ケンブリッジの船徳

本日は雑誌を1冊。

特集は「住みたい町」。編集スタッフのアンケートでは1位吉祥寺、2位下北沢、3位谷中・根津・千駄木。う〜ん、新鮮味がない結果だなあと思う。それに街に詳しい人間が多いとはいっても内輪の人間だけのアンケートだけで決めてしまうのもどうか。人数も少ないし(1位で8票)。
この雑誌は特集が面白そうな時だけ買っているのだが、今回は個人的にはハズレであった。それでも目を奪われたのは「横浜・根岸 崖ロード」というページ。横浜特有の崖の壁面や山の斜面のウニュウニュとした曲線が面白い。崖崩れ防止のためにコンクリートで覆われたその姿がとてもシュール。キャプションでは「ダリの絵みたい」となっているが、僕にはガウディの建築物のように見える。夜の写真が多いもの雰囲気があっていい。もっとページ数があればよかったのに。

この雑誌を買うようになったのは、好きで聴いている古今亭志ん朝さんのCDの確か「寝床」のマクラで最近街歩きを趣味としていて、その時の参考に『散歩の達人』を使っていることを語った後で、志ん朝さんが「一度お買い求めになってみるとよろしいですよ」と言っていたのが頭にあったからである。その志ん朝さんも今はいない。思い起こすたびに残念である。

仕事の研修でイギリスに1ヶ月程いたことがある。それまで、2泊3日の韓国旅行しかしていなかった自分がひとりで30日以上も海外で生活しなければならないことになってしまった。話せる言語は日本語だけという状態で毎日英語の中で暮らすことのプレッシャーを考えてバックに入れていったお守りが、志ん朝さんの「明烏船徳」のCDである。このCDのおかげで何度ひとり寝のホテルの夜の無聊が慰められたことか。ケンブリッジで1泊したとき、ベンチに腰掛けて流れるカム川を眺めていると、レンタルのゴンドラ舟に妻と子供を乗せた日本人のお父さんが棹で舟を進めようとするが思うように行かず、あっちへぶつかり、こっちの舟に接触し、家族の悲鳴が湧きあがる光景が目の前に展開された。昨夜聞いた「船徳」がこんな形で異国の川で変奏されようとは、志ん朝さんも思いもしなかっただろうと考えたら可笑しくなった。

志ん朝さんの音源はそれなりに出ているし、その音源をもとにした「志ん朝の落語」(ちくま文庫)全6巻も出ているが、高座での映像はまだDVDなどで出てはいない。テレビで放映されたものは幾つかビデオにおさめてあるが、録画できなかったものも多い。どこかで出してくれないものか。TBSさん、よろしくお願いしますよ。