世界は僕の知らないところで動いている。

 
 昼過ぎまで仕事をし、退勤時間になったところで、職場を出る。同僚をひとり伴って新幹線に乗り、近場の温泉街へ。


 今日は、職場の1泊宴会があり、僕がその幹事役。駅に降り立つと春満開とでも言いたくなるような暖かさ。タクシーでホテルへ。フロント前には受付用のカウンターが準備されているのだが、ここで落ち合うはずの旅行業者の姿がない。とりあえず、ホテルの担当者と話をして、作ってきた部屋割りを入れた名簿を出して準備をすすめる。


 しばらくして業者登場。「いやぁ、30分前に着いてしまいまして」などとのたまう。じゃ、今までどこにいたのよ。2時間ほどカウンターで上司や同僚たちの到着をチェック。風呂に行こうとする同僚がこちらに来て「そこに××コーナーがあったから、寄ったら××無料券がないとダメだと言われたけど、部屋になかった」というクレームが。そんな券のことなど聞いてないぞと思い、業者に確認。どうやらそれは個人旅行用のパックに付く特典らしい。そんな××くらいで目くじら立てなくてもと思うが、今日は裏方なのでおだやかに事情を説明しておく。


 宴会開始前20分となったので受付カウンターを閉め、旅行バッグを持って部屋へ向かうとすでに先に到着している同室者たちは風呂に行ったらしく鍵がかかっている。リラックスした宴会なので、浴衣で参加するはずがジャケットにネクタイ姿で行かねばならなくなり、鞄を持ったまま宴会場へ向かう。


 宴会が始まる。こんどは受付嬢(?)から、司会者へ。ほぼ全員が浴衣かスエット状態のなかで僕だけがネクタイ姿。これじゃ本当にアナウンサーの営業みたいだよ。
 退職者や転勤者に挨拶をしてもらう。そのひとりが突然の結婚発表。盛り上がる会場。その相手はしかもここにいる同僚。おいおい、2人とも僕と同じ幹事じゃないか。それじゃ、何かいこっちが忙しくイベントの準備に追われている時に君たちはそーゆーことになっていたりなんかしちゃったりしてんだからなあ、もう、ちょん、ちょん(故広川太一郎氏風に)。
 カラオケーコーナーとなり、退職者の先輩から歌のリクエスを受けたので、同僚カップルのために「ハナミズキ」を。


 その後、用意しておいた二次会のカラオケスナックに移動。ここでも先輩からリクエストされて「いとしのエリー」を歌うが、その前先輩はさっさと部屋へ戻ってしまう。なんのためのリクエストなのか。


 こちらで用意したのはこの二次会まで。後は各自でご自由にどうぞということなのだが、おさまらない人たちはエレベーター前のソファーで酒瓶を握りながら気炎をあげている。これをおさめなければならないため、予備にとっておいた部屋の鍵をフロントに取りにいく。戻ってきたら誰もそこにいない。どうやら誰かの部屋で飲む算段がつき、そこに移動したらしい。バカらしくなって自分の部屋に戻り、同室者と夜の1時まで話す。そろそろ、寝ようかと思っていたら、ノックの音が。「空き部屋の鍵を貸してください」とのこと。これからまた飲むのかい。


 今日連絡なくドタキャンした同僚の扱いをどうするかという問題を抱えながら床につく。別の場所では三次会が盛り上がっており、日帰りで宿泊費を払っていない同僚がその勢いで泊まってしまったという事実をこのとき僕は知らない。