新春談春ショー。

9時頃起床して、風呂で桂吉朝「つる」を聴く。
その後、グダグタしているうちに気がつくと昼過ぎに。少しあわてて外出の支度をし、家を出る。
今日は横浜にぎわい座に「立川談春独演会」を聴きにいくのだ。バスで駅まで行き、近くの吉野家豚丼を食べ、水をもらって咳止めの薬を飲む。気がつけば1時15分。開演まであと45分だ。急いで電車に乗る。本来ならJR桜木町駅が一番近いのだが、休日昼近くのダイヤと乗り換えのロスを考え、みなとみらい線馬車道駅まで出ることに。駅を出た時点で1時45分。なんとか間に合いそうだ。急ぎ足で桜木町駅方面に向かう。にぎわい座の近くに場外馬券売り場があるせいか、周りは落語の「付き馬」ならぬ「馬好き」の人たちばかりが歩いている。開演5分前になんとか滑り込む。エレベーターで4階へ。ここが“2階席”の入口なんだから不思議だ。自分の席は2階席の正面2列目。ほどなく幕が上がり、談春さんが登場。紋付袴姿で「今年最後の新年のご挨拶」をして始まる。マクラで正月に実家へ帰った話をする。親のふけ具合を見て自分の年を感じるという話に同年代の僕も身につまされた。今年の正月に見た母親からひと回り小さく老けた印象を受けたことを思い出す。しかも、談春さんみたいにこちらは親にお年玉もあげていないのでなんだか恥ずかしいような気分になる。しかし、そこは噺家、しんみりでは終わらない。談志師匠の「らくだ」を聴いて感動したお母さんが「すばらしいねえ、あの『きりん』は」と言ったエピソードで笑わせる。そこでボソリと「志ん生師匠みたい」というのがよかった。
マクラから呼吸を置かず、「妾馬」に入る。この噺はずうっと以前にテレビで誰かのやった短いバージョンは聴いたことがあるがちゃんとは初めて。妹が大名の殿様に召されて、お世継ぎを生み、兄の八五郎が妹の計らいで殿様に謁見する。博打好きで、柄が悪く、嫁も貰えない八五郎が家老や給仕役の老女と言葉のやり取りをしながら、酔っぱらっていくところがこの人の見せ場なのだろう。上手いし、生き生きしている。そして、口喧嘩の末に母親と約束した「孫を母親に一目見せてくれ」というお願いを殿様にして頭を下げるシーンで、マクラが効いてくる。さすがにジーンとくるものがあった。隣りに坐っていた女性はハンケチを目に当てていたようだ。老女に「殿様がだめと言っても私が会わせてあげる」と言わせることでパアーッと場を心温まる世界にした手際が見事だった。「文七元結」のようなおめでたいサゲで正月の気分を盛り上げた一席。
休憩で、手洗いに立つと廊下で福田和也氏とすれ違う。エライなちゃんと談春師匠の追っかけをやっているんだと感心する。
後半はマクラをふらずにいきなり「鼠穴」に入った。この噺はまったく初めて。「こんなんで自分を落語好きと言う気かお前は」と己に突っ込みを入れたくなる。酒と博打で親から貰った田畑と家を失った弟が、江戸で成功している兄に泣きつくが、兄はたった三文しかくれない。その薄情さに憤り、兄を見返してやるという意気込みで蔵を3つ持つほどの回船問屋となって兄に借りた金を返しにいく。ここまでのところで、弟が酒と博打に狂っていた人物に思えないというところに少しひっかかる。狂っていた部分は描写がなく、しかもその後の弟の頑張りぶりが詳しく描かれるだけに、兄の「最初に金を借りにきた時のお前は、まだ遊び人の心が抜けていなかった」という内容のセリフがしっくり聴こえなかった。それから、これは聞き落としたのかもしれないが、兄から田畑とともに頼まれた母親はどうなったのだろう。死んだのか、まだ田舎にいるのかも分からず、田舎にいるのなら家も田畑もないのにどこに住んでいるのだということが頭の隅に残ってしまい困った。
兄に金を返しに行き、兄の真意を知った弟は酒を酌み交わし、兄のすすめるままに泊まっていくことに。この後半鐘の音で目が覚めて、回船問屋の蔵が焼け落ち、商売に失敗し、兄からまたも冷たくあしらわれ、娘を吉原に売った50両の金を掏られる悲惨のたたみかけはテンポよく、息をつかせない。ただ「文七元結」のお久は17歳だが、お花はまだ10歳にも満たないのに自分から吉原へ行くというのは余りに不自然だと思いはしたものの、最後が夢オチなのでそれも納得。
来月2日の独演会(にぎわい座)のチケットも販売していたが、7日の方のチケットを購入済みなので見合わせる。来月は何の噺が聴けるか楽しみ。
せっかく野毛に来たのだからとこれまで行ったことのない周辺の古本屋を覗きにいく。まずはにぎわい座近くの天保堂苅部書店へ。名前は前から知っていたが行ったことのない店。もっと黒っぽい本を並べている店かと思っていたが、そうでもなかった。挨拶代わりにこの1冊を買う。

その後、恵比寿書店を覗いてから、いつもの伊勢佐木モールへ出る。まずは先生堂古書店で1冊。

野坂昭如氏の短篇を原作に滝田氏が描いた漫画短篇集。こんな本があるなんて知らなかった。滝田氏の「滝田ゆう名作劇場」(講談社漫画文庫)の愛読者としては見過ごせない本だ。あとがきを読むとこの企画には当時「小説現代」編集長であった大村彦次郎氏がかんでいたらしい。これだけでも大村氏の編集者としての感性を信頼してしまう。
その後、田村書店、活刻堂と回って最後に誠文堂書店へ。
今日は奥さんは不在。三月書房の小型愛蔵本が手頃な値段で並んでいたのでその中から2冊選ぶ。

店の店頭に500円以下の本を並べた台が出ているのを初めて見た。以前に均一台を始めようかと思ったが、周囲から店の雰囲気に合わないと言われて思いとどまったと奥さんが話してくれたことがあったのを思い出す。それでも始めたということはやはりあまり売り上げがよくないのだろうと少し心配になる。
馬車道駅から電車で帰る。地元駅前でつけ麺を食べてから帰宅。正月から読んできたサラ・ウォーターズ「荊の城」読了。「半身」のような大どんでん返しはないが、ビクトリア朝ロンドンの猥雑な雰囲気を堪能した。その後、「怨歌物語」から「火垂るの墓」と「エロ事師たち」を読み、「紙つぶて」の続きを読み継ぐ。