揚げ物で花びらを。

 仕事を6時で終え(というか放り出して)、花見に出かける。机の上のピンクの付箋じゃ満足できない。


 渋谷で副都心線に乗り換える途中の東急フードショーでつまみを買う。まずは水泳の北島康介選手の実家である西日暮里の北島商店が出張販売をしていたので、コロッケとメンチを籠に入れる。武藤良子さんから「つまみは揚げもの以外にしろ!」というきついお達しがあったが、この機会を逃すと食べ損ねると思い買っておく。すると近くに「弦斎カレーパン」という看板をあげている店があるではないか。平塚にある高久製パンというところが村井玄斎「食道楽」のレシピを参考にして作ったというカレーパンだ。これも本に関わる“わめぞ”の人たちにはウケるだろうと買う。あ、これも揚げものだった。


 雑司ヶ谷の駅を出て、みちくさ市の会場である商店街を歩き、布団屋さんの角を左に折れてしばらく行くと公園らしき場所が見える。道路から下がったところに散り終わろうとする桜の木の下でブルーシートを敷いて座ってるグループが見える。聞き覚えのある武藤さんの声が聞こえた。


 合流して、先ほど買ったつまみを出すと案の定「あれほど揚げものはいらねーって言ったじゃん」という武藤さんの叱責を浴びる。それを受けてこれがただの揚げ物ではないことをアピールしようと「いや、これは弦斎カレーパンなんですよ」と言ってみるが、「村井弦斎って誰?」と聞かれ難なく撃沈。とりあえず、知っている範囲で説明するが武藤さんには納得してもらえなかったようだ。


 花の下で飲み食いしながら話は武藤さんが新撰組近藤勇に似ているという話題になる。武藤さんは新撰組近藤勇もよくわからないというので微力ながら説明に努めるがうまくいかず。退屈男さんや向井さんもあれこれと説明するが武藤さんにとって近藤勇はいまだ謎の人物のままらしい。


 武藤さんは近藤勇だけではなく梶井基次郎にも似ているという話になり、「桜の樹の下には死体が埋まっている」という有名なフレーズが誰かの口にのぼり、それがいつの間にか「桜の樹の下に武藤さんを埋めてしまおう」というとんでもない方向に変わっていった。別に桜の下に梶井基次郎が埋まっているわけではないのに。


 往来座の瀬戸さんから月の湯における伴健人商店の売上をいただく。30冊以上売れたようだ。月の湯の盛況ぶりがうかがえる。


 明日の仕事もあるため10時過ぎに途中退席して帰る。


 帰宅して歯を磨こうと洗面所の鏡の前に立つと、髪の毛の上に桜の花びらが一枚ついていた。揚げ物のお礼だろうか。