選択しない日曜日。


 9時に目覚める。


 今日出かける先は、神保町か、中央線沿線かという選択に関して選択しないという選択をする。簡単に言えば、両方行くということです。


 昨日買った黒岩比佐子「食育のススメ」(文春新書)を携帯本に決め、久しぶりにHOSONOの大きなトートバックを持って出かける。ボーナスも出たことだし、今日は心置きなく本を買ってやるのだ。


 神保町に向かう電車の中で「食育のススメ」を読み出す。黒岩さんは、この本で、村井弦斎「食道楽」を紹介しながら、その中で弦斎が提唱している“食育”をキーワードとして食に関わる様々な話題をとりあげる。その内容もさることながら、文章が読みやすく、スルスルサクサクと読み進めることができる。読者に語りかけるような「です・ます調」の採用もそれを後押ししている感じ。


 神保町に到着。すずらん通りを歩いていると書肆アクセスがあった場所に今度入る古本屋のスタッフと思われる人たちが本の搬入をしていた。


 東京堂でサイン本棚にある坪内さんの「アメリカ」をチェックしたり、鹿島茂さんの「神田村通信」のサイン本はまだないことを確認する。


 三省堂の4階へ。ここにできたという地方小出版コーナーを見に来たのだ。エスカレーターを降りるとそこには星新一の特設コーナーが。最相さんが書いた評伝と監修したムックに関連した展示らしい。星新一作品だけではなく、関連するSF作品なども展示され、なかなかいいコーナーになっている。ここを見るだけでも三省堂のやる気が感じられたのだが、地方小出版コーナーを見るに及んで三省堂への評価がグンと上がった。アクセスで使っていた棚をそのまま使っているという情報は知っていたが、そこにそのまま岡山文庫がずらっと並んでいるのはやはりうれしい。スムース文庫や『sumus』のバックナンバーがおかれているのもいい。正直、三省堂はこれまでたまに1階を覗くくらいでほとんど足を踏み入れることをしなかった店であったのだが、これからはこの4階に来る機会が増えるだろうなと思う。


 東京古書会館で行われている新宿展へ。
 会場を回遊していると棚の前で本を真剣に眺めている古書往来座の瀬戸さんがいた。あまりに熱心に見ているため、声を掛けるのをためらう。後で挨拶をと思い、また回遊に戻る。すると背後で古書現世の向井さんが誰かと話している声が聞こえたので振り向くとそこには向井さんと話す北條さんの姿があった。お2人に挨拶をしているとそこに瀬戸さんも登場。だいこんの会、わめぞ忘年会、1月の外市のことなどを簡単に確認する。
 北條さんとゆっくりお茶でも飲みながらお話をとも思ったのだが、今日は欲張って中央線方面にも行くつもりなのと、また火曜日にお会いする予定なのでご挨拶だけで先に会場を後にする。
 ここで買ったのは2冊。


 村山書店店頭から1冊。

 前から欲しかったのだが、値段が高めだったのでここの店頭で安く並ぶのを待っていたのだ。


 日本特価書籍河出文庫の新刊を。

 ここ数年のこの文庫のラインナップは絶版になったら古本屋映えするものが多いと思う。このまま続けてほしい。


 特価書籍近くの吉野家豚丼の大盛り。さっき読んでいた「食育のススメ」で村井弦斎が作品人物の口を借りて豚肉のススメを行っていたのを思い出したら食べたくなった。


 食後、半蔵門線から東西線、そして中央線へと乗り継いで荻窪へ。
 もちろん、ささま書店を覗く。珍しく店頭均一台から何も買えず、店内を物色していると前から欲しいと思っていたこの本が。

 値段もCDアルバム1枚分とあれば躊躇する必要はなしとレジへ持っていく。レジに置いてあった岡崎武志さんのコクテイルライブ(12月22日)の告知カードを貰ってくる。このライブにも参加するつもり。


 西荻へ移動。まず改装後初めての興居島屋から。

 東川端参丁目さんの書評を読んでから気になっていた1冊。面白そうな匂いがする。


 音羽館へ向かって歩く。風が冷たく、夕闇が迫ってくる。店頭均一台の充実ぶりは相変わらず。今日は何も買わなかったが、いつ来ても姿勢が崩れていないのでホッとする店だ。


 体を温めたくて旅の本屋のまどの並びの物数奇に入る。薄めのブレンドとチーズケーキでひと休み。


 その後信愛書店に向かって歩いているとそば屋の鞍馬の前にさしかかる。ついそばが食べたくなって暖簾をくぐる。そういえば、「食育のススメ」にもそばは通じをよくするものと「食道楽」にあると書いてあったっけ。
 今から10年くらい前西荻に出張に来て同僚から評判を聞いて初めてここのそばを食べた。その頃は田舎そばという名称だったが、今は甘皮そばというらしい黒いそばを食べる。悪くない。


 信愛書店で。

 前者は最近探していたのだが、どの店でも見つけられなかった。さすが信愛。
 後者には、墨田区八広の店が2つ紹介されている。八広には大学時代の友人の実家があり、何度も遊びに行っている。たぶんこれらの店の前も通ったはず。ここには八広亭というもんじゃ焼きの名店もある。


 本当は吉祥寺のBASARABOOKSと百年にも寄るつもりだったのだが、寒いのとたくさん買い込んでしまったのとで今回はパス。今年のうちにあと何回かはこの近辺に来る予定があるので焦ることもないしね。


 帰りの車中でも「食育のススメ」を読み進める。


 帰宅しても読書を続け、「食育のススメ」読了。読み終わっての感想は、とてもよくできた村井弦斎「食道楽」のガイドブックだなというもの。漱石、鴎外のようなビックネームではない村井弦斎の紹介本ではアピール力が弱いという出版社の判断(たぶん)による戦略としてこのような「食」に関する本というカテゴリーの衣を着ているのだと思うが、その実体は先程も言った「食道楽」の魅力を読者に伝える見事なガイドブックである。
 着ている服はどうあれ、この本によって1人でも多くの人に村井弦斎や「食道楽」に対する興味関心が広がればいいなと思う。ひとつ残念なのはこの本に“村井弦斎「食道楽」の世界”といった副題がないこと。これでは、村井弦斎に興味を持ってネットで検索をかけた人が書名だけではこの本に辿り着くのが難しくなってしまうと心配になる。いい本だからいろんな方面からアクセスできる方がいいと思う。


 つづいて同じ黒岩さんの「編集者 国木田独歩の時代」に持ち替えてその序章を読む。明日から家で読む本はこれで決まり。