三十年を1日で。


 朝早く起きて湘南新宿ラインに2時間乗る。地方で行われる知人の親族の告別式に出るためだ。


 本を読む時間はたっぷりあるので遅まきながら名著と言われるこれを持ってきた。


筑摩書房の三十年 1940?1970 (筑摩選書)

筑摩書房の三十年 1940?1970 (筑摩選書)


 古田と臼井という二人の若者が出会い、いろいろな人間たちを巻き込みながら筑摩書房という出版社を立ち上げ、いつ倒産してもおかしくないような採算度外視の出版を繰り返していく。特に戦後は手形の不当たりにおびえながらその時々のベストセラーにより首の皮一枚で踏みとどまることの繰り返し。和田芳恵の筆は客観的な事実を列挙するのではなく、エピソードを連ねて物語を紡いでいく小説家の筆だ。だから読んでいて面白い。



 下車した駅からは雪をかぶった山並みがきれいに見える。タクシーで式場へ。告別式に参列し、焼香を終えて帰りは歩く。都会と違い、道路で流しのタクシーを拾うのは至難の業なのだ。駅にたどり着いた時には昼となり、空腹を覚える。しかし、駅前に一軒ある食堂はシャッターを下ろしてひっそりとしている。


 しかたなく、来た電車に乗り2時間かけて帰る。



 職場により、預かってきたお返しを同僚の机に置き、近くのマクドナルドで遅い昼食。ブロードウェイバーガーを食べるが、作り置きなのかなんだかぼんやりした味。これもピンと来ないポテトを食べながらこれからどうするかを考える。実は今夜別のお通夜があるのだが、一旦家に帰ってから出直すか、それともこのままどこかに寄って時間をつぶしてから行くか決めかねているのだ。ふと、今夜行く駅が神保町から1本で行ける場所であることに気付き心は決まった。


 「筑摩書房の三十年」を読みながら神保町へ。


 東京堂でまず1冊。

狩猟文学マスターピース (大人の本棚 )

狩猟文学マスターピース (大人の本棚 )


 大好きな“大人の本棚”シリーズの1冊。地元の本屋にもみすず書房の棚があるのだが、最近“大人の本棚”は入荷しないのだ。


 続いて三省堂へ。

  • 杉本秀太郎「だれか来ている 小さな声の美術論」(青草書房)


だれか来ている―小さな声の美術論

だれか来ている―小さな声の美術論


 知らない出版社から知らないうちに出ていた1冊。昨年の7月に刊行されている。誰かが昨年の収穫に挙げていたので知り、探していたのだけれどここで初めて見つけた。さまざまな媒体に書いた美術に関するエッセイを集めたもの。短文が多く、少しずつ読み進めたい本。



 伯刺西爾でコーヒーを飲んでから電車に乗る。ここでも「筑摩書房の三十年」。綱渡りの経営が「現代日本文学全集」でなんとか安定するところで三十年史は幕を閉じる。もちろん、我々はこのあと筑摩書房会社更生法の対象となってしまうことを知っている。やはり永江朗筑摩書房それからの四十年」も読まなくてはならないかなという気持ちになる。



筑摩書房 それからの四十年 1970-2010 (筑摩選書)

筑摩書房 それからの四十年 1970-2010 (筑摩選書)



 目的の駅に着き、お通夜へ。焼香をしながら鬼籍に入った人と出会ったのは三十年ほど前、まだ10代だったのだと気づく。



 帰りの車内は読書にも疲れたので、録音しておいたラジオドラマ「LET IT PON」(木皿泉脚本)をiPodで聴く。ちょっと「平成狸合戦ぽんぽこ」を思いださせるような話。実写よりアニメにした方が似合うかな。