水羊羹のあて。


 今日、職場の先輩から「お前はマジメが服を着て歩いているようなヤツだからな」と言われ、一瞬絶句する。
 人は他人を自分の見たいようにしか見ないのだということを再確認する。


 退勤後、CDショップで偶然このアルバムを見つけて購入。
 

イントロデューシング

イントロデューシング


 《今は亡き人気脚本家・エッセイスト、向田邦子が愛したジャズアルバムとして、多くの人が探し求めていた話題作が待望の復刻》というCDについていた惹句に誘われたのだ。


 帰宅してアルバムのライナーノートを読むと、向田邦子さんは1977年の『クロワッサン』に載った随筆で《水羊羹を食べる時のミュージックは、ミリー・ヴァーノンの(スプリング・イズ・ヒア)が一番合うように思います。この人は、1950年代にたった一枚のレコードを残して、それ以来、生きているのか死んだのか、まったく消息の分からない美人歌手ですが、冷たいような、けだるいような、生ぬくいような歌は、水羊羹にピッタリに思えます。》と書いているらしい。この文章は「眠る盃」に収録されているとのことだ。
 ヴァーノンは現在もニューヨークに健在で、向田さんの言とは異なり、このアルバム以外にも数枚のアルバムを出していることがライナーに書かれている。


 アロマキャンドルでぼんやりと照らし出された風呂場で「イントロデューシング ミリー・ヴァーノン」を聴く。決してうまいというタイプのシンガーではないが、少しかすれてくぐもった声が独特の味わいを出している。雰囲気のある人だな。昼間の陽光を浴びて聴くタイプではなく、ロウソクの灯の下で入浴しながら聴くのに適した音楽。


 古典入門で田中本を1章分読んでから、今夜も一箱用本さがし、これという文庫を見つけられなかったが、文庫化されていない高島俊男「メルヘン誕生 向田邦子をさがして」(いそっぷ社)は箱に入れるつもり。高島ファンにも向田ファンにも見逃せない一冊。

メルヘン誕生―向田邦子をさがして

メルヘン誕生―向田邦子をさがして