古本夏祭り。

9時半頃起きて、洗濯をし、昼に家を出る。まず、向かうのは神保町だ。
岩波ホール付近の出口から地上に出て、手始めに最寄りのみずほ銀行のキャッシュコーナーへ。先日ボーナスが振り込まれた口座から軍資金をおろす。最初に向かったのは日本特価書籍。いつもは最後に寄る場所なのだが、今日は買う予定の新刊が多いため、1割引で買える新刊はこちらで入手しておく。

最初から飛ばし過ぎている感じ。この調子だと今日はどれくらい買い込むのか自分でも予想がつかない。
「食道楽」は600ページ近いのでなかなかのボリューム。巻末の付録も充実していて、“日用食品分析表”、“料理法の書籍”、“台所道具の図”、“西洋食器類価格表”、“西洋食品価格表”が付く。特に最後の2つは、当時どんな食器や食品がいくらで手に入ったのかを知る格好の資料となっている。この機会にこの文庫の生みの親である黒岩比佐子さんによる村井弦斎の評伝も入手。まず、村井弦斎についての知識を広げてから「食道楽」に挑戦するつもり。黒岩さんによる文庫の解説を読んだだけでも村井弦斎という人はちょっと桁外れの人物であることがわかる。南方熊楠宮武外骨岸田吟香などが少しずつ入っているような印象だ。
来た道を戻り、すずらん通りに出て、東京堂へ。日曜で書肆アクセスが開いていないため、『彷書月刊』や『フリースタイル』というリトルマガジンをこちらで購入。今日の目的である近代ナリコさんの新刊が見当たらない。
すずらん通りを斜めに横切り、東京堂ふくろう店へ。ここの平台で発見。

やっと近代本と出会えた。うれしい。『is』は先年休刊した雑誌なのだが、バックナンバーを特価で販売していた。この号は“失われた書物”特集で、執筆者は、平出隆高山宏若島正宮下志朗巽孝之鹿島茂、高宮利行といった錚々たるメンバー。図版も多く、表紙の青が気持ちいい。これで179円。買わないわけにはいかないでしょう。
日曜日にも開いている村山書店や悠久堂書店を覗いてからコミガレへ。この小宮山書店の3冊500円セールは、最近内容が充実しているのでハズレが少なくなった。期待を込めて眺める。結局以下の3冊をレジへ。

まあまあというところか。ただ、最後の山内本は講談社文芸文庫で持っていたことが帰宅してから判明した。「チボー家の人々」の翻訳で知られる仏文学者の遺稿集だ。
今日は、とても蒸し暑い。ここらで一息入れるため喫茶ブラジルでコーヒーブレイク。『彷書月刊』に目を通す。岡崎武志さん、南陀楼綾繁さん、グレゴリ青山さん達の連載を読む。岡崎さんは向井透史さん達とのセドリツアーの話。いつもの写真ではなく、岡崎さん自筆のイラストが入っているのが珍しい。南陀楼綾繁さんは、先頃終刊した『本とコンピュータ』に関わった活動の概観。お二方ともいつもの連載とはちょっと違った雰囲気になっているように思った。「グレちゃん」はいつも通り。
一息ついたので、河岸をかえて中央線沿線へと向かう。車中のお供は嵐山光三郎「古本買い十八番勝負」(集英社新書)。なにも古本を買いに行く道中でこの本を読まなくてもとは思ったのだが、いま鞄に入っている携帯本が丁度これなのだから仕方がない。せっかくなので、荻窪西荻窪の章を読んでいるうちに荻窪に着いた。
まずは、ささま書店へ。店頭均一に張り付いて物色する。A.S.バイアット「抱擁(全2冊)」(新潮社)が目に入る。これは昨年文庫で読んでしまった。とても面白い小説であった。エーコの「薔薇の名前」が好きな人にはオススメの一品。次に目に入ったのは安岡章太郎「果てもない道中記」単行本の上下揃い。この「大菩薩峠」論にも興味があるのだが、肝腎の「大菩薩峠」を読んでいないのでは、買ったところでいつ読めるかも分からないのでパス。するとその上の方にこの本を見つける。

白い瀟洒な箱に黒い本体が収まっている。装幀は栃折久美子さん。朝日新聞に連載した文芸時評集だ。店内も見て回ったが結局これ1冊だけを買う。こころなしかレジ打ちの店員さんの目が冷たいような気がする。
荻窪はささまだけにして、西荻窪へ移動。最初に興居島屋からせめる。冷房の効いた店内に入るとホッとする。ここのいい意味で雑本の香りのする雰囲気は大好きだ。しかし、残念ながら今日は何も買えずに店を辞す。この店から人通りのすくない住宅地を抜けて音羽館ハートランドに向かうコースが気に入っている。このあたりにはまだ昭和40年代から50年代にかけて建てられた住宅が結構残っており、それらの家々の今の建物とは異なる風情が何とも言えない。ハートランドを覗いてから音羽館へ。音羽館で2冊。

都筑本は最近あちこちのブログで購入本として名前が挙がっていたので気になっていた本。昭和62年の初版なのに今月出た新刊のように程度がいい。文庫1冊にもこの店の矜持が感じられる。「チェコマッチラベル」は古本ではなく、もちろん新刊。南陀楼綾繁さんによる委託販売かもしれない。この本をレジに持っていくと店員さんがとてもうれしそうな表情をして「入ったばかりなんですよ」と言う。今日回った新刊書店では視界に入ってこなかったのだが、この店に入ったらすぐ目についた。ここで買えてよかったと思わせる店員さんの反応であった。最近できたにわとり文庫の場所を聞くと丁寧に教えてくれる。
思えばまだ昼食を食べていない。隣りのキャロットは5時から開店する。時計を見ると4時20分だ。あと数軒覗いて戻ってくることにする。中央線のガードをくぐり、西荻窪駅方向に向かって歩く。信愛書店に入る。実は今日の目的の一つに先頃亡くなった漫画家・永島慎二さんの「フーテン」(ちくま文庫)の入手があったのだが、これまでの店には置いてなかった。この店は新刊書店なのだが、品切れ状態の本でもよく揃えているのでここにくればあるのではないかと期待していたのだ。しかし、残念ながら「フーテン」はなし。その代わりこの2冊が置いてあった。

結局この2冊を購入して店を出る。すでに愛用のホソノのトートバックははち切れんばかりである。岡崎さんではないが誰か後ろから羽交い締めにして止めてくれ状態となっている。
それでも足はにわとり文庫へ。中央線沿いを荻窪方面へ向かって行った果物屋の隣りににわとり文庫があった。小さな店だが、本が厳選されているのがよく分かる品揃えだ。棚と棚の感覚が狭いので、バッグを下に置き、しゃがんだり立ったりしながら左右の棚を眺める。レジには若い女性が座り、その横には店主と思われる方が座っている。本ではち切れそうな鞄を抱えて大汗かいた男が棚をあちらこちらと移動している様子を不審そうに見つめている。いい感じの店なので、開店祝いではないけれどなにか1冊は買って帰りたい。そこでこの本を見つける。

昨日読了した「市井作家列伝」の和田芳恵の章でこの本が引用されていて面白そうだったのでこれにする。
キャロットに戻り、チーズハンバーグと豚肉の生姜焼きとクリームコロッケのセットを食べる。汗をたくさんかいているので、ついてくる味噌汁の塩分が体に染み入るようだ。
井の頭線経由で帰宅。車中で「古本買い十八番勝負」読了。石田千さんこと“チエちゃん”がいい味を出している。しかし、石田さんは実際にこんなしゃべり方をするのだろうか。だとすれば、やはりそこいらを歩いている今時の女性とはひと味違う人物である。ますます石田千ファン度が高まりそうだ。
帰宅すると、遠くから花火を打ち上げる音が聞こえてくる。今日は横浜港の花火大会だ。東横線も昼から混んでいた。残念ながら今の部屋からは花火は見えない。音が聞こえてくるだけだ。以前に住んでいた白楽の部屋からは近所の家々の屋根越しに花火が小さく見えたのだが。
いったい今日は何冊買ったのだろう。読まなければならない積ん読本が山となっている部屋にまたもや新しい本が増えてしまった。しかたない、今日は僕の古本(及び新刊)夏祭りということにしておこう。