ジェイズ・バーから眺める明治。


 例年のことながらゴールデンウィークとなると「今年は7連休」などといった言葉が飛び交い、それを聞くたびに、まるで異国の話をされているかのような遠い目をしてしまう。


 4月29日から5月5日のうちで休めるのは5月1日(日曜日)だけであとはすべて仕事である。しかもその唯一の休みもこの時期の花粉症にしてはやけに鼻水が出てぼうっとするなあと思っていたら風邪をひいていることが判明し、一日風邪薬を飲んで家でぼんやりしているうちに過ぎた。ただ、座椅子にもたれたり、寝床に寝転んだりしながらのんびりと堀江敏幸「なずな」(集英社)を読めたのは悪くなかった。

なずな

なずな


 今日までに半分ほど読んだのだが、この最新長編を自分なりにどう評価すればよいのかは正直まだよく分からない。これまで僕が堀江敏幸氏の小説に求めてきたものは、「いつか王子駅で」や「河岸忘日抄」のようなブキッシュな散文か「雪沼とその周辺」のような上がりのよい短編であって、この「なずな」のようなそのどちらとも言えない作品ではなかった。そう言いつつも愛らしい「なずな」ちゃんの魅力には抗しがたく最後まで読んでしまうとは思うが。



 そういうわけで、今日も朝から休日出張の野外仕事である。昨日が日焼けするほど暑かったのでほとんど防寒具と言えるものを持って行かなかったのだが、思いのほか寒かった上に雨まで降り出し、結構ハードな仕事になった。


 仕事を終えての帰り道、横浜駅西口の有隣堂に寄る。日垣隆さんがTwitterで紹介していたこの本が出ていたので帰りの電車で読もうと買ってみる。

 

電子書籍を日本一売ってみたけれど、やっぱり紙の本が好き。

電子書籍を日本一売ってみたけれど、やっぱり紙の本が好き。


 日垣さんの本を買うのは久しぶりかな。有料メルマガ「ガッキーファイター」のごく初期からの購読者なので、日垣さんの活動や書籍に関してはそれなりにフォローしているのだが、その著作まですべて目を通そうというほどのモチベーションはなくなっている。それは別にこちらの思想信条が変わったというようなものではなく、今の自分が以前よりも疲れているからだと思う。日垣さんの本の多くは自慢話がちりばめられており、それが日垣本の魅力を構成するスパイスとなっているのだ(もちろん、こちらもそれが好きで読んでいたのだ)が、人の自慢話を聞くには体力と余裕が必要であり、最近の疲れて余裕のない自分にはそれがちょっと辛くなっていた。今回はその題材が「電子書籍」や「紙の本」といったものなので久しぶりに手に取る気になった。


 横浜から電車に乗り、その車中で読み始めると「はじめに」から自慢話が炸裂で、やっぱり笑ってしまう。そして、笑える自分に少しほっとする。



 地元駅で降りて、駅ビルの本屋へ。ここで一昨日見かけた本がまだ置いてあるかを確認。まだありました。

  • ジェイ・ルービン「風俗壊乱 明治国家と文芸の検閲」(世織書房


風俗壊乱―明治国家と文芸の検閲

風俗壊乱―明治国家と文芸の検閲


 この本の原著は1984年にワシントン大学の出版局から出ており、それを今井泰子・大木俊夫・木股知史・河野賢司・鈴木美津子という5人が共訳している。著者のジェイ・ルービンと言えば村上春樹作品の英訳者として名を知られているアメリカの日本文学研究者である。先日、棚で見つけて手に取り、ちょっと興味を惹かれながらも「またそのうちに」と一旦棚に戻したこの本をどうして今日わざわざ確認しに行ったかというと、一昨日の夜に偶然「晩鮭亭」で検索して見つけたあるブログが上記訳者のうちのどなたかのものらしく、「風俗壊乱」の完成と出版を喜んだ記事の最後になぜか「晩鮭亭さん、損はさせないので、ぜひご一読下さい。」というメッセージが書かれていたのを読んで驚いたということがあったからだ。もちろん、上記5人のどなたとも僕は面識を持たない。たぶん、この「晩鮭亭日常」をご覧になり、黒岩比佐子「パンとペン」や紅野謙介「検閲と文学」を読んでいる僕の興味関心と「風俗壊乱」の内容が合致すると判断されてのメッセージなのだろうと推測する。


 お名指しであれば、受けて立ちましょう。それが本を買う理由になることであればお断りすることはまず考えられない人間なので、いそいそと今日また本棚を再訪したというわけだ。


 帰宅して、買ってきた「風俗壊乱」をパラパラと眺める。小森陽一氏の解説にはこうある。

《ジェイ・ルービン氏の『風俗壊乱 明治国家と文芸の検閲』は、国家による検閲という問題系から照射した、きわめて独自な日本近代文学史である。一八八〇年代の明治国家において作り出された検閲制度がどのように機能したのか、そしてそれと一人一人の文学者がどのように対抗し、あるいは抑圧されたのかが、自然主義文学運動が高揚した日露戦争後の時期を中心に捉えられている。》


 今、中公文庫でドナルド・キーン氏による日本文学史の近世篇と近代・現代篇の刊行が始まり、現在近世篇が2冊出ていてこれを買いそろえているのだが、外国人の研究者による日本文学史というのはとても興味深く、読んでみたくなる。この2人の異邦人の目から見た日本文学の歴史を楽しみながら読み比べてみたいと思う。

日本文学史―近世篇〈1〉 (中公文庫)

日本文学史―近世篇〈1〉 (中公文庫)

日本文学史 - 近世篇二 (中公文庫)

日本文学史 - 近世篇二 (中公文庫)