夏の参列。


 昨日は有給休暇を取って仕事を休んだ。


 本来なら複数の関わらなければならない仕事が目白押しのこの日に休みを取るのは大ヒンシュクなのだが、今回はあちらこちらに頭を下げて我儘を通させてもらった。


 
 先日、大学時代の友人のひとりから、昨年11月に他界した同級生の墓所が分かったので仲間で集まって墓参りに行こうというメールが来た。四国に住んでいる同級生も出てくるという。僕以外のメンバーは堅気の商売をしているので土曜は休日になるためこの日になったらしい。つまり、僕ひとりさえ仕事の都合をつければ万事丸く収まるというわけだ。


 あれこれ事前にお願いや準備をしてきたはずなのだが、いくつか心配な点があり、早朝職場に行って2,3のフォローをしてから職場を抜け出す。駅に向かう道を向こうから来る通勤途中の同僚から姿を隠すようにバスに乗り込んで駅へ。有給休暇は労働者の権利なのだが、連日の猛暑の中、僕の分の仕事まで背負い込む同僚の前を胸を張って歩く気にはなれない。


 待ち合わせ場所の横浜駅東口で友人の車に乗り込む。ここで待ち合わせたのは3人。もう1人は墓所近くの駅まで電車で来ることになっている。向かうのは茨城県。それぞれ顔を合わせるのも久しぶりのため、近況報告から話は始まる。それぞれの仕事の愚痴も済んだところで、「あまちゃん」の話に花が咲く。話に夢中になったドライバーの友人が高速を降りるはずの柏インターを通り過ぎる。やむなくもう一つ先のインターからのルートに変更する。


 常磐線の駅でもう1人の友人を乗せて、目的地へ向かう。いつの間にか周囲は青々とした稲田になっていた。道路端の看板には「間宮林蔵饅頭」の文字が。そうか間宮林蔵はここらの出身なのか。このころから友人の車のカーナビが暴走を始める。やたらと「右方向です」を連呼し、それを信じて右折すると個人宅の敷地に突っ込んでしまう。その後も「右方向」を指示し続ける「右傾化」したカーナビとなんとか折り合いをつけて稲田の真ん中に突如出現した小高い土地の上にある墓地公園にたどり着いた。ガウディの建築を模したようなセレモニーホールを持つ、思っていたよりも広い霊園だった。


 水を入れた桶と線香と雑巾と供え物のワインを持った4人の男で彼女の墓の前に並んだ。彼女の結婚式、披露宴、二次会のそれぞれの司会をした3人とその様子をひたすらカメラに収め続けていた1人の計4人だ。「男友達4人に墓参りさせるなんて鼻が高いんじゃないか」と心の中で問いかけながら、友人が水をかけた墓石を雑巾でひたすら拭く。自分の父親の墓もこんなに丁寧には拭いたことがないくらいしっかり手を動かした。彼女の病いは家族にも青天の霹靂で、進行も速く、あっという間に旅立ったらしい。そのせいもあって彼女が他界したことが伝わったのは年が明けたこの春だった。だからわれわれは彼女の葬儀にも参列できず、病床の彼女を見舞うことさえもできなかった。


 その思いもあるのだろう、4人同時に墓の前で手を合わせて長い間頭をたれていたのだが、長すぎたのではないかと思って顔を上げてみると他の3人はまだ顔を上げていなかった。


 墓地公園を後にして、カーナビが紹介してくれた田んぼの中の寿司屋で遅い昼食。4人で食事をするなんて何年ぶりだろう。それぞれ鉄火丼、刺身定食、ちらし寿司などのランチセットを頼む。まず冷水が出て、次にお茶、そして最後にアイスコーヒーが出てきたので驚く。寿司屋でコーヒーなんて。そう言えば彼女はコーヒー好きだった。これも何かの供養かもしれない。


 常磐線の駅で一人が降りる。残りの3人は横浜駅で解散。ひとりになる。供え物のワインが入った鞄が重い。霊園の規則で供え物は一切持ち帰らなければならないのだ。

 その足で横浜そごうに入り、ロフトの時計売り場で腕時計を買う。先週、これまで愛用していた腕時計を無くしてしまったのだ。仕事上時間のわかるスマートフォンを常時携帯するわけにはいかないためやはり腕時計がないと不便なのだ。それに、あと1週間ほどで英国出張が控えている。時差を伴う出張に時計は欠かせない。気分を盛り上げるために英国ブランドの名前のついたものにする。同じフロアにある紀伊国屋書店に行き、英国関係の本を物色してから、新しく時を刻みはじめた腕を振りながら帰る。