おあいこ。

今日は何も買わないつもりで、仕事帰りに本屋に立ち寄る。気になる新刊を見つける。

なぎらさんが撮った写真と文章からなるビジュアル本。東京の下町と呼ばれる街の風景や人々が思いのほか鮮やかな色彩にいろどられて写真におさまっている。なぎらさんの文章力はこれまでの著作で実証済みであるが、現今の文筆家を見回しても《あたし》という一人称がこれほど似合う男性はいないと思う。
先日から気になっている本をもう一度眺める。

TBS落語特選会での榎本さんの淡々とした語りがとてもよかった。この本を読んで榎本さんと志ん朝師匠を偲びたいものだと思う。
しかし、今日は何も買わないつもりなので、店を後にしようと文庫の棚を通りかかった時、角川文庫の新刊が平積みされているのが目に入った。

ああ、これが出ていたんだ。「新解さんの読み方」に続く夏石版新解さんシリーズの最新作。しかも文庫オリジナルだ。やっぱりこれは買ってしまう。
思い起こせば、高校時代に鳥の絵のケースに入った「新明解国語辞典第二版」(三省堂)をその凄さに気付かずに愛用し、大学時代になって確か井上ひさし氏の文章でその特殊なあり方を知ることになった。就職して赤瀬川原平新解さんの謎」(文藝春秋)と出会い、鈴木マキコ(夏石さんの本名)「新解さんの読み方」(リトルモア)にも目を通し、武藤康史編「明解物語」(三省堂)も興味深く読んだ。そのうち新明解コンプリートコレクションを思い立ち、職場の同僚に新明解の何版を持っているか聞いて回って、譲ってもらえるように交渉し、現在使用中のものは当時の最新版であった第五版を買ってきて交換してもらった。そうして不完全ながら第一版から第五版まで揃えた。中には小型版や革装のものもあった。しかし、ほぼ揃ったということで安心したのか、その後、文庫で「新解さんの謎」や「新解さんの読み方」を読み返したりしたが、それ以上積極的に「新明解国語辞典」に関わることはなくなっていた。主幹であった山田忠雄氏が亡くなってしまったということも影響したのかもしれない。
そんなこちらの間隙をぬうように第六版が昨年の11月に出版されていたのだ。この「新解さんリターンズ」はその最新版をもとに新解さんの現在をチェックし、その今を語っている。もう一年も前に出ていたとは、不覚。早速買い求めねばと心ははやる。
サザンオールスターズの新譜を入手してから帰宅。

サザン7年ぶりの2枚組アルバムを聴く。武道館にローリングストーンズのコンサートを聴きに行く今のおじさんたちの気持ちがなんだかわかる気がする。もうあの頃の熱い思いも若さも決して戻ってこないことを確認し、それでも過去を切り捨てて生きることのできない己の生というものを愛おしんでいるのだろう。大学時代に「人気者で行こう」のLPをリアルタイムで買った20歳の夏は二度と返ってこないのだ。もうあのサザンはいない。だけどそれが悪いと言っているのではない。20歳の自分ももういないのだから。おあいこ。


榎本版 志ん朝落語   新解さんリターンズ (角川文庫)   キラーストリート (初回限定盤DVD付)