『en-taxi』がすごいぞ。

職場で息抜きにブログ散歩をしていたら、「密偵おまさの市中視回り日録」(id:mittei-omasa)で『en-taxi』10号が出ていることを知る。しかも、洲之内徹氏や永井龍男氏に関する記事が載っているとのこと。退勤後勇んで本屋へ。
書店で手にして驚いた。なんと付録の小冊子がついており、それが昭和25年に書かれた洲之内徹氏の小説(「棗の木の下」と「砂」)の復刻版なのだ。これらの小説は絶版になっている「洲之内徹小説全集」(東京白川書院)に収録されており、この全集が古書価1万円以上するため、これまで気軽に読めなかったのだが、これで洲之内氏の小説が文庫本感覚で読めるようになったのだから喜ばしい。ただ、全集を持っているものとしては、ちょっと複雑な心境ではあるが。
紙面では、福田和也氏が康芳夫氏や立川談春さんとともに「洲之内コレクション 気まぐれ美術館展」や新潟出湯温泉にある山小屋をめぐる探訪記、野見山暁治「共倒れだな、洲之内さん」というエッセイなどが並んでいる。前者では、康氏が語る、ハイパーナルシストで女ったらしで、金銭感覚がないダメな洲之内像が最高だ。また、野見山さんの回想でも氏のダメ男ぶりが指摘されている。その欠点が指摘されるほどむしろ洲之内徹という存在がより魅力的に思えてくるところに氏の本質があるのではないかと思う。
鼎談「文学の器」では、車谷長吉氏をゲストに迎え、坪内祐三さんと坂本忠雄さんの3人で永井龍男氏の「青梅雨」や「秋」といった作品について語っている。車谷氏は小説における「虚点」と「実点」をキーワードにして永井文学について語るのだが、いまいちそのタームの意味するところがつかめず、ピンとこない部分がある。坪内氏と車谷氏の話でもそこの受け取り方で一部かみ合っていない感じもする。その齟齬がむしろ、“ライブ感”となってこの鼎談を楽しいものにしている。
この他にも、高田渡特集、坪内祐三亀和田武両氏による中央線対談、草森伸一氏の連載など盛りだくさん。前号の落語・草森特集(唐十郎戯曲の小冊子付き)も読み応えがあった。最近のこの季刊誌の充実ぶりはすごい。どこかで坪内氏がこの値段(860円)でこの内容は安いということを言っていたが、同感です。
en-taxi』の他にもう1冊。

  • 斉藤寅次郎「日本の喜劇王 斉藤寅次郎自伝」(清流出版)

映画コーナーの棚で見つけて思わず衝動買いしてしまう。自伝とあるが、昭和6年から57年に渡って雑誌などに書かれた自伝的エッセイに、斉藤監督を知る人へのインタビューを加えて1冊にしたもの。年譜や作品リストがついているのがうれしい。小林信彦氏が斉藤寅次郎監督の喜劇映画を評価していた文章を読んで以来、気になっていた監督。ただ、映画を観たことがないので、ますは文章で触れてみようと思ったのだ。その最良の部分が記録されているわけではないと言われるが、エノケンやロッパ主演で撮った映画を観てみたい。