傘たわむ風の戯れ。


 今日は遅番の日なのだが、ワケあって早めに出勤する。


 家を出ると雨が降る中を強い風が舞っている。75センチの3Lの傘は通常よりも風を受けやすく、グラスファイバーらしき傘の骨が面白いようにたわんでしまう。バス停には長蛇の列。


 バスを降りて歩き出すと、駅前にビニール傘の残骸が小山のようになっていた。今日の風の強さと、ビニール傘の普及率の高さを感じる。その後も職場への道すがら、壊れて棄てられたビニール傘を何本も見た。
 自分の傘が風にあまりにもたわむので傘の中を見上げてみると、骨が一本使い過ぎた爪楊枝の先のように細い何本もの筋に割れている。なんとか折れることなく職場まで辿り着いた。



 職場で立て替えていた諸費用が戻ってくる。自分の金がそのまま利子もつかずに返ってきただけなのに、いつものごとく小遣いを貰ったような勘違いをしてしまい、リッチな気分に支配される。


 午後早くに仕事が終わり、退勤する。遅番が早番になった感じ。こんなことは滅多にないことなので、映画を観にでも出掛ければいいところなのだが、寝不足緩和のため帰宅することに。
 その前に本屋に寄り道。

木山捷平全詩集 (講談社文芸文庫)

木山捷平全詩集 (講談社文芸文庫)

 講談社文芸文庫のアンコール復刊の1冊。「木山捷平全詩集」が新刊で買える喜びを味わう。

 “沖縄のリズム。”かあ。行きたいな沖縄。


 CDショップを覗くと、廉価版のジャズCDがズラッと並んでいた。その中からズートとブルーベックのカルテットものを2枚選ぶ。

ズート・シムズ・クァルテッツ+2

ズート・シムズ・クァルテッツ+2



 クリーニング屋から20枚ほどのワイシャツを受け取って両手に持ち抱えつつ帰宅。洗濯機を回しながらデイヴ・ブルーベック「ジャズ・アット・オバーリン」を流し、1時間ほど仮眠。


 眠気覚ましにブックオフまで散歩。105円棚より以下のものなどを買う。


 『文學界』は最新号がもう出ていた。西村賢太「焼却炉行き赤ん坊」を読むために105円払ったようなもの。


 家に戻り、夕食をとりながらDVDで黒澤明監督作品「隠し砦の三悪人」を鑑賞。芝居の上手下手を超えた雪姫(上原美佐)の凛々しさを堪能する。小林信彦氏も『本の話』連載「黒澤明の時代」のために見直したらしいが、氏の贔屓女優・長澤まさみ演じるリメイク版の雪姫をどう見るのだろうか。


 その後、堀江敏幸「河岸忘日抄」を読み進める。今夜で一気に読了するつもりでいたのだが、この小説に駈け足はそぐわない。適当な分量を残して本を閉じる。


 『ku:nel』から巻末の石田千さんのエッセイ「市内循環B」を読む。石田さんは旅客機よりも田舎町を走るバスの方が似合う。


 夕食とともに買ってきた『週刊現代』から東川端参丁目さんのリレー読書日記を読む。《ショーバイの論理》や《目先のビジネス》をくぐり抜けて我々に届けられる本たちの例として挙げられている「定本日本の喜劇人」、「ボマルッオのどんぐり」、「三國一朗の世界」という書名を眺めていたら東川端さんがこちらにウインクしているような錯覚にとらわれる。ただ、僕の好きな本たちが、自分だけでは生きていけないトキのような存在であることへの恍惚と不安をどうしたらよいのだろうか。