損/得しかない世界。


 五時半起床。途中で目覚めることなく寝られたのは久しぶり。


 朝から暑い。愛用の財布はカナダで消えてしまっているため、昔新宿のベトナム料理屋で小物として売っていた布製の小銭入れを見つけ出し、そこにポケットの小銭をためている袋から500円玉と100円玉を詰め込んで家を出る。まだ、クレジットカードもキャッシュカードもすべて失効したままなのだ。



 職場へ行き、野外仕事。10日近く日本の夏を離れていた体にこの猛暑はたまらない。汗が滝のように流れる。


 シャワーを浴び、着換えてから同僚と仕事の打ち合わせ。


 退勤して、駅までバス。歩く気にならず。


 本屋へ。

 “人気作家24人のおすすめこの1冊!”と“「本で歩く東京」ガイド”の2つの特集で購入。後者は豊崎由美さんが担当している。前者の特集で桜庭一樹という最近よく名前を聞く作家が掲載されている写真で女性であることを初めて知る。


 駅近くの蕎麦屋で蕎麦と野菜天丼。日本食をしばし離れていた舌にちょっとしたごほうびをやる。


 夜、机仕事をしていると、電話が鳴る。NTTから今使っているヤフーをやめて光回線にしろというセールス電話。《損/得》の二分法しかない世界と口先だけ丁寧な話し方にイライラする。


 「パソコンは何台お使いですか。」
 「×台使ってます。」
 「ありがとうございます。」
 
  その「ありがとうごさいます」ってなんなの。


 「特に、今の環境に問題を感じていないんですが」
 「そうですか。今のADSLで問題はないし、変えるのは面倒くさいというわけですね」
 「………。」
 
 確かにそのとおりだけど、それをあなたが口にしてはいけない。


 加入を断って受話器を置く。


 机に向かっていても、まだ時差ぼけが残っていてぼんやり眠い。