買ったり、買わなかったり。

土曜日なので午後4時前に仕事が終わる。東京の古本エリア(神保町・早稲田・中央線)へ出向くには遅く、そのまま帰るには早い時間なので、東横・みなとみらい線馬車道駅へ出る。
お目当ては駅出口前にある誠文堂書店。ここはみすず書房の新刊が比較的早く古本としてでるので、先月刊行の川口喬一「昭和初年の『ユリシーズ』」が出てはしないかと期待してきたのだ。階段を上がり、店内に入る。今日の店番は奥さんではなくバイトの男性だった。荒川洋治「忘れられる過去」、エドマンド・ウィルソンフィンランド駅へ(上・下)」、高田里惠子「文学部をめぐる病い」といった魅力的な書名が飛び込んでくる。しかし、すでに持っている本なので買うことはできない。こぢんまりした場所に各ジャンルの人文書がよく揃っていていつもながら感心する。来る度に映画と美術の棚が充実していく感じを受ける。残念ながら、「昭和初年の『ユリシーズ』」は見当たらず。その代わり、富士川義之「新=東西文学論 批評と研究の狭間で」(みすず書房)をとも思ったのだが、結局買い逃していた大西巨人五里霧」(講談社文芸文庫)を500円で購入。
思った買い物ができず、馬車道ディスクユニオンを覗いた後、伊勢佐木モールへ。誠文堂書店が現在の馬車道へ移転するまで営業していた店舗に他の古本屋が入っているという噂を聞いたので行ってみると確かに田辺書店という店が営業している。誠文堂書店時代の棚をそのまま居抜きで使用したカタチ。文庫、新書から文学、芸術、歴史書哲学書と幅広く一般的な品揃え。絶版文庫などをチェックしてみると値段はしっかりついている様子。ただし、中公文庫や岩波文庫の絶版ものなどもそれなりの数があり、棚を眺めるのが楽しい。文学関係の回想録などが揃った棚があり、これは今後も足を運ぶことになりそうだなと思う。その棚の中に小沼丹福寿草」(みすず書房)を見つける。迷ったが今回は見送ることに。この店ではこの1冊を買う。

富山氏は、東大の由良君美教授門下の秀才と高山宏氏が評価する英文学者。夏目漱石の英文学研究などにも言及しているので、以前からその著書をいくつか読んでいる。「シャーロック・ホームズの世紀末」(青土社)、「ダーウィンの世紀末」(青土社)、「『ガリバー旅行記』を読む」(岩波セミナーブックス)、「ポパイの影に」(みすず書房)など、理解できたかはともかくとして、面白かったという記憶はある。この「文化と精読」は、以前雑誌『文学』で富山氏が参加したカルチャラル・スタディーズに関する座談会の時に言及されていて読んでみたいと思っていたのだが、新刊としてもほとんど見なかった上に、比較的神保町で見ることの多い名古屋大学出版会の本でありながらこれまで古本屋でも見かけることがなかった。中山書店や悠久堂書店の棚を覗く度に探していたのだが出会えず、この田辺書店で遭遇することになった。個人的に、座談会などでの富山氏の妙に強気なキャラクターが好きなので、それにつられて本を買っているところがある。
有隣堂へも寄る。

森山本は以前から気になっていたのであるが、山本善行さんの「天声善語」で絶版になったら必ず古書価が上がる本とされていたのに背中を押されて。もう1冊の続編の方はなかった。その代わり、yomunelさんの日記に出てきた野見山暁治「四百字のデッサン」(河出文庫)が棚にあるのでびっくり。もう絶版になっているのかと思っていたのだ。yomunelさんの言うとおり活字が昔の文字組なのでかなり小さい。せっかくまだ生きているのなら、大きな文字組にすればいいのに。まあ、僕は単行本で持っていてそちらで読むつもりなので小さいままでも構わないのだが。
「この文」の2005年ミステリー&エンターテインメントBEST10は復刊モノが上位を占める。「江戸川乱歩全集」(光文社文庫)、中井英夫「虚無への供物」(講談社文庫)、辻真先「仮題・中学殺人事件」(創元推理文庫)など。辻本などは、今から30年ほど前に朝日ソノラマ文庫版で読んだ記憶がある。その本が今年のベスト10に入るとは不思議だ。「虚無への供物」も高校時代に昔の講談社文庫で読んだ記憶あり。
帰宅後、鈴木地蔵「市井作家列伝」(右文書院)の第1章「木山捷平の眼」を読む。評判通りに面白い。まず文章がいいですね。《小体な》なんて言葉が自然に使われている。また、要所に登場する奥さんの存在が味わい深い。「須雅屋の古本暗黒世界」のご夫婦に通じるものがあるような。なんだか、もったいなくて一挙に読めない。1章ずつ、ちびちび読んでいくことにしよう。
最近、家でジャッキー・マクリーンのCDをよく聴いている。今日はこの1枚。

ブルーノート時代のエッジをきかせてトンガっているマクリーンも悪くないが、このプレステッジ時代のユルいアルバムもいい。1曲目の「センチメンタル・ジャーニー」なんて、聴いていると陽だまりで寝ている猫になった気分。音楽による半身浴という感じ。
4,5&6