痺れるというより惚れる。

霧雨のわずかに感じられる中を出張場所に出向く。思ったより早く陽が差してくる。出張仕事は予想外に早く終わったため、職場に行き、溜まっていた仕事を済ます。無性に眠くなってきたので、予定した仕事だけ済ませて職場をあとにする。そのまま歩いてブックオフへ。
まず、ワゴンに入った「男はつらいよ」シリーズが目に入る。その中から第40作“寅次郎サラダ記念日”を選んで籠へ。
それから105円棚を物色し、以下の5冊を購入。

「斜光」は“昭和ミステリ秘宝”シリーズの1冊。
安吾本は退屈男さんに触発されて持っていなかった河出文庫版のこの本をゲット。
島田本は近年の関心対象である“満洲本”のひとつとして。
高田本は先日購入した山口文憲団塊ひとりぼっち」のサブテキストとして選ぶ。イラストと写真が豊富に入っていて楽しい本。
安田本は朝日新聞社の社会部長であった渋川玄耳が飼い猫を漱石にあずけるという表題作を含む短篇集。


ブックオフを出て歩いていると、木が生い茂っている場所の近くを通る。そのとき懐かしい新緑の匂いをかぐ。ああ、この匂いだ。小学生の時、学校帰りによく鼻についたあの香り。いっぺんにあの頃の感覚が甦ってくるから不思議だな。
そこを過ぎると目の前に長く急な坂。半分ほど登ったところにある家からピアノの音が聴こえてくる。弾いているのは「愛の讃歌」。すこし励まされる。確か以前に登った時にここら辺の家の前に椅子が置いてあり「長い坂でお疲れの方はどうぞこちらでお休みください」という貼り紙がしてあったっけ。今日はその椅子も見当たらないので休まず登り切る。運動不足のせいか、さすがに息が切れて、汗がぶわっと吹き出してきた。


帰宅後、少し横になる。CDで三遊亭圓生「蛙茶番」を聴きながらうとうとする。艶笑落語であるが、圓生師匠は上品にまとめているな。
眠気がおさまったところで買ってきた「男はつらいよ」のビデオを観る。これを買ってきたのは、三國一朗さんが大学教授役で出演していることを『脇役しんぶん』で知っていたからだ。映画自体は、このシリーズとは思えないサザンの曲が流れて俵万智「サラダ記念日」の短歌がテロップで出るというちょっとガクとくるような場面もあるが、いつもの寅さん映画。
お目当ての三國一朗さん演じる大学教授は、これぞ典型と言いたくなるような味わいある雰囲気を醸し出していた。寅さんとの掛け合いもまずまず。このシーンの渥美清さんの演技もこころなしか生き生きしているように思える。これも三國さんという素晴らしい受け役がいるからか。早稲田大学のキャンパスもしっかり出てきていた。
それにしても帽子をとった寅さんの老けた感じは少し痛々しい。そろそろ物語を動かす役割が甥(吉岡秀隆)に移行していく予兆が見える。


テレビをつけると、「笑点」の“さらば円楽スペシャル”をやっている。円楽師匠最後の大喜利を鑑賞。声はしっかり出ているが、時折言葉に詰まる円楽さんを見ながら、正しい選択だなと思う。


その後、読みかけの水口義朗「記憶するシュレッダー」の続きを読む。印象に残ったゴシップとしては、中央公論社の「日本の文学」の編集委員であった川端康成委員が収録作家の選考会で「川上宗薫さんをぜひ入れてください」と言ったという話と俳優の池部良さんはお母さんが岡本一平画伯の妹なので、岡本太郎画伯と従兄弟であるという話など。あの青い箱の「日本の文学」シリーズに川上宗薫集があったら、ブックオフで気軽に買うことができるのだけどな。普通の川上本を本屋のレジに持っていく度胸はないから、まだ一編も読んだことがないのだ。


坂口安吾「ジロリの女」(角川文庫)から「アンゴウ」を再読する。決して巧いわけでも洗練されているわけでもないのだが、ごつごつした運びに揺られながら真相が明らかになる結末までくるとやはり熱いものがこみ上げてくる。やっぱり、安吾はいいや。


やっと1冊読了したので、買える本ができた。

【購入できる新刊数=1】


今日聴いたアルバム。

チャーリー・パーカーが変名(チャーリー・チャン)でテナー・サックスを吹いているので知られているアルバム。ただし、彼が参加したセッションの中で3曲目の「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」だけは演奏していないのが残念。マイルス・デイビスとパーカーとソニー・ロリンズが共演した「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」なんて聴いてみたいと思いませんか。
7曲目「イン・ユア・オウン・スウィート・ウェイ」のマイルスのミュートプレイに痺れる。というより惚れる。