どこにも行けない。


 世間は三連休だそうである。「へ〜ん、ばあろぅ、なにが連休だよ」と昨日も通常通り仕事をし、今日は朝から出張野外仕事をしながら心の中で思いつつ過ごす。


 ここ数年通りの梅雨とは名ばかりの晴ときどき集中豪雨の日々を過ごしているうちにもうすっかり梅雨明して夏真っ盛りというような直射日光に照らされて仕事をするうちに連日の疲労と相まって一瞬意識を失いそうになり、周囲のスタッフに気兼ねしつつも自分のパイプ椅子を日陰に向けて少しずつ移動して何とか倒れずに一日をやり過ごした。



 思えば昨夜は午前様だった。仕事を終えて、夜に自分が大学時代を過ごした街へ行った。大学を出て就職試験に失敗し、同じような境遇のものたちが集まって臨時雇いの仕事をしていた職場がこの街にあり、そのとき同僚だった人たちと20数年振りに再会する会があったのだ。あの頃はもう学生ではなかったのにまるでクラブ活動のように仕事のあがりを待って連日この街にある居酒屋へ行き、くだらないことを話しながら終電近くまで過ごしていた。その店が今でも続いており(建物の内装も変わり、増築もされているが)その店でまた四半世紀振りにこうして会っている不思議を楽しんだ。姿には時間の刻印があちらこちらに見えはするが、人間はまったくと言っていいほど変わっていない。しばらく忘れていたあの頃の鬱屈と充実がないまぜになったような時間が甦ってきた。あれからずいぶんと時間が流れ、遠くに行ったような気がしていたが、実は同じ場所にずうっといたような変な感覚だった。




 そんな寝不足と暑熱にやられてぼうっとした頭で仕事帰りに横浜駅西口の有隣堂に寄る。サイフには到来物の図書カードがある。今日はこの2000円分の使い道を決めに来たのだ。文学の棚を見、新書、文庫、雑誌、映画、サブカルと見て回り、最後に辿り着いたエッセイの棚の前に平積みされていたこれと出会う。


お言葉ですが…〈別巻5〉漢字の慣用音って何だろう?

お言葉ですが…〈別巻5〉漢字の慣用音って何だろう?



 この「お言葉ですが」の別冊シリーズも5冊を数えるようになったのか。新刊が出ていたことに気づかなかった。『週刊文春』の連載が中止になった(今でも毎週買っているが納得いかないぜ文春)現在、高島さんの文章に触れる喜びはこのシリーズと講談社のPR誌『本』の連載しかない。



 図書カード+310円で高島本を手に入れて、空のペットボトルが数本入ったバッグにしまう。本をクレジットカードで買うことには抵抗があり、記憶では一度もカードで本を買ったことはないが、図書カードで買うのは何か特別なことをしているような高揚感があり、結構好きだな。




 地元に戻り、柚塩味の冷し中華とサービス餃子で夕食をとってから帰宅。




 ぼんやり「平清盛」を見ながら、「ああ、明日も灼熱の出張野外仕事か」と思う。この連休注目のイベントであった国立で行われている「岡崎武志一人古本市」にも行くことができない。そんなことを思っていると昼間の暑熱が残った部屋に汗が噴き出す。まだクーラーは使いたくないため手近にあった団扇であおぐ。その団扇は何年も前に下鴨神社の古本まつりに初日参加した時にもらったものだ。ここ何年も古本まつりの時期は長期の出張とぶつかっており、京都に行くことができない。今年ももちろん同様だ。「へ〜ん、夏休みなんて嫌いだよ」とつぶやき、頭に冷えピタを貼って寝ます。