洗濯物が乾くまで古本でも買いに行こう。


 今日は仕事が休み。


 目覚まし時計のベルに起こされない朝のしあわせ。


 台風一過で空が青い。洗濯をして干す。


 昼前に家を出る。電車に乗って神保町へ向かう。


 車内では積ん読になっていた稲泉連「復興の書店」(小学館)を読む。第一章『本は「生活必需品」だった』を読みながら何度も本を閉じて立ち止まる。まだ生活物資も充分ではない状態の中で再開した本屋へ本を求めて多くの人々が集まってくるその姿に感情が高ぶってしまうのだ。もちろん、僕の感情など単なる感傷に過ぎない。震災時も現在も一貫して安全地帯に居続けている自分の感情などなんの足しにもならないものである。ただ、自然と人為の猛威にさらされた被災地を復興させていくのは冷静な状況判断というハンドルと感情というエンジンがなければならいとは思う。


復興の書店

復興の書店



 神保町で下車。みずほ銀行でキャッシュディスペンサーから金をおろす。先日やっと口座に入金があり、緊縮財政を脱することができたのだ。昼食をとりに丸香にむかうが昼時で長蛇の列。引き返してさぼうる2でいつものナポリタン。


 三省堂の4階へ。




 中野さんの本は「本道楽」(講談社)を読んで以来チェックしている。専門書は近代専攻だった者としてはなかなか手が出ないが新書や選書などの入門書系であれば手が出る。この本は講演をまとめたものなので触手が動いた。

 『レポ』はともに“山田うどん特集”。TBSラジオ「たまむすび」で北尾トロえのきどいちろうのお二人がそれぞれ別の時に出演し、ともに話した“山田うどん”のことが面白かったので購入。埼玉に生まれた僕にとってもロードサイドで回る山田の案山子の看板はまさに原風景といえるものだ。



 地下鉄を乗り継ぎ、早稲田へ。空は相変わらずの晴天。穴八幡の朱色の鳥居をくぐり、その名にふさわしい「早稲田青空古本祭」に行く。


 いつもの書店名に加えて“青聲社”の文字があるのが目新しい。例年通り1時間近くかけてテントを何周も回ってしまう。

 野見山本は最近河出文庫で復刊されたものの親本。復刊を寿いで文庫を買ったのだが、以前に読んでいたものと同じ版で活字が小さいままなのが残念だった。折角の復刊であるから読みやすい今と同じ大きさの文字で改版してほしかった。そのため、活字の大きい単行本で読み直したくなったのだ。

 向井さんに挨拶をして会場を後にする。平日なのに多くの人が本を求めに来ていたのが印象的。4日も時間が取れるため会期中にもう一度来れそうだ。


 また地下鉄に乗り、中野へ。中央線に乗り換えて西荻窪下車。今この駅に降り立ったと言えば、行く先は言わずと知れた開店したばかりの“古書西荻モンガ堂”である。

 場所はグーグルの地図で検索済みなので道に迷いはない。改札を左に出て高架下を貫く通りを左へまっすぐ進む。ラーメン「青葉」を過ぎ、善福寺川を渡り、幸福の科学を横目で眺め、そのまま進むとセブンイレブンにぶつかる。セブンを左に見て都道4号線に出る。4号線を渡り、左に向かって100Mほど進むとライオンズマンションの1階に“古書モンガ堂”があった。


 店頭の100均棚をまずチェック。いい店は例外なくこの棚が充実している。これが100円という本が多数ある見事な均一棚だ。
 店内に入る。予想通り、レベルの高い本が棚にびっしり詰まっている感じ。僕の感覚で言うところの駄本は1冊もない。思わず棚を隅から隅まで眺めてしまう。結局この2冊を選ぶ。


ソシュールを読む (講談社学術文庫)

ソシュールを読む (講談社学術文庫)

一般言語学講義

一般言語学講義

ソシュールを読む (岩波セミナーブックス 2)

ソシュールを読む (岩波セミナーブックス 2)



 青空古本祭で「四百字のデッサン」を買ったので未読の野見山本も読んでみたくなった。
 「ソシュールを読む」は棚貸ししている「とみきち」さんの棚から。大学時代、フェルディナン・ド・ソシュール「一般言語学講義」(岩波書店)を買ってはみたもののどう手を付けてよいか分からなかった僕に先輩が「丸山圭三郎の本を読んだ方が原典を読むより分かりやすいよ」とアドバイスをくれ、紹介してくれたのが親本に当たる岩波セミナーブックスだった。早速買って読み、まるで新しい機能を搭載した最新型のスマホを手に入れた大学生のようにワクワクした。あの当時、記号論の基礎となるソシュール構造主義的言語論はまるで何でも分析可能なものにできる魔法の杖のような印象だったのだ。もちろん、この世にそんな魔法の杖などないことをすぐに知ることになるのだが。杖が、魔法を持たなくても現実的に役立つ道具であるように、記号論的な視点も物事を考えて行く時に有効な分析手段となりうることに変わりはない。ただ万能ではないだけだ。



 店主のモンガさんと少しお話をしてから店を出る。新しく始めた店をどうしたらよりよいものにできるかを熱心に探っている様子が言葉の端々から伝わってくる。場所は少し離れているが、西荻の古本散歩に新しいコースが加わったことを喜びたい。


 歩いて西荻窪駅前に戻り、そのまま盛林堂を目指す。この店で行われている“古本ナイアガラ”をまだ覗いていないのだ。店のシャッターが閉まっているのを見て初めて今日が定休日であることを知る。古本屋の定休日はどこも火曜日だと思い込んでいたのが失敗のもと。


 では他の店を回ろうかと思った時に洗濯物が干したままであることを思い出す。折角干したのに夜露に濡れてしまっては元も子もない。


 洗濯物をとりこむために急いで帰る。