本で本を買う。


 今朝は、雲ひとつない快晴。外へ出ると思わず端から端まで青一色の空を見上げてしまう。


 昼過ぎまで野外仕事。陽射しがまぶしく、そして暑い。


 早目に仕事を終えて、神保町へ、書肆アクセスへと向かう。そのために先日の外市の売上金と残った本を古書往来座で買い取ってもらった代金を持ってきたのだ。


 アクセスを訪ねる前に腹ごしらえ。2度目の讃岐うどん「丸香」へ。前回は冷やしだったので、今回は温かい釜たま(釜あげ&たまご)に下足天をトッピング。うまい。
 ただ、いい気になってダシをかけていたら、後になってのどの渇きに襲われることになったのは困った。


 腹と心を落ち着かせて書肆アクセスへ。畠中さんと青木さんがいらっしゃる。どう声を掛ければいいのかと逡巡していると畠中さんから声を掛けられる。
 閉店が11月をメドに行われるのは事実なのだが、まだ正式に何日までとは決まっていないとのこと。アクセスのHPでの告知はその決定を待ってからになるそうだ。

 棚から欲しいものをどんどん抜き出す。今日は軍資金豊富なのだ。ただ、持ち帰ることを考えて5点に止めた。
 「京都画壇周辺」は、坪内祐三さんが「これはお買い得だよ」と畠中さんに話したという1冊。ある人の口利きで倉庫に眠っていたものを分けてもらったとのこと。加藤一雄本は山本善行さん推奨のもの。前回来た時にも目に入っていたのだが、その厚みに気圧されて買い控えていたのだ。今回、アクセスに関しては購買意欲への抑圧装置を解除しているので、迷わず購入。
 花田本は、坂口安吾の研究者としては現役の第一人者として敬意を払っていた花田俊典さんが西日本新聞に連載していたコラム集。大岡信折々のうた」のようにある本から短いフレーズを引用し、それについてのコメント付す形式で書かれている。
 

 「また来ます」と挨拶をしてアクセスを出る。まだ外市の売上金は半分以上残っているし、アクセスには欲しい本が山ほどあるのだ。なんだか本を売った金で本を買っていると、本で本を買っているような不思議な感覚になる。


 タテキンで1冊。

  • 濱田泰三編「やまとのふみくら 天理図書館」(中公文庫)

 200円。


 神田伯刺西爾で小休止。冷やしブレンドとシフォンケーキ。『アスペクト』7月号を貰う。内容は満足なのだが、このピンクのパステルカラーはやめてほしいな。


 岩波ブックセンターで「文藝年鑑2007」を入手。


 靖国通り沿いの古書店街を歩いていると正面から西に傾き始めた強い陽光がカッとばかりに照りつける。すでにバックは重いのだが、これはたまらんと日本特価書籍に逃げ込む。

 亀井郁夫訳「カラマーゾフの兄弟」ついに完結。この夏に読破したいものだがスケジュール的に無理だろうな。
 『ユリイカ』は石井桃子特集。偶然なのだが、僕も今日お会いしたアクセスの畠中さんも、石井桃子さんも3月10日生れ。


 帰りの車中で高田里惠子「文学部をめぐる病い」を読みながら地元の駅まで戻ると、改札前の広場で廉価版CDとDVDを売っている。いつもはスルーしてしまうのだが、小津映画や黒澤映画の有名作品名が見えたので足を止める。すると成瀬映画が2本あり、その1本が未見の「おかあさん」であった(もう1本は「銀座化粧」だったが、フィルムセンターで鑑賞済)。この作品はDVD化していなかったはずと千円札1枚を出していそいそと買って帰る。


 帰宅するとポストに『彷書月刊』8月号が届いている。特集“魂は冥途にありながら 日本の幽霊”。青地に黄色い蛍(?)が飛んでいる表紙が美しい。


 「文藝年鑑」の“概観二〇〇六年”を摘み読み。“推理小説杉江松恋)”、“SF小説大森望)”、“日本文学・近代(石原千秋)”、“図書館(津野海太郎)”などに並んで“ノンフィクション(岡崎武志)”を発見。目を通す。
 《戦争を振り返り、考えるというテーマ》を柱に2006年のノンフィクションを概観していた岡崎さんが、後半こらえきれなかったように《本や古本まわりの出版》に歩を進め、松田哲夫「『本』に恋して」(もちろんイラスト担当の内澤旬子さんに言及)、南陀楼綾繁「路上派遊書日記」、向井透史「早稲田古本屋街」、田口久美子「書店繁盛記」と立て続けに連打しているのを頬を緩めながら読んだ。
 最後に佐野正幸「あの頃こんな球場もあった 昭和プロ野球秘史」に触れ、《千住のお化け煙突を臨む下町に、たった十年だけ営業した光溢れる球場「東京スタジアム」など、ぜひ行ってみたかった。》という末尾の文章を読みながら、子供の頃、日暮里にいたおじさんの家を家族で訪ねた帰りに車の窓から見た、夜の闇に浮かび上がる東京スタジアムの姿を思い出した。


 夕食後、成瀬已喜男監督作品「おかあさん」(1952年)を観る。廉価版なので想像通り画質はよくないが、作品がいいので気にならない。田中絹代のおかあさん、香川京子の長女、沢村貞子の知り合いのおばさん、加東大介クリーニング屋を手伝いにくるおじさんなどみな素晴らしい。戦後の貧しさの中で、父親と長男が死に、次女が親類に貰われていくという決して明るくはない物語なのだが、坦々と描かれる家族の想いがじんわりとしたものを感じさせてくれる。貰ったリボンをうれしそうに付ける次女の姿を並んで見ている田中絹代沢村貞子のツーショットはなんてことのないシーンなのだが、2人の女優の地力のようなものが感じられてとてもいいシーンだ。
 また、加東大介という役者は他人思いの人物を演じると本当に見事だな。そういう役を見る度に、誰かの人生における加東大介になってみたいものだと思ってしまう。


 その後、机に向かって仕事。