秋のオースティン・アワーズ。


 朝、仕事場でひと仕事を終えてから出張野外仕事へ。


 駅への坂道を登っていると予想以上に日差しが強く暑い。コットンのジャケットを脱ぎ、ネクタイをはずしてカバンにしまう。


 電車とバスを乗り継いで出張先へ。思ったより休憩時間が長く取れたため、木陰のベンチに座って携帯本のジェイン・オースティン「ノーサンガー・アビー」(ちくま文庫)を読む。オースティンが二十代前半に書いた初期作品。ゴシック小説ファンのヒロイン・キャサリンが主人公なのだが、リゾート地バースで理想の男性ヘンリーに出会う前半はまさにいつものオースティンワールド。自己中心的で笑ってしまうくらいに鼻もちならないジョンとイザベラのソープ兄妹が最高。この最高に素敵な嫌なやつを読むためにオースティンの作品を読んでいるようなものだ。いつ読んでもその思いを満足させてくれる。

 そんな至福のオースティン・アワーズを過ごしているうちに午後も深くなり、木陰に吹き過ぎる風はいつの間にか肌寒くなって来たので、ジャケットを羽織って仕事の仕上げにかかる。


 夕方仕事を終えてバスの終点である横浜駅西口にある有隣堂に寄る。いつの間にかリニューアルしており、両側にあったレジが片側のみになっていた。ここで探していた本を見つける。

本の読み方

本の読み方

 昨日、ポストに『彷書月刊』10月号が届いていて、その特集が“草森紳一の右手”だった。ページをめくると草森さんの手書き文字があちこちに溢れていてとても魅力的な誌面となっている。そんな雑誌を見ながら昨晩探していたこの本をまだ入手していないことを思い出したのだ。


 この本は今はなき雑誌『ノーサイド』に連載された同名のエッセイをまとめたもの。この雑誌を毎月購読していた時に楽しみにしていた連載がこの草森さんと高島俊男さんと武藤康史さんの3つ。高島さんのものはすでに文春新書で本になっているので、まだ書籍化されていないのは武藤さんの「文学鶴亀」だけ。日の目を見る日が早くくること期待したい。


 帰宅して「ノーサンガー・アビー」を読了する。これでちくま文庫のオースティン作品の中野康司新訳シリーズも残りはあと1作だけ。うれしいような、さびしいような。


 続いて「本の読み方」を読み始め、中断して『彷書月刊』の特集を眺める。草森氏がこの世をさり、この雑誌もまた来年の2010年10月号をもって姿を消すことを思うとしばしページを繰る手が止まってしまう。『彷書月刊』がきびしいという話を知り、数年前から店頭買いではなく、定期購読にしたのだが残念な結果になってしまった。あと1年定期購読を続けることしか自分にできることはない。