日曜日の百人組手。

 今日は昼から仕事。おかげで朝ゆっくりできたのだが、同僚からの電話で仕事モードに戻される。


 昼前に家を出て、電車に乗りみなとみらいへ向かう。車内では沢木耕太郎「ポーカー・フェース」(新潮社)を読む。「バーボン・ストリート」、「チェーン・スモーキング」に続くエッセイ集という触れ込みで小島武挿画・装画とくればやはり期待してしまう。最初の「男派と女派」を読みながら、そうそうこの感じという沢木節を味わう。背中のどこかが少しむずがゆくなるあの感じ。嫌いじゃない。


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 日曜日のみなとみらい周辺はカップルや家族連れでにぎわっている。スーツにネクタイという己の姿の不釣り合いと休日も仕事にかり出される身の不幸をちょっと嘆く。



 正午の行楽地は昼食を求める人々によってどこも長蛇の列だ。くまざわ書店のある最上階まで昇り、眩しいくらいに明るい書店を一巡してからどこかすいた場所で仕事前の腹ごしらえができないかと探していると村上春樹作品に出てきそうな名前のバーがランチをやっているのを見つける。その外見が功を奏してかカウンターに空席が幾つかあった。野菜カレーとジンジャエールを頼む。店内でスーツ姿はこちらひとり。それを見てか人懐っこうそうな店員が「お客さんは今日お仕事ですか?」と聞いてくる。「ええ、午後から仕事です」と答えると、気の毒そうに「日本人は日曜も休まないっていいますよね」と返してくる。「キリスト教と関係のない仕事をしているもので、仕方ありませんね」とちょっと気の利いた返事のつもりで言ってみたのだが、意味が通じなかったらしく微妙な笑顔で受け流されてしまった。こんな会話をしてしまったのも沢木耕太郎エッセイを読んでいたせいかもしれない。



 大きな会場にやたらめったら大勢の人間がいる現場で夕方までノンストップで仕事をする。まるで空手の百人組手のようだ。時間を気にする余裕がないためあっという間に終了時間になるのはいいが、後でどっと疲れるんだよな、ここの仕事は。


 仕事を終え、上司ともう暗くなったみなとみらいを駅に向かって歩いているとある仕事を頼まれる。これで今年のクリスマスは出張で遠くへ行くことが決定した。もう十数年読み返していない「羊をめぐる冒険」でも持って出張先のホテルで読もうかな。あの作品を読むにはもってこいの場所だろう。



 途中下車して知人のパン屋に寄り、パンを買ってから帰宅。 ミートソースとパンで夕食をとり、昨日買ってきたコーヒー豆でいれたコーヒーを飲む。


 今夜はもう少し「ポーカー・フェース」を読んでから、NHKBSでやる小津安二郎秋刀魚の味」を観て笠智衆のポーカー・フェースを楽しむとしよう。