今日の音楽

ある日、何気なくテレビ番組を見ていたら、この人がスタジオでギターを弾いていた。普通にメロディーを弾くと同時にネックの所で弦をタッピングして重層的な、ポリフォニックな音の世界を作っていた。すごいと感心してすぐにこのメジャーデビューアルバムを買ってきて聴いた。3曲目の哀愁漂うオリジナルもいいし、6曲目の「MERRY CHRISTMAS MR.LAWRENCE」はもともと曲が好きだということもあってうれしく聴き、10曲目の「ハリー・ライムのテーマ」は原曲をただなぞっている様に思わせながら、細かいテクニックに裏打ちされた高見へと連れて行かれるような気になった。一聴後、新たな才能が現れたなとうれしく感じた。
程なくして、セカンドアルバム「DRAMATIC」が発売され、迷うことなく購入。だが、しかし、そこにあの押尾コータローはいなかった。なにがどう違うのかは分からないのだが、あの輝きや心弾む思いはこのアルバムにはなかった。「STARTING POINT」がビートルズの「ラバー・ソール」だとすれば、「DRAMATIC」はポール・モーリア・オーケストラが奏でるイージーリスニングの「イエスタディ」のようなものでしかない。こんな風に感じるのは自分だけかもしれないが、そうとしか思えないのも事実なのだ。
新生ブルーノートが旗揚げの時、鳴り物入りで登場した超絶技巧を誇るスタンリー・ジョーダンというギタリストがいた。“マジックタッチ”というコピーで一躍脚光を浴びたが、そのスーパーテクニックに驚いた聴衆もそれに慣れるとだんだん彼に興味を失っていき、彼の姿を第一線で見ることがなくなった。押尾コータローの2枚のアルバムを聴きながらそんなことを思い出した。その後、彼のアルバムを新しく購入することはなくなったのだが、最近ライブアルバムが発売されたのを知った。はたしてそこにいるのはどっちの彼なのだろうか。興味はあるのだが、まだ買う決心がつかないでいる。

STARTING POINT   Dramatic (CCCD)    ボレロ! Be HAPPY LIVE