ハチ公とグルミット。

仕事を終えて渋谷へ。
アミューズCQNで「ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!」を観る。ここは新しくできた映画館らしい。bunkamura前にあるシネアミューズの系列館。平日ということもあってかその真新しい劇場に客は3分の1程度しか入っていない。この「ウォレスとグルミット」シリーズが大好きで、DVDはすべて持っているのだが、劇場で観るのはこれが初めて。
冒頭のウォレスとグルミットが、サンダーバードバットマン風にオートメーションで着替えをして出動していくところから、顔がほころぶ。このシリーズは大人たちが好きな映画やテレビ番組にオマージュを捧げながら気の遠くなるような細かい作業を繰り返して楽しくて緻密な映像世界を作っているのが素晴らしい。もちろん、子供も楽しめるようになっているのだが、大人はその倍楽しめる作品なのだ。今日は5歳くらいの子供たちも来ていたが、大人になってからもう一度来なさいってところかな。
今回、特に素晴らしかったのは、メスうさぎの人形を使ってうさぎ男をおびき出そうとするシークエンス。いなくなってしまったウォレスを車でひとり(一匹)で待っているグルミットが手持ちぶさたと一抹の不安を抱えながら助手席に体を持たせかけるシーンの椅子と車のきしみ具合のリアルさは大袈裟に言えば現実をこえてしまっているくらいだ。その後のうさぎ男をグルミットが車で追うわずか数分のシーンの濃さ。もうたまりませんね。これだけの映像にどれほどの時間と手間をかけたかを想像するだけで、気が遠くなるようだ。アメリカ資本のドリームワークス製作なので、一部にCGが使われている(うさぎをバキュームで吸引するシーンと吸引機のなかで浮遊しているうさぎの姿にのみつかわれているらしい)が、全体的には職人による手仕事の作品なのだ。そこがまたいい。絶対DVDを買って繰り返し堪能しようと心に決める。いつも思うがいい映画の細部には神が宿っているのだ。


いいものを観て、気分よく渋谷の本屋を回る。
まずは、リブロへ。

  • en-taxi』13号
  • 『フリースタイル』4号

これらの最新号がもう出ていたとは。前者は、プロレスと久世光彦追悼が柱。堀井憲一郎さんの新連載落語が始まった。後者は、今回から判型がB5版と大きくなっている。個人的には前の大きさと紙質がよかったのだが。
久世さんの「卑弥呼」を探すが棚にない。
続いてブックファーストへ。

久し振りにここの2階に来たが、これはたまらない。欲しい本があり過ぎて収拾がつかなくなる。なんとか自分をなだめてこれで押さえた。
幸田本は、2階フロアでやっていた東京本フェアに面出しされていた。探していた本なのでうれしい。
穂村本と大森本はともにサイン本。欲しかった本にサインが入っているのでは、我慢しろという方が無理だよね。


出久根達郎「風がページをめくると」を読みながら電車で帰る。ブックファースト新潮文庫Yonda?CLUBのパンフレットを貰ってきたら、無性にマグカップとブックカバーとトートバックが欲しくなり、部屋のあちらこちらをあさって新潮文庫を探し出し、すぐに23枚集める。隣りの部屋の文庫だまりを探せばまだまだあるはず。目標100枚を掲げ、後日収集に励むことにする。

彷書月刊』から、岡崎武志さん、南陀楼綾繁さん、グレゴリ青山さんらの連載を読む。
岡崎さんは「エエジャナイカ」で御馴染み神戸の口笛文庫をとりあげている。聞けば聞くほど行ってみたい店だ。最後から2番目の段落にこの店に対する岡崎さんの期待と不安が滲み出ている。ちょっとビターな味わいがする。
南陀楼さんは、「須雅屋の古本暗黒世界」の須賀章雅さんを紹介している。ブログから感じるようにかなり個性的な人であるようだ。以前にも書いたが、須賀さんのブログには「私小説」の芳香が漂っている。
特集は“古書展覧会”。昭和32年に『古書月報』に掲載された「斎藤昌三先生を囲んで」という座談会が再録されている。読むのが楽しみだ。


今日のピアノトリオ。

Oakland 1955

Oakland 1955

2枚ともソニー・クラークの未発表音源を後年にCD化したもの。音質は当然よくない。なにやら霧の向こうで演奏しているような感じで音が聴こえる。出来がどうこうとか、曲がどうこうとかいう前に、こうして毎日のようにどこかのクラブで演奏が繰り返され、そういう時間の総体の中でソニー・クラークというピアニストとその音楽は存在したのだなと今更ながらに思う。当時発売されたレコードは外出用の晴れ着であり、これら2枚に記録されているのは部屋での普段着姿なのだ。普段着の彼も悪くない。