こんなに買えて嘘みたい

仕事を終えてから地元のブックオフへ散歩がてら歩いて行く。
気温が高く、気持ちよく足が進む。『en-taxi』掲載の中野翠さんの文章(「不器用なスター 桂文楽」)で、文楽の「よかちょろ」や「王子の幇間」における言葉遣いの絶妙さが賞賛されていたのを思い出し、ipodでその2席を聴きながら歩く。これまで文楽のかん高い声に苦手意識があってCD全集を持っていながら聴かず嫌いの傾向にあったため、これを機会にもう一度文楽に挑戦してみようと思ったのだ。「よかちょろ」の馬鹿息子も、「王子の幇間」の平助も己の思いや考えを相手に伝えることよりもひたすら自分の眼前にあるものがどう見えるのかを描写し続ける。その過剰な描写意識が言葉に加速装置をつけたかのような饒舌へと止めどなく進んで行くところが面白い。今日聴いてみて以前より文楽が好きになった。
ブックオフに到着。ここの店にくるのは久しぶりだ。今日は当たり日のようで、欲しい本がどんどん目の前に出てくる。結局13冊の本を購入した。

以上すべて105円。
「詩画集 女と男」の存在はまったく知らなかった。ヴェルレーヌランボーとの性的関係を歌った詩を含む秘密出版の私家本を澁澤龍彦が翻訳し、池田満寿夫が挿画を描いて限定出版したものの文庫化であるらしい。中村真一郎が序文を書き、池田満寿夫の絵もカラーで掲載され、澁澤龍彦ヴェルレーヌについて書いた短文も収録されているという豪華本である。正直、池田満寿夫の絵は好きではないが、それでも持っていたい一冊だ。
丸谷本は単行本は持っているが文庫は持っていないので。山口本の「男性自身 木槿の花」は向田邦子の死を悼む連作エッセイが白眉。すでに持っているのだが、何冊でも欲しくなる。「梔子の花」の方は短編小説集。
丸谷・山口本(単行本を除く)以外は持っていないので探していた本ばかり。こんなに欲しい本が一度にブックオフで買えたのは初めてに近いのではないかと思う。先日、京都三条ブックオフで力み過ぎて買えなかった分を古本の神様がこちらに回してくれたのかもしれない。