満腹満足仙台。

 
 
 朝、家を出て東京駅へ。

 少し早く着いたので新丸ビル内のスターバックスでカフェラテを飲む。ふと周りを見回すと女性ばかり。土日の一般的な会社員の休日となると朝の電車やバスなどの女性占有率はかなりのものになる。仕事がら土日の朝に動くことが多く、いつもそう感じる。女性によって支えられている部分の多いことを実感する。


 新幹線乗り場に行ってみると人々がざわめいている。長野新幹線が止まり、山形新幹線も福島以北で動いていないというアナウンスが。辛うじて仙台に向う東北新幹線が正常に運行しているのだ。ほっとする。


 MAXの1階席に腰を落ち着け、持ってきた浅生ハルミン「帰って来た猫ストーカー」(洋泉社)を読みだす。今日の4時から仙台のstockというカフェギャラリーで浅生ハルミンさんと海月書林市川慎子さんのトークショーが行われる。仙台のブックカフェ火星の庭の前野さんたちが行っている「ブックブック仙台」というイベントの一環で、今回はそれを聴きに行くついでにかの地の古本屋を回ってこようという旅だ。その予習を兼ねての読書。


 毎回猫を追ってハルミンさんはいろいろな場所に行く。いろいろな猫がいろいろな行動をとり、それをいろいろな人が見ている。猫をストーキングしながら、その場所やそこの人たちがハルミンさんによって発見され、意味づけられていく。たぶん、僕が同じ場所にいて同じ場面を見たとしても同じ体験をすることはできないだろう。他の誰でもないハルミンさんの世界がそこにあり、だからこそ猫の好き嫌いにかかわらずこの書を読む意味も喜びもそこにあるのだ。仙台に着く前に読了

 昼に仙台着。まずは、駅ビル内の牛タン屋が居並ぶ横丁で上タン定食(塩)で昼食。やっぱりこれを食べなくちゃね。たとえ牛タンが外国からの輸入品であったとしても。


 腹ごしらえを済ませ、宮城県美術館に向かう。行って休館であることを知る。もう年内の開館は終了したらしい。洲之内コレクションとの再会はお預け。戻って今日泊まる東横イン仙台西口広瀬通り店にチェックイン。荷物を置いて火星の庭に向かう。


 確か4年振りだと思われる火星の庭に入るとそこには荻原魚雷さんや退屈男さんたちの姿があった。魚雷さんは昨日、退屈さんは今朝仙台に来たとのこと。


 手作りのブルーベリーケーキとブレンドを注文し、本棚を見て回る。2度目の火星の庭もやっぱり素晴らしい店だった。ブックカフェと呼ばれる店で僕が行った店のほとんどがブックかカフェのどちらかに偏ってしまい、両方が満足できる店は少ないのだが、ここはフィフティフィフティ。両方が高いレベルで共存している。
 おいしいブルーベリーケーキを堪能してこれらを買う。


 吉田本はあずき色の復刊シリーズの1冊。種村本は火星の庭に常設されている魚雷さんの文壇高円寺棚から。欲しかったふちがみとふなと最新アルバムをこちらで入手できた。うれしい。


 では、後ほどイベント会場でと挨拶を交わし、店を出て仙台の街を歩く。雪が降っている。北の街に雪はやはりよく似合う。年の瀬だなあという実感が沸々と湧いてくる。生活の場を離れ、仙台で雪に降られて歩いているということがなんとなく贅沢で得難い時間であるように思えてくる。


 時間調整に仙台駅付近のブックオフに入る。せっかくここまで来たのだからと来年の外市用に文庫本を何冊か購入する。棚を眺めていたら後ろから岡崎武志さんに声をかけられてびっくりする。先程在来線を乗り継いで到着したのだとのこと。ではまた後ほどと別れてイベント会場へ。


 一階が楽器屋のビルの2階にあるstockに入るとすでに司会の向井さん、主役のハルミンさんと市川さん、それに畠中さんの姿があった。会場はこぢんまりとしているが趣味の良さがうかがえる空間だ。古本も置かれており、海月書林の本を販売している棚もある。この棚を目当てにくるお客さんもいるとのこと。


 開会の4時半が近づき、お客さんが集まり始め、先ほどお会いした魚雷さん、退屈さん、岡崎さんも来店して用意された座席はすべて埋まった。


 トークショーは向井さんの巧みな司会でゆったりと始まった。まずはお二人と古本との出会いが語られる。共通しているのは、友人から不思議な目で見られる古本少女であったこと、それぞれの古本屋で働いた経験があり、それが今につながっていること。そして、二人が近代ナリコさんを仲立ちとして知り合い、その3人でセドリツアーに行った話などで盛り上がる。向井さんは手際よく、二人の古本との関わりの歴史をたどりながら、ここ10年ほどの古本界の流れの見取り図を聴衆に提示してくれる。ああ、そうそう、そうだったと頷きながら聞き入ってしまった。
 その後、ハルミンさんの「帰って来た猫ストーカー」映画化の話や市川さんの「おんな作家読本」制作裏話など興味深い話題を盛り込みながら、1時間半のトークショーは無事終了。雪の降る夜に囲炉裏端で親戚のお姉さんの話を聞いているようなリラックスしたいい時間だった。

帰って来た猫ストーカー

帰って来た猫ストーカー

おんな作家読本 明治生まれ篇

おんな作家読本 明治生まれ篇

 終了後、お二人サイン会と親睦会。来年にはハルミンさんのエッセイ集が晶文社から、市川さんの『いろは』最新号が刊行予定だとか。楽しみだ。


 今夜帰るという向井さん、ハルミンさん、市川さんと別れ、残りの人たちで広瀬通りにあるトンカツ屋の岩松で2次会。

 トンカツ屋なのに魚介の盛り合わせが出てくる。これがすべてうまい。クジラの赤身、ウニ、アンキモ、白身魚の刺身、貝など新鮮で言うことなし。〆にはなぜかトンカツが出てくる。もともとトンカツ屋なのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。これが、なんとも言えず肉厚で大きいのになんともジューシーでやわらかくうまいのだ。今度は白いご飯とともにトンカツ定食として食べてみたい。東川端さんがもし仙台に来ることがあったら、ぜひ寄って欲しい店だ。


 11時頃散会。おなかいっぱいおいしいものを食べて満腹、満足の会でした。皆さんと別れて僕はそのまま広瀬通りを歩いて宿へ。