外のしずく、内のしずく。

 
 朝、床の中で目を覚ますと窓の外から激しい雨音が聴こえてくる。雨がやむまで寝ていようとまた眠りに入り、次に目覚めて雨音が消えた時には昼近くになっていた。

 風呂で古今亭志ん生鰍沢」を聴く。


 電車を乗り継ぎ池袋へ。朝から何も食べていないので、ジュンク堂の向いあたりの地下にある店に入って地鶏の親子丼を食べる。もう少し御飯があたたかいといいんだがなと思いつつ店を出る。


 雨はやんだのだが、空は薄い鉛色にくすみ、風も強く吹いている。そんな中往来座の店頭には店番をする退屈男さんやY&Nさんの姿が。ご苦労様です。
 外市の棚から以下のものを購入。

 石津本は古書現世の箱から。手製の帯に“VAN石津謙介”と書かれてあっては見逃すわけにはいかないでしょう。豊崎本は火星の庭半額棚から。退屈男さんたちの話では11時の開店時からこの半額棚はドンドン売れていったらしい。

 往来座店内もぐるっと一回りして1冊選ぶ。

 これは大人の本棚シリーズの1冊で、昭和5年に改造社から出た新鋭文学叢書版を復刻したもの。新潮文庫版は後年手を入れ増補したものだそうで、解説の森まゆみさんは、この改造社版の方が圧倒的にいいと評価している。先日成瀬已喜男監督の「放浪記」を観たばかりなので新潮文庫は持っているがこれも手元に置いておきたくなった。


 往来座を後にして旅猫雑貨店を目指し雑司ヶ谷方面に歩き出す。手には旅猫(かねこ)さんお手製の地図を持って。大鳥神社参詣の道をとことこと歩いていくと見覚えのある猫の絵が描かれた立て看板が目にとまる。ここだ、ここだ。
 中に入ると刃物を研ぎに出されたおばあさんがかねこさんのお兄さん(研ぎ猫さん)と話をしていた。研ぎ猫さんはとても懇切丁寧に刃物の状態について説明している。その良心的な対応におばあさんもとても安心して喜んでいる様子が同じ店内にいる僕にも伝わってくる。このお店が地域とそこに住む人々との繋がりをすでに獲得しつつあることを感じた。レジカウンターにいるかねこさんにご挨拶して店内を見て回る。文庫のカバーを3つ購入。男の僕でもかわいいなと思うものが多い。女性にとってはたまらないだろうなと思う。支払いを済ませてかねこさんと話をしていると、向井さんがやって来る。かねこさんへの差し入れのバームクーヘンを持ってきたとのこと。偶然居合わせただけなのだが、差し入れのお相伴にあずかる。とても濃厚でおいしいバームクーヘンでした。ごちそうさま。


 旅猫雑貨店を後にし、音羽方面に歩いていく。すると高速道路の向こうに母校の高校が姿をあらわした。車で高速を通った時に何度が車窓から眺めたことがあったが、実際に建物の前に立ったのは卒業以来か。僕がいた頃にはなかった坂口安吾の石碑が校舎の前に建っていた。ただ、他の卒業生2人(全然知らない人)との連名というのはちょっと寂しい。


 校舎横の入口から地下鉄に乗る。神保町へ。
 東京堂、村山書店、悠久堂、コミガレなどを覗いてから神田伯刺西爾でひと休み。今日の携帯本であるジェイン・オースティン「分別と多感」を読む。「高慢と偏見」、「エマ」と同じ美しい姉妹の結婚を巡る話なのだが、やっぱり面白い。娘の結婚をテーマに何本もの名作を撮った小津安二郎監督の様だな。


 日曜日の神保町に来た目的は日本特価書籍なのだが、なんとシャッターが下りているではないか。そこには貼り紙が。“2月より第2日曜日は定休日となります”とある。日曜日の神保町がまたつまらなくなってしまった。毎週というわけではないのだが。


 駅ビルの無印でアロマキャンドルの袋詰を買ってから帰宅。すぐに風呂を入れて、アロマキャンドルに灯をともし、一青窈を流しながら湯舟につかり今日の花粉をしっかり落とす。花粉を室内に入れたくないためこのところ風呂場の窓を開けていない。そのため風呂場の天井には水滴がたまっており、それが湯舟につかっている僕のまわりにしずくとなって降ってくる。しずくは外だけではなく、内にもあったのか。


 ここ数日読み継いできた小林信彦日本橋バビロン」を読み終わる。この作品が祖父・父・自分(小林氏)という三代の繋がりを確認するための作品だという印象を受ける。最後の実家跡の地中から見つかったものを描くためにこの作品は小説でなくてはならなかったのだろうと思った。


 今日はこれを聴いた。解説は寺島靖国氏。

ニュー・ビート・ボサ・ノヴァ Vol.1、2(紙ジャケット仕様)

ニュー・ビート・ボサ・ノヴァ Vol.1、2(紙ジャケット仕様)