会場のメリーゴーランド。

 前の晩遅くまで仕事をして算段をつけておき、今日は昼前に退勤。新横浜駅へ向かう。


 日差しはもう真夏だ。バスを待つのももどかしく駅への坂をずんずん歩く。ふと、本を鞄に入れ忘れたことに気づいた。新横浜で京都行きの新幹線の切符を買う。少し余裕のある出発時間のものにして駅ビルの上にある三省堂書店に寄る。携帯本を調達したいのだ。

コーヒーゼリーの時間

コーヒーゼリーの時間



 2時間で京都着。とりあえず暑い。これが京都の夏かと思う。むわっと熱気が360度から体を包む。すぐに汗だくになる。地下鉄で四条烏丸へ行き、予約をしておいたビジネスホテルにチェックイン。シングルの部屋はベッドとソファで埋まっていた。まあ、寝るだけの部屋だからこれでいい。狭いとクーラーの効きもいいしね。荷物を置いて早速今日の目的地、メリーゴーランド京都へ向かう。


 7月の土曜の京都は人であふれている。日差しを避けて四条通ではなく錦小路を通って河原町へでようとしたがこちらも人でぎっちりと詰まっている。なんとか河原町へ出ることに成功。たしか、目的地は高瀬川沿いだったなと歩き始めてみたもののなかなか目当ての建物が出てこない。スマホで地図を検索して道を一本間違えていたことに気づく。今日の4時から開催されるスムーストークショーの時間がだんだん迫ってくる。暑さと焦りで汗がまた吹き出る。何度か道を行きつ戻りつした結果なんとかメリーゴーランド京都へ到着する。ドアを開けるとそこにはギャラリーと本棚が並んでいるだけで、イベント会場と思われる要素は何一つない。店番をしている女性に「すみません、スムースのトークショーの会場はこちらでしょうか?」と聞いてみると「いえ、こちらではなく徳正寺です」という返事。そこではたと自分の思い違いに思い至る。そうだ、こちらは林哲夫さんの作品展をやっているギャラリーで、トークイベントは別会場だったのだ。こんな見当違いな珍客に女性は優しく徳正寺の場所を教えてくれた。先ほどの倍速の焦りと汗でひたすら徳正寺へと急ぐ。


 四条通りから富小路通りを入ってすぐのところに徳正寺はあった。4時少し過ぎに何とか到着。まだ、トークショーは始まっていなかった。セーフ。椅子席は埋まっており、スムースメンバーの前の座布団席しか空いていないということで結果的に最前列でトークを聞くこととなったのは怪我の功名だった。それから2時間、楽しい時間を過ごす。テレビカメラが入っており、それは荻原魚雷さんをBSのTV番組が取材しているのだそう。それもあって進行役の岡崎武志さんや山本善行さんはあれこれと魚雷さんに話させようとしているのが面白かった。話の内容はスムースのイベントの出席率は高いと自負する僕にとっては懐かしさを感じるものが多かったが、メンバー6人がそろって並んでいる姿を見ながら話を聞いているだけで充分楽しい。隣に座っていた書肆紅屋さんが詳細に記録を取られていたのもスムースイベントでは御馴染みの光景だった。メンバーのどなたかが言っていたが、雑誌が休刊して時間が経っているのにこれだけ人が集まることはすごいことだと思う。また、これもどなたかの発言に「『sumus』は神保町にあった書肆アクセスでとてもよく売れた。アクセスがなかったらこの雑誌はこんな風にはなっていなかった。」とあったが、まったくその通りだと思う。東京近郊に住んでいる者にとって『sumus』は書肆アクセスという窓を通じて吹き込んでくる心地の良い風のようなものであった。アクセスという窓があった時代にちょうどすずらん通りを歩いていてよかったなとトークを聞きながら感じていた。


 イベント会場で地元で買えなかった本を2冊購入。


書生の処世

書生の処世


 前者は魚雷さんにサインをもらい、後者は「書影の森」の装幀+エディトリアルデザイン担当者(実際はそれ以上のことをこの本のためにされているらしい)林哲夫さんにサインを入れてもらった。この本のが売れないとみずのわ出版が次に企画している「花森安治の装幀」を出すことができないので、ぜひ買ってほしいと林さんが熱弁をふるっていたのが印象的であった。


 参加者に配られた茶封筒の中には、林さん作成の「スムース年表(クロニクル)」や扉野良人さん編集の『スムース別冊 詩と文』(これが今回の目玉)などが入っていた。茶封筒にもさりげなく『sumus』のロゴが入っているところが素敵。


 会場となった徳正寺は、四条通のすぐそばにあるという立地にも驚いたが、本堂の欄間の彫刻の見事さや寺という和風な空間に突如出現したモダンな宙に浮く茶室(恐竜の背骨のような階段を上がって下から室内を覗くとそこはしっかり和風の空間になっている)があるなど、赤瀬川原平が京都での宿としたのがうなづける味わいのある場所であった。





 その後、同じ富小路通りにある「ト一」(といち)という店での二次会に誘っていただき参加する。ここにもBS放送のクルーが来ていてその仕事熱心ぶりに感心する。スムース同人の方達やそのファンの方たちと心地よい時間を2時間ほど過ごして散会。


 せっかく京都に来たので、ぼんやりと夜の鴨川、高瀬川先斗町など歩く。夏の京都でしか味わえない雰囲気を堪能する。


 昼間の人波が嘘のように閑散とした夜の錦小路を通ってホテルに帰着。汗まみれになった体をシャワーで流してから就寝。