祭は終わった。


 昨日は、午前・午後と疲れるイベント2連発。自分のしている仕事は人と会ったり、話したりするのがその中心となるものであるが、このイベントの度になんでこんな苦手なことを仕事にしているのかと真剣に疑問を感じる。「向いてないよ、お前」と己に言ってみるが後の祭り。何の脈絡もなく昔読んだ木村敏「時間と自己」に出てきた“ポスト・フェストゥム(祭の後)”という言葉を思い出す。


 それでも昨日の朝、久しぶりに知人からメールが来てその内容に気分がちょっと高まる。その内容が「小学生の息子に新しい辞書を買いたいがオススメの辞書を教えてほしい」というものだったから。


 先日からサンキュー・タツオ「学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方」(角川学芸出版)を読んでいて、久しぶりに辞書熱が再燃していたところだったのだ。200冊もの辞書コレクションを持つという著者が11冊の国語辞典をとりあげ、それぞれの特徴をとても分かりやすくキャラクター化して説明してくれる。辞書は好きだからこれまでも何冊か辞書に関する本は読んできたが、知らないことや気づいていなかったことがあれこれと出てきて興味深く読んだ。著者が“総合力ナンバーワン”と薦める「集英社国語辞典」はこれまで持ったことがなかったな。今度手に入れてみようという気になる。そう言えば昨年暮れに「集英社国語辞典」の第3版が出ており、それを受けてTBSラジオ森本毅郎スタンバイ」で荒川洋治さんが「普通の国語辞典では載せない地名まで入っている百科事典的辞書」として褒めていたのを思い出した。このコーナーで荒川さんは定期的に辞書をとりあげていて、それを聴いて薦めていた小学生用の辞書を買ったこともあった。楽しみだったそのコーナーもこの春に終わってしまったのはやはり寂しい。





 知人のメールには「村上春樹の新作はどうでしたか?」という質問があった。僕が村上春樹作品を必ず読むことを知っているのだ。もちろん、読んだ。先週末の出張野外仕事の行き帰りの電車の中で、読んだ。ダウンロードしたラザール・ベルマンがピアノを弾いているリスト「巡礼の年」をiPodで聴きなら読んだ。たぶん、何人もの人が自分と同じように作中に出てくるこの曲を聴きながら読んでいるんだろうなと思いながら読んだ。



色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年



 「どうでしたか?」という問いには「いつもの村上春樹だなあと思った」と答えるしかないかな。もちろん村上春樹の小説が好きで読んでいるのでそれは褒め言葉だ。いつも通り楽しんだ。そして彼の短めの長編小説にいつも感じるどこか少し物足りない感じもいつもと同じだった。ヤナーチェクの「シンフォニエッタ」のCDが売れるように、今回もリストの「巡礼の年」のCDが売れるんだろうなと思った。それから、もしトヨタのレクサスの売り上げが伸びたとしたらすごいなと思った。皮肉ではなく、それもまぎれもなく文学の力だと思うから。



 メールには村上春樹の新作を買いに行って結局買わずに岸恵子の新刊を買って帰って来たことが書かれていた。岸恵子の愛読者なのだそうだ。“岸恵子”かあ。知人はいつも僕の死角をつく言葉を投げかけてくる。それが心地いい刺激になることがよくある。彼女の作品となるとやはりパリが出てくるのだろうか。

 



 そんなことを思っていたら上司から「ちょっと」と声をかけられ、呼びだされる。内容は今年の夏に2週間のイギリス出張をする予定の同僚がよんどころない事情で行けなくなりそうであり、その場合は代わりに僕に行ってもらうから覚悟をしておけということだった。これが決まればミレニアムの翌年に行って以来の渡英ということになる。大好きなロンドンには1泊しかできないようだがまだ行ったことのない地方を見ることはできる。ただ、もしこの時期に2週間日本を留守にしたら、その後の仕事が切迫するのは明らか。喜んでいいのか悲しんでいいのかちょっと判断に困るが、正直ロンドンオリンピックという祭の後の英国に行ってみたいとは思う。

 家に帰り、録画しておいたNHK朝の連ドラ「あまちゃん」を観る。宮藤官九郎脚本ということもあり、珍しく初回から一度も欠かさずに観ている。小林信彦氏が既に目をつけているようにヒロインの能年玲奈は笑顔で勝負できる久しぶりの逸材感を出しているし、なんてったって片桐はいり、美保純、木野花渡辺えり宮本信子が同じ画面におさまっているという脇の役者たちの豪華さ。これに荒川良々キョンキョンもいるんだから眼福と言うしかないドラマだ。北三陸でも秋祭りが終わり、北の海女の活動も終わろうとしている。海に入れなくなったらどのように物語は展開していくのだろうか。



 今日は出張野外仕事を同僚に頼んで休ませてもらう。4月に入って日曜日を一度も取れず、来週の土日も仕事が決まっているのでここらで休んでおかないとパンクしてしまう。


 目覚めるとその寒さに嫌になる。一日家の中に籠っていたくなるが、昼から職場に行ってやっておかなければならない仕事があるため、しぶしぶまだ冷たい雨の残る中を出て行く。結局休みをとって仕事かよと思うが、これでも寒い雨の中を一日野外で過ごす出張野外仕事と比べれば屋内でのデスクワークは天国で天使と戯れているのに近いような気さえする。たぶん、気のせいだと思うが。



 夕方まで仕事をして退勤し、本屋へ。

昨夜のカレー、明日のパン

昨夜のカレー、明日のパン



 脚本家の木皿泉初の小説集。同じ河出書房新社から先に出た『文藝別冊 総特集 木皿泉』はすでに購入済み。こちらにも小説集には入っていない未発表小説「晩パン屋」が収録されている。併せて読んでやろうと楽しみにしている。

 「京都の平熱」は、京都出身の哲学者による京都案内。今年の秋に数日間の京都出張が決まっているためその予習のために買ってみた。けっこうな枚数の写真(撮影・鈴木理策)が入っていて、この写真がいいのも買う気になった一因だ。



 帰宅して、大江麻理子アナなきあとの「モヤさま」を観る。まあ、しばらくは泳がしておこう(?)という感じ。


 なんだか鼻水が止まらない。明日も寒いのだろうか。ああ、日曜が終わってしまう。