「こんにゃく問答」で憂さ晴らし。

今日も昨日同様平塚へ出張。天気はいいのだが、風が強く花粉症の身にはつらい。昨晩鼻の状態がひどかったので、今朝は鼻炎の薬を飲んでから出かける。薬を飲むと眠くなるので、車中はずうっと寝てばかり。
晴れて気温は高いのだが、風が強い。野外の日陰にいると体温を奪われむしろ寒く感じる。今日の昼食は、出張先周辺でと考えるが、周囲に適当な店がない。以前に一度行ったラーメン屋を思い出し、片道10分以上かけて歩いて行く。同じ場所にそのラーメン屋はあった。4年ほど前に行った時には、店の前に行列ができるような繁盛店であったが、今日はカウンターに2、3人いるだけ。この前にはなかった手書きのセットメニューやサービスメニューの張り紙がこの店の苦境を物語っているような気がする。ピリ辛赤味噌ラーメンと餃子を注文する。ここの手作り餃子は客が必ず注文していたという記憶がある人気メニューであった。ラーメンの方は普通であったが、やはり餃子は旨い。とにかく、体が温まってホッとする。
6時過ぎに仕事が終わる。夕方から急に曇りだし、霧雨が降り始めたので、早く帰ろうと思うのだが、駅前にブックオフがあるのを思い出して、つい寄ってしまう。105円棚から4冊。

色川本は文庫オリジナル。生前の連載を死後にまとめたもの。旧約聖書の世界と著者との関わりを語っている。
開高本は酒に関するエッセイのアンソロジー青木雨彦吉田健一吉行淳之介遠藤周作伊丹十三山口瞳レイ・ブラッドベリ古今亭志ん生などの文章を収録。
芝木本は、映画「洲崎パラダイス」の原作が入っているので購入。映画も未見なのでこれを機会に映画の方も見てみたい。映画監督川島雄三にも興味がある。
ハイスミス本は短編集。ハイスミスは見つけると買っているので、これも既に持っているかもしれないが、後悔しないようにかごに入れる。
帰りの車中では、小林信彦「物情騒然。」(文春文庫)を読む。再々読なのだがやはり面白い。小泉今日子へのこだわりなど面目躍如の感がある。また、ある文章では歴代の「宮本武蔵」の配役を語りながら、次の一文で締めくくる。
《本当は、武蔵=イチロー、小次郎=新庄剛志ってキャスティングのが観たいのだが、これは無理ですね。》
このセンスが小林さんの真骨頂ですね。これは是非とも観てみたいし、同時に2人の魅力的な野球選手の本質に対するこれ以上なく簡潔な解説になっている。
この年(2001年)小林さんにとって忘れがたい事件として古今亭志ん朝さんの死がある(この件については2つの文章で触れている)。文庫版あとがきでも次のように語る。
《落語界というのは〈業界〉だから、その後(古今亭志ん朝さんの死後ー引用者注)も続いているが、〈微妙な江戸言葉による華麗な世界〉は志ん朝さんの死でとどめをさされた。CD化されていない「こんにゃく問答」のテープをきくと、こんにゃく屋の六兵衛が大和尚になりすましている荒れ寺の様子を、立て板に水の調子で大仰に描写するおかしさは、何度きいてもたまらない。江戸言葉の終わりに立ち会う悲しみも薄くなるほどだ。》
小林さんにとって志ん朝師匠の死がいかに痛手であったかを感じさせる文章だが、それ以上にその「こんにゃく問答」のテープを貸してほしいと思わせる文章でもある。小林さんは、失われてしまった黒澤明の「姿三四郎」のカット部分をオリジナル版で2度観ているとも書いている。どちらもうらやましいが、ネガが紛失した「姿三四郎」とはことなり、志ん朝師匠のテープはそこにあるのだから、もったいぶらないでCDにしてください。僕らも小林さんと同じこの嫌な時代を生きているのだから、「こんにゃく問答」で憂さをいっしょに晴らさせてくれてもいいじゃないですか。お願いします。
それとも、テープでは発売されていたのだろうか。探してみよう。