よ、大統領。

今日は昼過ぎで仕事をあがる。
この夏は、劇場で映画を1本も観ていない。久し振りに大きなスクリーンで観たくなって銀座へ。選んだのは「スター・ウォーズ エピソード3」。次の回まで時間があるので、遅めの昼食をとろうと煉瓦亭に向かうが4:30まで昼休みでダメ。ちかくにあった「みもざ館」に入りランチのオムライスを食べる。2日続けてというのもどうかと思ったのだが、根が好きなものでつい頼んでしまうのだ。自分に対して昨日がトマトソースで今日はデミグラスだから別物と言い訳しながら。
食後、教文館を覗く。近藤書店が閉店したため、銀座で一番好きな本屋はここ。店の雰囲気や書皮も好きなのだが、実はこの店のトイレが気に入っているのだ。2階の奥に階段があり(この階段の昭和レトロ感もいい)、3階へ向かう途中にトイレがある。別に特別トイレの中がどうというわけではないのだが、清潔感のあるトイレで建物自体の使い込まれた感と絶妙のコントラストを描いていて、それがどうも性に合うらしい。無料でトイレを借りては申し訳ないので、1冊。

カウンターに置いてあった『波』9月号と『銀座百点』9月号を貰う。
『波』で10月の新刊予定を見ると、小林信彦東京少年」が。小林さんが「冬の神話」以来こだわってきた集団疎開における人間劇とこれまで断片的にしか語ってこなかった新潟における縁故疎開を描いた自伝的小説。これを書き上げた後、小林さんはどうするのだろうか。これまで折に触れて語ってきた書きたい題材はほぼ書き尽くしたように思える。個人的には「プリンストン・スタージェス論」などの映画作家論をまとめてほしいと思うのだが、どこか声をかける出版社はないものか。新潮社の新刊では、他に長部日出雄「天才監督 木下恵介」が気になる。
『銀座百点』を貰ったのは初めて。目次を眺めると嵐山光三郎「銀座散歩」、藤森照信「銀座建物探訪」、逢坂剛×北原亞以子×池内紀「“逢坂剛”の秘密」などが目をひく。
有楽町マリオンの切符売り場に行き、日劇のチケットを買おうとすると、全席指定になっていると言われる。ここで映画を観るのは数年ぶりだが、前に来た時はこのシステムではなかった。エレベーターで11階に昇り、劇場に入る。流石に全体の5分の1も埋まっていない。大画面で「エピソード3」を観た。オープニングでタイトルとテーマソングが流れると多少感慨のようなモノがこみ上げてきた。第1作を観てから既に20年以上の月日が経ち、今またその新作をこうして見ているというのがなんだが嘘みたいな気がする。映画自体はシリーズ最終作以外の何物でもないとしか言いようがない。ただ、その最終作が第一作に繋がるというのがミソなだけ。ラストのオビワンとアナキンとの決闘は、小林信彦氏が殺陣に工夫とアイデアがないという通り、長いだけでなぜあのようなカタチで決着がつくのかもいまひとつピンとこない。とりあえず、アナキンがダース・ベーダーになって、“コーパー”第一声を発した時には、さすがに「よ、大統領!」と声を掛けたくなったけど。
劇場を出て、暗くなった銀座の街を歩く。スーツを新調しようとザ・スーツ・カンパニーに行くと改装中でクローズしている。あきらめて、隣りの旭屋書店に入る。この店は正面入り口から入ってすぐ右にある新刊・近刊を集めた棚のセレクションがいいので必ず覗くようにしている。それから、ここは映画・芸能関係(特に落語)が充実しているのもいい。文楽や小さんのCDブックも置いてあったりするので、落語好きの店員さんがいるに違いない。ただ、正面奥や左手奥にあった出口が無くなって、通路の延長のような開放感はなくなってしまったのが、残念。たしかに、前のカタチでは万引きが多かっただろうなあとは思うのだが。

  • 田中眞澄他(編)「映画読本 成瀬巳喜男」(フィルムアート社)

国立フィルムセンターで行われている成瀬巳喜男特集を観に行きたいと思っているので、その予習用に購入。個人的に気になる文筆家の1人である田中眞澄さんが編集に関わっているというのも買う気になった要因の一つ。
レジにあったPR誌『本』、『ポンツーン』、『星星峡』(すべて9月号)をネコゾギ貰ってくる。後の2つは幻冬社の雑誌。同じ出版社で2冊のPR誌を出してるのもすごいな。
今日の移動のお供本である村井淳志「脚本家・橋本忍の世界」(集英社新書)を読みながら帰る。この本は買った翌日に「七人の侍」と「羅生門」を扱った第一章と第二章だけには目を通していた。そのとき感じたもやもやは、28日の「okatakeの日記」における岡崎さんの感想を読んで我が意を得たりと思ってすきりした。「新・読前読後」でkanetakuさんが書かれているように、僕も橋本忍氏がこれほど多くの名作や問題作に関わった脚本家であることはこの本を読むまで知らなかった。そういう意味ではとてもありがたい本ではあるのだが、逆に橋本氏についてほとんど知らないために物足りなさが残る本でもあった。これもkanetakuさんのご指摘の通り、橋本氏へのインタビューだけでなく、映画が扱った社会的事件の関係者へのインタビューも行ってその社会的背景を探っていく方法は、とても興味深いものであるのだが、そのために文章の重点が橋本氏の脚本やその思想(人物像と言い換えてもかまいません)から、社会的事件の方へ移ってしまい、肝腎の橋本氏の姿がぼやけてしまうような印象を何度となく感じてしまった。これは、僕の勝手な思いなのだが、せっかく10時間に及ぶ橋本氏へのインタビューを行ったのだから、もっと橋本氏の声を載せてほしかった。まあ、つまり橋本脚本映画の社会的意義はよく分かったのだが、橋本忍という人間についてはあまり伝わってこなかったのが残念なのだ。これは自分の興味が社会よりもその人物にあるためだと思う。こういうのを無い物ねだりというのでしょうか。


【月刊アン・サリー計画/今日の1曲】

  • Joao Gilbert「Corcovado (Quiet Nights Of Quiet Stars)」

ジョアン・ジルベルトが歌うボサノバの名曲。できれば、ジョアンとのデュエットで。