久しぶりの雨の朝。
バスに乗っていく。
仕事で面白くないことがあり、イライラっとする。そのもやもや感がいつまでも取れない。
溜まった領収書を整理し、この半年余りの立て替え分の請求書類を作る。予想はしていたがなかなかの金額となった。ただ、一枚数万円分の領収書が見当たらず。絶対、きっと、必ず探してみせる。
退勤の時になっても、まだ気分がはれない。先日手元に戻ってきた立て替え分9000円ほどの入った封筒をわしづかみにして職場を出る。
本屋で憂さ晴らしにガツンと買ってやろうと思う。
本屋の入り口で、中年の女性が男性書店員を捕まえて「謝りなさい!」などといつまでも文句を言っている甲高い声が棚の間を通って聞こえてくる。怒るべき正当な理由があるのかもしれないが心休まる場所である本屋で、いつまでも感情的な金切り声を聞かされているのは今日のような気分の時は耐え難い。おかげで本を買っても気分はあまりよろしからず。
仕方がないので、いつものトンカツ屋でロースカツ定食を食べる。合間に『波』から平松洋子さんによる堀江敏幸「未見坂」書評を読んだ。
帰りのバスではiPodに入れておいた桂米朝噺が尽きたので、ポッドキャストで若手落語家の噺を聴きはじめたのだが、どうしても気が入っていかず、音楽に切り替える。
風呂に入る。入浴剤を入れて発泡した湯船につかり、先日のサッチモの続きを聴く。ひしゃげたようなトランペットの音に気持ちがほぐれる。
風呂からあがり、「未見坂」から「方向指示」を読む。昔、大学時代の演習で発表した「夢十夜」を思い出し、一人暮らしを始めたころ神奈川大学近くにあった床屋の神経質に何度もそり残しがないか頬、顎、首を撫でまわす若主人のすこしひんやりした手のひらの感触が肌に蘇る。