古本屋の恋。


 昨日、同僚の女の子の名前が今年度の退職者一覧に載っているのを知り、ちょっとショックを受ける。所属が違うのであまり話したことはないのだが、掲示板を前に頬に手を当てて思案する仕草などが今時の20代とは思えない昭和テイストを漂わせている子で、彼女の姿が目に入ると何だか癒される貴重な存在だったのだ。僕が台車を出そうとすると居合わせた彼女が無言でドアを開けて待っていてくれたことが2度あり、最近職場で殺伐とした気持ちでいる中年男としてはそのささやかな気遣いが心にしみるのだった。


 昨日はそんな寂しい気持ちを抱えて退勤後本屋に寄ると気になっていたこの本が入荷していた。

  • 山川方夫「目的をもたない意志」(清流出版)

目的をもたない意志―山川方夫エッセイ集

目的をもたない意志―山川方夫エッセイ集


 「夏の葬列」で名を知られた作家のエッセイ集。僕が5歳の時に交通事故でこの世を去っている作家のエッセイをセレクトしたものだが、まず目を引くのは「中原弓彦について」という一文だ。これは中原弓彦小林信彦)「虚栄の市」の跋として書かれた文章で、内容以上にその文体が香ってくる感じがする。僕にとって山川方夫という作家はまず編集者・中原弓彦によって雑誌『ヒッチコック・マガジン』誌上でショートショート作家としての才能を見いだされた人として認識されている。



 今日は、仕事を終えて文房具屋で買い物をし、サブカル系古本屋へ。いつもはバイトの男性1人が店番をやっていることの多い店なのだが、今日は新人女性バイトが入ったらしく2人で店番をしていた。男性バイトは明らかにその女性バイトの存在によってテンションが高まっており、当人以上に周囲がはっきりと感じられるうわずった声で女の子に好きな音楽や趣味のことをあれこれと質問している。この女の子がなかなか相づちなどのリアクションがうまい子なので男性はますますテンションを高めて行く。そんな恋(片想い?)が始まりそうなムズムズする雰囲気に当てられて何も買わずに店を出た。


 帰宅して、先日wowowで録画しておいた2010年1月に行われた立川志の輔志の輔らくごinPARCO」を観る。
 ちょうど2011年の「志の輔らくごinPARCO」を賞賛した『Monthly Takamitsu』157号を読んだばかりだったので、1年前の高座ではあるが見てみたくなったのだ。今年は「だくだく」、「ガラガラ」、「大河への道」の3作だったそうだが、去年は「身代りポン太」、「踊るファックス二〇一〇」、「中村仲蔵」の3作である。「踊るファックス」が一番笑えたが、最後の「中村仲蔵」がじっくりと落語を堪能させてくれる。仲蔵の芝居を観て感激した客の様子を2様演じるのだが、これがうまい。ここが決まらないと中村仲蔵の一世一代の演技が噺の聴き手に伝わらない。それがうまいから素直に感動できるのだ。さすが志の輔師匠。これを1カ月続けるその力は尊敬に値する。いいものを観た。


 谷沢永一さんの訃報に接する。僕は大学時代に日本近代文学研究を席巻していた三好行雄流の作品論に対して真っ向から異議申し立てをして闘いを挑んだ人としてこの名前を知った。

 谷沢さんと言えば「紙つぶて」。最近の“自作自注最終版”を謳った単行本も持っているが、やはり文庫版の「紙つぶて(全)」を読み返したい。