口にでない言葉。

仕事が休みの日。
10時半に家を出る。
今日は敬愛する友人と昼食をともにする約束をしている。この人と会うのはとても楽しく、うれしいことなので、まるでデートに向かう男子中学生のように気分が浮き立つ。
お茶の水駅周辺にある友人の職場の食堂で待ち合わせ。ビルの最上階にある食堂はとても見晴らしがいい。手が届きそうな場所に不忍池が見える。子供の頃に家族で行った東天紅の看板もしっかり読めるくらいだ。
予約してもらっていた席に着いて景観を楽しんでいると、昼休みになった友人がやってきた。約1時間、別に盛り上がるということもなくとりとめのないことを話す。
話しながら、自分は一体この人からどれだけ多くのことを教えてもらったんだろうと思う。伊丹十三のエッセイ、伊丹万作全集、ビョークプライマル・スクリームユルスナール須賀敦子、近藤紘一、トラン・アン・ユン、「トレイン・スポッティング」、ティオ・アンゲロプロスモンティ・パイソンローワン・アトキンソンの「ブラック・アダー」、東京グローブ座で観るシェイクスピア劇、フレッド・ペリーのポロシャツ、アルコールを飲みながらレイトショーを観ること、そのつまみとしてのチーカマの美味しさ、作家の墓を訪ねること、塩野七生、ペンギンブックスのラフガイド、パトリシア・ハイスミス三遊亭圓朝ジェラール・フィリップス、「危険な関係」、ルイ・マル、「アルフィ」、市川雷蔵、「半七捕物帖」、リービ英雄……。
感謝の念はなかなかうまく口にできない。色々と記憶がよみがえったところで、友人は午後の仕事へ。
僕は神保町の本の海へ。
いつもは神保町交差点からすずらん通りに入るのだが、今日は駿河台下からという逆コース。コースは逆でも書肆アクセスに寄るのは同じ。

『サンパン』は、今刊行継続の危機に直面していると言うニュースを数名の方のブログで知る。なんとか継続してほしい。刊行を楽しみにしているリトルマガジンの1つなのだ。恩師の曽根博義先生の文章や『スムース』同人の林哲夫さん、南陀楼綾繁さんの文章が今号も載っている。そして、向井さんの「早稲田古本屋店番日記」も。岡崎武志さんが早く潰しとけばよかったんだと書いていた向井さんの才能が疾駆している文章。参りました。
今日のレジはたぶん畠中さんが「大塚愛に似ている」と言っていたバイトの女の子。そのため畠中さんと青木さんにはお目にかからずに店を出る。
田村書店店頭均一で2冊。

山崎本はダブリ。美本が200円なので一箱古本市用に。
喫茶「ぶらじる」で一息入れてから渋谷へ出る。
うんざりするような人ごみをかき分けてPARCOに辿り着き、印刷解体展を観る。名前の活字2文字分を購入する。
隣りのリブロで古谷実シガテラ」6巻を手に取るとPR誌を並べてある棚が目に入る。『一冊の本』、『本』、『ちくま』、『あとん』と4冊に手を出す。600円のコミック1冊でこれはあんまりだと思い、『考える人』2005年秋号を追加する。
帰りの車中は荒川洋治「世に出ないことば」(みすず書房)を読む。とにかく荒川さんのエッセイを読むと本が読みたくなる。原武史「鉄道ひとつばなし」(講談社現代新書)を紹介した文章などもうたまらない。必ず読もうと己に誓ってしまうくらいそそられる。
帰宅して、「シガテラ」と「世に出ないことば」読了。
シガテラ」は予想していたカタチの××ではなく、別のカタチの××が待っていた(ネタバレにならないよう自粛)。あっけないだけに後からじんわりきそう。
DVDで大滝詠一監修「クレージーキャッツ・デラックス」を観る。クレージー映画から主に歌の場面を編集したある意味ビデオクリップもの。植木等のカラフルなスーツと背景にある昭和30年代の東京に見とれる。