8,500円の文庫本。


 ふと気づくと水曜日から働いていない。と言いながら水、木、金、土と朝7時過ぎから職場へ行っている。土曜以外は夜7時過ぎまで約12時間いて、いつもの通りの業務をやっていた。しかし、タイムレコーダーには記録されていないので、労働時間にはカウントされていない。休日出勤1日=振替休日1日という概念のなかったこの業界にも、働き方改革の波は押し寄せてきて、親会社からのお達しで我が職場にも1日休日出勤をしたら1日休まなければならないという決まりができた。その上、これまで通常勤務扱いであった12月末と1月初めの屋内仕事や野外仕事も休日出勤扱いに変わった。職場はその分の代休を取れと言う。しかし、休日を取れる日がない。通常勤務の日に休んだら、その分の仕事を別の誰かが自分の仕事にプラスして働かなければならない。仕事の性質上、今日の仕事分を明日に回すということができないのだ。今日の仕事は今日やるしかない。自分しか担当者のいない屋内仕事は自分が行かなければ実施できない。屋内仕事の関係者に迷惑はかけられない。となると、代休の届けを出した上で、職場へ行き通常の業務をすることになる。しかし、タイムレコーダーは押せないから、働いているけど労働時間にはならない。通常の業務を通常通りやっているのだから、別に辛いというわけではない。ただ、この状況が続けば、実際の月の労働時間が基準を超えていたとしても記録としてそれが残らない形になってしまう。これはまずいことだろう。厄介なのは、職場は「休め」と言い、自分も「休みたい」と思っているのに、もし本当に規定通りに休んだら、自分の仕事に大きな穴が空き、それによって自分や職場がうまく回らなくなってしまうというこの状況なのだ。


 今日も休日出勤の屋内仕事で朝から職場へ行く。これでまたどこかで代休を取らなければいけないのかと思うと気持ちが晴れない。午後からは、自分がひとりで担当している職場の会報誌の仕事をする。年末に印刷屋に入稿した原稿の校正刷が来たので、それを執筆者毎に切り分けて、締め切り等の事項を書き入れた紙に貼っていく。短い文章ばかりなので執筆者は軽く50人を超えてしまう。この校正用のシートを作るのに午後が丸々潰れる。単純な作業なのと、休日で職場にほとんど人がいないため、イヤフォンで音楽を聴きながら黙々と作業を進める。BGMにはこれを選ぶ。

  • 和田誠編「いつか聴いた歌 ブロードウェイ・アンド・ハリウッド」(ソニー


【CD】いつか聴いた歌(3)ブロードウェイ・アンド・ハリウッドオムニバス [SICP-31059]


 和田誠画伯が選んだスタンダード集シリーズの「いつか聴いた歌」は1と2をすでに持っていたのだが、最近になって3が出ていたことを知り、手に入れた。クールテナーの男性歌手が歌うスタンダードナンバーの心地よさに休日出勤でこわばった心も少し癒されるようだな。





 職場を出て、駅ビルの本屋に寄る。昨日から買うかどうか悩んでいたこの辞書を買うことにした。


広辞苑 第七版(普通版)



 発売日の12日にこの辞書がこの店に並んでいるのを見て、手に取った。そして値段を見て驚いた。特別定価8,500円(税別)。えっ、「広辞苑」ってそんなにするの。この価格で一般の人が果たして買うのだろうかと心配になった。こちらは仕事柄辞書は必需品のため、いくつあっても構わないのだが、それでもこの値段にはちょっと衝撃を受ける。それは商品の価値に対して値段が高すぎるということではなく、このサイズの紙の辞書が「一家に一冊」と言えるようなものではなくなったという現実に直面したショックなのである。ネットで気軽に言葉の意味を検索できる現代において紙の辞書を地道に改訂して出版し続けることの大変さと困難さがこの値段に現れているのではないかと思えたのだ。


 辞書が好きで、仕事でも使う人間としては別にこの値段だから買わないということはない。実はすでに昨夜アプリ版の「広辞苑 第七版」を購入し、iPadiPhoneにダウンロード済みである。やはり、いつでも持ち歩け、どこでも参照できるアプリ版はありがたい。それに老眼に向かいつつあることを考えると文字の大きさを調整できる電子書籍は便利である。しかし、紙の辞書も捨てがたい。しかも、予約特典ということで紙の「広辞苑」には三浦“舟を編む”しをん「広辞苑をつくるひと」という文庫本が付いてくるという。昨夜、TBSラジオクラウドで聴いた「荻上チキSession22」でこの付録文庫本の内容が素晴らしいと激賞されていて、それは是非読みたいという思いを強くしていたところ、ここの店頭販売分にもこの文庫が付いていることを知り、やはり紙の辞書も手元に置こうと思った次第。辞書本体の内容はアプリで読めるのだから、結果的にはこの文庫本に8,500円出したことになるのか。多分人生で一番高い文庫本だと思う。