100円のEP盤の入った箱がどかっと置かれていて面食らう。中に入ってみるとCDもあるが、レコードにかなり特化した店だった。最近、またアナログ盤でジャズを聴いたりしているので心が躍る。中古アルバムが大量に置いてあり、とても手持ちの時間で全部は見切れない。気になるプレーヤーの所だけ箱を漁ってみたが、欲しいと思う物がなかった。手ぶらで帰ろうと思ったとき、壁に新譜が並んでいるコーナーがあることに気づいた。そこにソニー・クラーク「リーピン&ローピン」(BLUENOTE)の輸入盤が置いてあるのを見つけてこれを買う。CDは持っているのだが、アナログ盤は持っていなかったのだ。ついでにEPの箱から昔持っていたさだまさし「雨やどり」とアルバムしか持っていなかったサザンオールスターズ「yaya あの時を忘れない」も購入した。シングル盤を聴くなんて何年(何十年)振りだろう。胸が踊るな。



 そろそろ7時半となったので入店待ちの若者が列をなす焼肉屋に入る。こちらは予約済みなので待たずに入れるのだ。遅れて今年大学を卒業したばかりの女子3名が到着。今日は彼女たちの遅ればせながらの就職祝いの会なのだ。久しぶりの再会なのだが、土曜の夜の焼肉屋は90分の時間制を敷いているため、挨拶もそこそこに、まずは何よりも肉を頼み、肉を焼き、肉を食わなければならない。スポンサーのいる安心感で彼女たちは普段頼まない「特上」メニューを連発、こちらも先日観た「孤独のグルメ」の焼肉屋のシーンが頭にちらついて焼肉モード全開のため、「特上」メニューよどんと来いである。ひたすら焼いて食べながら、それぞれの職場の話と僕の糖質制限生活の話を口休めにする。今日の食事代を払う人間なので彼女たちは僕の話をふんふんとよく聞いてくれる。焼肉の効果とはすばらしい。彼女たち3人とも今彼氏がいないと嘆く。まあ、こちらもシングルだから「今日はシングル4人の会だな」と言ったら苦笑していた。


 帰宅して、アルバム1枚とシングル盤2枚を聴いて満足。




Leapin & Lopin

Leapin & Lopin




 今日は休み。本日の予定は数週間前に買った自転車に乗って遠出をすることだ。糖質制限+運動でより効果的に中性脂肪や悪玉コレステロールを退治してやろうというわけだ。この前ホコリをはたいた20年以上前に買ったMTBは職場で野外仕事用に使うことになり、今は職場の駐輪場にある。さすがにメンテナンスもろくにしていなかった20年もので遠出は不安がある。そこで雑誌やネットで今時の自転車(今は「バイク」と呼ぶのですね)を眺めていたら、英国のメーカーのクロスバイクロードバイクとマウンテンバイクのクロスオーバーということらしい)を見つけて思わず衝動買いしてしまったのだ。もちろん、新しい自転車を買えば、いやでも乗らざるをえないだろうという見込みもあった。


 さて、ではどこへ行こうと考えたのだが、自分の行きたいところとなるとまず浮かぶのが本屋である。では、自宅から自転車で多少遠くても行ける距離にあってまだ行ったことのない場所ということで思い浮かんだのが代官山にある蔦屋書店だった。そこで本日横浜の自宅から代官山まで自転車を走らせることになったわけである。


 昼前に自宅を出て一路代官山を目指す。天気はいいが、風が強いのが気にかかる。多摩川を越えて東京都へ入るとき、強烈な横風を受けてふらついてしまう。横には自動車が走っているのだからヒヤヒヤものだ。道路交通法が改正され、自転車に関する規制も強化された。自転車は歩道を走ってはならず、道路の左側を走行しなければならない。しかし、自動車の側から見れば、横をふらふらと自転車に走られていたら邪魔くさくてかなわないだろう。もちろん歩道を走れば歩行者にとって邪魔者であることは言うまでもない。しかもそれは法令違反なのだ。中原街道には所々、車道に自転車専用レーンがあったり、歩道と平行して自転車走行ゾーンがあったりするのだが、それは突然現れ、そして突然消えてしまうのでその度に自転車素人となった僕は右往左往する。そして、路肩の自転車専用レーンには自動車が駐車しており、歩道横の自転車ゾーンには普通に歩行者が歩いているのだ。久しぶりに自転車に乗ってみて自転車乗りが感じているだろう思いが少しわかったような気がした。


 そして、思っていたよりも道の起伏があり、ちょっとした坂がどんどんとボディブロウのようにきいてきて少し意識が遠のくような感じになる。思い起こせば、今から20年以上前、まだ20代だった僕は買ったばかりのMTBに乗って冷夏と言われていたとはいえ横浜から埼玉の実家まで夏の日中に6時間ほどで走っていったことがあるのだ。そしてその時もこの中原街道を通っていった。そしてその時は途中の日比谷公園まで一度も休憩なしでサクッと行った記憶がある。ああ、あの時は若かったのだなあとしみじみと感じる。ふらふらと倒れるようにまだ走り始めて30分ほどなのに街道沿いのコンビニで自転車を止め、休憩をしながら昔の自分に羨望の目を向けてしまう。年齢はあの頃よりダブルスコアで勝っているが、体力や気力はダブルスコアで完敗だ。



 途中道に迷ったりしながらも、20代の体力はないが、GPS機能付きのスマートフォンはある現在の僕はなんとか代官山の蔦屋書店に到着した。ほぼ2時間を要したことになる。自転車を停め、店内に入る。思っていた通り、おしゃれな店におしゃれな人たちが闊歩している。汗をかいたスポーツウエア姿の僕はちょっと浮いている感じ。予想していたのと違ったのは店内がコンパクトだったこと。もっとゆったりとした空間を作っているのだと思っていた。ガラス張りの外向きの明るい部屋と間接照明のように意図的に薄暗いトーンにしている部屋をつくっている。昨日いったあおい書店のやむにやまれぬ薄暗さとこの店の薄暗さの違いを思う。


 この店を好きかどうかと聞かれたら、今日の僕は好きでも嫌いでもないと答えるだろうか。これはただこの店だけの問題ではなく、この店のある代官山周辺の街の雰囲気が、あまりに自分とそぐわないという現実の影響もあるだろうな。20代の頃なら憧れたかもしれないが、今の僕にとっては地に足の着かない場所としかこの街は見えない。なんだか現実ぽくなくて、信号待ちの時に、サドルの上で街を見ながら、ちょっと笑ってしまった。


 ただ、この蔦屋書店のような店もあおい書店のような店もどちらもあってほしいし、本屋はそういう振幅のある場所であってほしいとも思う。


 せっかく来たので何か1冊かって帰ろうと本棚を眺めていてこれを見つける。

パタゴニアふたたび(新装復刊)

パタゴニアふたたび(新装復刊)



 白水社創立百周年記念復刊の帯が付いている。横浜からここまでの道のりは自分にとっては旅のようなものであったから、旅のスペシャスト2人の対談本を選んでみた。地元の本屋では見なかった本なのでここで手に入れてもおきたかった。



 蔦屋を出て、恵比寿にある英国製自転車を扱う店に寄る。ここに来るのも今日の目的のひとつ。このメーカーの直営ショップは神戸とここの2カ所しかないのだ。ここでもちょっとした買い物をする。



 帰りは目黒通りを走り、多摩川にぶつかって左折し、しばらく多摩川沿いを走っていく。河原では草野球をする人たちの声、道路脇の店は外にまでテーブルを出してバーベキューの様なことをしている。ああ、休日なのだなあと思う。人々はこのようにして休日を過ごしているのだなあとヘンなことに感心する。



 中原街道に戻り、横浜に向かう。自分が自転車を買うまではまったく気にしていなかったのだが、道には多くのロードバイククロスバイクMTBが走っていることがわかる。その内のほとんどの人がヘルメットをかぶり、僕の自転車よりもギア数の多い、ロードバイクに乗っている。いつの間にこんなに増えたのだろう。自分の視点がちょっと変わるだけでこれまで見えていなかったことが見えてくるのが面白い。



 地元の駅前に着き、自転車を駐輪場に停めて駅ビルに入る。ここから自宅まではずうっと坂を登らなければいけないので、疲れた足をすこし休めたかったのだ。地上に降り立った僕の足は可笑しいくらいカクカクして創成期のロボットの様である。


 とりあえず、本屋に寄る。もう今日はなにも買わないのだが、やっぱり一日一回は地元の店にこないと落ち着かない。欲しい本があったり、なかったりする店だけどこの店もなくならないでほしい店のひとつだ。



 帰宅して蔦屋書店でもらってきた紀伊国屋書店のPR誌「scripta」37号を読む。“出版部60周年記念特集”ということで真ん中にカラー頁があり、岡崎武志さんが紀伊国屋新書のことを書いている。木皿泉荻原魚雷さんの連載もあるし、充実した雑誌だ。頁をめくっていて都築響一「ROADSIDE DIARIES」に目がとまる。6月17日〜21日の記述が『CREA』9月号で読んだ「村上春樹 熊本旅行記」のスピンオフの様なものになっていて面白い。旅行前に配られた吉本由美作成の「旅程表」が引用されているのもうれしい。



 その後、昨日録画しておいた「ブラタモリ」の富士山編を観てから風呂に入り足の疲れをほぐした。



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 先日書きました10月31日のアン・サリー・アコースティックライブのボックス席の件ですが、まだ席に余裕がございます。

 もし、ご希望の方がいらっしゃいましたらメールもしくはダイレクトメッセージをお送りください。