獲ったぞー。

仕事は午前中デスクワークで、午後は2カ所へ出張。1カ所は相鉄線沿線、もう1カ所は大井町線沿線の場所。出張場所の移動で自由が丘まで来たところで、相手先に連絡を入れると、あと30分後に来てくれとのことなので、自由が丘を散策する。
まずは東京書房から。入り口左手の棚は新刊本がかなり早いタイミングで古本としてならんでいるので要チェック。佐野眞一「阿片王」があれば買いたいなと思っていたのだが、なかった。
つづいて、東京書房の向いにあるブックファーストへ。ここは去年まで青山ブックセンターだったところ。経営が変わってから初めて足を踏み入れた。サブカル系やビジュアル系が厚い品揃えはABC時代と変わらず。これだけの狭いスペースとしては充分な品揃えだといえる。だけど、ちょっとカッチリ作り上げられ過ぎているような感じがしてしまう。ABC時代はもう少しユルさがあってそれが好きだったのだけど。
大井町線の線路を渡って西村文生堂へ向かう。本店のはす向かいの支店が店を開けている。ここは数年来ずうっとクローズ状態だったのでビックリ。支店の方は200円均一の店になっている。ざっと眺めるが並んでいる本は悪くない。僕の知らない著者や本が結構ある。目利きの人が見たらそれなりに掘り出し物があるのではないか。佐野繁次郎装幀が見事な源氏鶏太「美しき嘘」(中央公論社)も200円。すでに持っていなければ当然買っていた。時間がないので、サッと見て1冊だけ。

  • 清水茂「アシジの春」(小沢書店)

これは岡崎武志さんの影響ですね。白い箱に入った瀟洒で小体な本。背ヤケや古本シミは多少あるがこれが200円はうれしい。
電車に乗り、2番目の出張場所へ。仕事は思ったよりあっさりと終わった。ここから5分も電車に乗れば武蔵小山駅だ。ブログ「我読故我在」(id:die5)によく登場するあの武蔵小山である。今日は仁義も切らずに申し訳ないのだが、die5さんの縄張りで遊ばさせてもらいます。
武蔵小山駅を出て、まずは九曜書房に行ってみることにする。駅前の小山台高校に面して店があった。初めての店に入るときは期待で動悸がすこし速くなるような気がする。
小さな店ではあるが、いろいろなジャンルが詰まっていて面白い。隅から隅までじっくり眺めた結果この2冊。

川村本は1997年出版の本なのだが、まったく知らなかった。たぶん文庫にもなっていないだろう。田村義也装幀が強いインパクトを与えている。
「クリティック」は今から21年前に出た本。僕の学生時代に重なるのだが、当時この本と出会うことがなかった。ピンナップや漫画、映画、広告、写真に切手といった様々な表象の記号を取り上げて縦横無尽に論じる“記号の神話学”。冬樹社という出版社、鈴木一誌という造本者、まさにあの時代を象徴しているなあと思う。
武蔵小山と言えばあのアーケード。この街が好きな友人がいて、これまで2度ほど駅前に広がる狭い迷路のような路地の飲み屋に連れてこられたことがあるが、アーケードをちゃんと歩いたことがないので、ゆっくりと歩いてみる。するとブックオフが目に入ってしまう。目に入ってしまえば当然寄ってしまうのである。
こちらの店では単行本2冊1000円セールを実施中。まあ、こういうセールの時というのは、いい本は並んでいなかったり、既に売れたりしていてろくなものが買えないんだよなと思いながらも、単行本の棚に向かってしまう。それでもって、2冊買ってしまうのだ。

「女優杉村春子」は、先日自伝を買ったばかりなのでその関連で選ぶ。巻末に平成7年までの演劇・映画の出演年譜が付けられているのが便利。その後、文庫の105円棚を見ていてこれを見つける。

棚から引き抜いて、表紙を見た時には、「獲ったぞー」と雄叫びをあげそうになった(それほどのことではないですね)。探していた佐野繁次郎装幀本をやっと見つけたというわけ。コンパクトな文庫本のキャンバスに収まっても佐野繁本はやっぱりいいや。
満足したら、お腹がすいた。この近くに「我読故我在」御用達の洋食屋「いし井」があるはずだとアーケードから外れて路地に迷い入るとすぐに見つかった。前回友人に連れてこられたおじいちゃんが独りでやっているカウンターだけの飲み屋のすぐ近くだ。オムライス好きなので特製オムライスを食べる。美味し。
満足して電車で帰宅。車中は江國滋「落語手帖」(ちくま文庫)を読む。巻頭の「『火事息子』の親子像」を読むだけで、江國氏の落語に対する深い理解と並々ならぬ愛情を感じる。「食物描写考」は絶対ダイエット中に読んではいけない文章ですね。食欲に襲われて悶死します。読んでいて印象に残ったエピソードを2つ。
(1)落語を論じて他人に対する気配りに触れ、筆者の自宅が大水に遭った時に、知り合いの山の手の奥様が、筏に乗って水の入った瓶を持って来てくれたというもの。山の手の奥様と筏の組み合わせがとてもいい。
(2)死んだ三代目桂三木助の残された奥さんと息子を心配した志ん生が「息子を噺家にしろ、おれと文楽が面倒をみてやるから」と言った後、息子がまだ2歳だと知り、「そいつァダメだ。とても、おれの生きているうちには間に合わねえや」という話。志ん生のやさしさにほのぼのとするとともに、この2歳の息子(四代目桂三木助)のその後を知っているだけに苦い味わいが残る。



【月刊アン・サリー計画/今日の1曲】

  • Bjork「Venus As A Boy」

アイスランドの歌姫ビョークが後世に残すスタンダード。