書誌アクセスに集う本と人。

今日は休日。朝、洗濯機を回してから、寝床で「植草甚一日記」をぱらぱらと眺める。1970年、齢62のJJオジさんは、毎日散歩に出かけ、本を買い、コンサートや芝居を覗いている。明治生まれ恐るべし。
昼前に家を出て、家賃と古書現世から買った本の代金の払い込みをしてから渋谷へ出る。渋谷シネマライズで「リンダリンダリンダ」の13:30の回を観るのだ。チケット売り場の前に立って初めて今日が映画の日であることを知る。1000円で観られるとはありがたい。
夏休みが終わったせいなのか、割引料金で観られるのに観客は半分程度。予告編に続いて、映画が始まる。約2時間、幸せな時を過ごす。この3日間で観た映画の中で文句なく、一番映画を観る喜びを感じた。ストーリーや“青春映画”というジャンルを紹介しただけではその味わいがうまく伝わらない映画。「空気」を味わう映画といえばいいのかな。説明のしようがないので、観てもらうしかない作品ですね。ボーカル担当の留学生・ソンを演じるぺ・ドゥナがいい。彼女が入ることで、4人の女子高生バンドに緊張感と微妙な空気感が生まれている。
映画館を出て、TSUTAYAで主演の4人組が演じたバンド“パーランマウム”のCDを衝動買い。ブルーハーツの名曲「リンダリンダ」、「僕の右手」、「終わらない歌」は実際にこの4人が演奏している。もちろん、ボーカルはぺ・ドゥナ。日本語を他者として扱うような歌い方が、曲調に合っていると思う。
映画に満足したので、帰ろうかと思っていたのだが、神保町まで足を伸ばすことに。そろそろ「BOOKISH」が入荷しているだろうと思い、書肆アクセスに向かう。店内に入るやいなや、男性の姿が目に飛び込んでくる。内澤旬子さんのイラストでも御馴染み古書現世の向井さんだ。この前は、岡崎さんに出会い、今日は向井さんとは。まるで松竹新喜劇のような奇遇の連発である。ご挨拶をすると、ここで浅生ハルミンさんと待ち合わせて、飲み会に行かれるとのこと。向井さんがアクセスの畠中理恵子さんに紹介してくださる。「BOOKISH」の件を尋ねると、まだ入荷していないとのこと。そんな僕を哀れに思っていただいたようで、読み終わったご自分の1冊をくださる。恐縮です。その他、今日向井さんが持ってきたと言う『未来』9月号を貰う。結局、2冊貰って何も買わずに店を出ることになってしまった。すみません、今度また本を買いに来ます。
向井さんがハルミンさんを喫茶ぶらじるで待つので、一緒にお茶しましょうと誘ってくれるのをいいことにお邪魔して楽しくお話しさせてもらった。途中でハルミンさんも加わり、3人で1時間以上おしゃべり。基本的には人見知りの性格なのだが、気のおけない方達だと分かると安心して多弁になるタイプなので、結構くだらないことを色々とお二人にお聞かせしてしまった。
これから他の方達と合流して飲みに行くというお二人と別れ、日本特価書籍へ。今日は神保町に来て1冊も買っていないので、とりあえず1冊。

先頃、惜しまれて亡くなった種村さんの最後の自選エッセイ集。
帰りの車中で、田中眞澄「小津安二郎と戦争」(みすず書房)を読む。小津安二郎は、中国大陸で毒瓦斯部隊に所属し、何度か大きな戦闘に参加している。戦場においてたぶん小津安二郎伍長は敵の中国兵を殺傷している。戦争における兵隊とはそういうものであるのだから、それを彼の場合だけ特別視するのはおかしなことだ。しかし、その事実(決して実証されているわけではない)を直視したとき、戦後の小津映画に漂う喪失感の根の深さについて思わざるを得ない。もちろん、すべてを戦争体験に転嫁させてしまうような愚を田中眞澄氏の著作が行っているわけではない。ただ、戦争を抜きにして、戦後の小津映画を語るのは難しいということは強く伝わってくる本だ。

we are PARANMAUM


【月刊アン・サリー計画/今日の1曲】

今日「リンダリンダリンダ」を観てきたばかりなので、どうしてもこうなってしまう。