「読む人」展に行ってきた。

今日は土曜なので、2時過ぎには職場を後にする。
最寄り駅の近くの書店で小林信彦「東京散歩 昭和幻想」(知恵の森文庫)を購入。
今日は車内で読む本をこれにするつもりで最初から読みかけの本をカバンに入れてこなかったのだ。
単行本、新潮文庫版に続いて3度目の読書であるが、何度読んでも飽きない。
ほとんどが数頁の短文ばかりであるが、それがかえってエッセンスの抽出効果を発揮しているような感じがする。
電車の移動でちょこちょこ読むのにもいい。

品川駅で下車し、新高輪プリンスの先を折れて、右に行くと啓祐堂という古書店があり、その中のギャラリーで行われている林哲夫さんの素描展「読む人」を観る。この店には初めて来たのだが、どこか見覚えがある気がする。『銀花』2004年冬号に紹介されていたことを思い出す(後でデイリースムースを読み直してみたらそのことに触れていた)。ギャラリーには林さんがいて、知り合いの方と話をされている。壁一面に貼られた読書をする人々を描いた素描を眺めていると、林さんが声を掛けてくださり、自己紹介をする。この日記を読んでますと言われ、うれしいやら恥ずかしいやら。洲之内徹さんや佐野繁次郎さんの話をする。会場には林さんの最新刊が2冊置いてあった。

今日の目的のひとつに、これらの本の購入があった。そして、その本にサインをしてもらう心積もりであったが、当然の如くにそこに積まれた本はすべてサイン本であった。「歸らざる風景」は造本に力を注いだことがよく分かる本で、厚紙を折って本を巻く形の明るいグレーの箱(正式な名称を知らないのでこんな説明になる)に、縦長の濃いグレーの本がおさまっている。クリーム色が少し強めに入った紙に、最近の標準よりは小さ目の文字で本文が組まれている。このシックに遊んでいる感じが素敵だ。林さんの洲之内徹論が2本収録されており、これも楽しみ。
ゆっくりしていたかったのだが、お客さんが立て込んできたのと、この後神保町に寄る予定なので、会場を後にする。
電車を乗り継いで神保町へ。
時間はすでに5時近くになっており、急いで書店を回る。まず、東京堂ふくろう店の坪内祐三棚から古本を1冊。

坪内さんがあるエッセイで最近この外国文学者の随筆のよさに目覚めたと言っていたので興味を持った。以前に古書モールで「芍薬の歌」を買っているので2冊目となる。他で探せばもう少し安く買えるとも思ったのだが、箱に押された文字や本のカバーの緑色がとてもいいので購入決定。
そのあと古書モールに寄るが、時間がないのでさっと流して何も買わずに出る。神保町の夜は早いのでゆっくりしていると店が全部閉まってしまうのだ。真剣に見たらここだけで1時間以上は必要となるので、致し方ない。今度時間をかけてゆっくり見ることにしよう。
田村書店店頭均一台から小宮山書店ガレージセールへ。コミガレ3冊500円台で佐野繁次郎装丁の源氏鶏太「停年退職」(朝日新聞社)を見つける。ところがあと2冊が見つからない。2、3度台を往復したが、手が出るものが他にないのだ。悩んで立ち尽くしていると、店員さんが店じまいをはじめるに及んで泣きっ面にハチ状態となる。結局、この1冊を500円で買うことに。古本赤貧王・山本善行さんが見たら、軽蔑されるような有様である。服地の切れ端と独特の佐野繁次郎手書き文字をあしらった装丁がすばらしいのでよしとする。
岩波ブックセンターを覗こうとしたら既に閉まっていた。時刻は6時30分。東京のど真ん中で、この時間に店を閉める新刊書店があるとは。さすが神保町と思うとともに、神保町の古本屋街がこれからの時代に生き残っていくためには、仕事帰りのサラリーマンやOLを取り込む姿勢が必要になるだろうとも考える。少なくとも、平日の会社帰りに神保町の古本屋街周遊をするにはよほど暇な地元の会社にでもいない限り不可能である。新たな客層が広がりつつある時期だけに古書店主のみなさんはこの問題を真剣に考えた方がよいと思うのだが。

日本特価書籍で、気になっていた新刊を数冊。

文庫の棚には、「東京散歩 昭和幻想」が5冊ほど並んでいた。知恵の森文庫はこの本だけ。この店の人文書系書店としての充実ぶりを鹿島茂氏が称賛していたことを思い出す。明確にどういう客を相手にするのかを定めた姿勢が潔い。贔屓にしたくなる店だ。

明日は、休日出勤なので、その分今日は楽しんだ。