私がルールブックだ。

いつものように風呂で落語。今日は桂吉朝「地獄八景亡者戯」を聴く。全部で74分もあるため、六道の辻でお経を買いに行くところまで。それ以上風呂にいたら“どざえもん”になってしまう。
昼過ぎに部屋を出て、東横、井の頭、JRと乗り継いで、荻窪・ささまへ。

  • 山下洋輔(編)「音がなければ夜は明けない」(光文社)
  • 山口瞳「小説・吉野秀雄先生」(文春文庫)

前者は店頭均一で、後者は店内で。山下本は今月知恵の森文庫に入ったものの単行本。田中靖夫氏の装幀と絵が楽しい。また収録されている音楽エッセイを書いているメンバーが多士済々で興味深い。山口本は文庫ではじめて見た。両方あわせて300円。最近、ささまで500円以上の買い物をしていない気が。
各駅で次の阿佐ヶ谷へ。
最近開店し、その品揃えの良さがいつくかのブログで話題になっていた風船舎に行ってみる。

挨拶代わりに2冊購入。前者は、「気まぐれ古書店紀行」で岡崎さんがインタビューされたと書いていた元NHKアナウンサーによる回想記。サイン本であった。今読んでいる三國一朗「肩書きのない名刺」の影響か、アナウンサーの書いた回想記に反応しやすくなっている。
風船舎は、駅に対する店の位置が、西荻にわとり文庫とよく似ている。店の品揃えもこの2つの店は共通するものがあると思う。僕が好きな本を集めて古本屋をやれと言われたら、やはりこんな風な店になるだろうな。つまり、好きな店だということです。値段も良心的。
阿佐ヶ谷の古本屋を回るのは初めてなので、以前から気になっている店を回る。中杉通りという街路樹のある雰囲気のいい通りを歩いていくと、右側に銀星舎、左側にゆたか。書房、石田書房がある。まずは、一番遠くにある石田書房から覗く。

前者は、店内にあるうさぎ書林の特設棚から。うさぎ書林店主の芳賀さんのブログで知った店なのだが、小林信彦本の充実振りといい、落語、映画関係の新刊が早くも棚に並んでいる様子といい、小振りだがとても気持ちいい店だ。ジャズが流れていた。
駅に戻りながら、ゆたか。書房へ。

「気まぐれ古書店紀行」を読んで知った店。店主の方がとても丁寧な応対をしてくれる。早稲田のメイプルブックスの店主の方を思い出した。こちらも文学書を中心に棚が充実している印象。
中杉通りを反対に渡り、銀星舎へ。

「肩書きのない名刺」で三國氏が司会をした「私の昭和史」という番組に石原氏が出たときのエピソードを読み、興味をもったところへタイミングよくこの本が。この店は、美本ばかりを揃えており、ほとんどの本にビニールのカバーをかけてくれている。美術、芸術系が充実していた。
これまで、入ったすべての店で本を買っているが、これは、“初めて行った店では挨拶代わりに何か1冊でも買う”という自分なりのルールに則った行為である。とは言うものの、これだけ初めての店ばかりだと、正直経済的にも自宅の生活環境的にも辛い感はいなめない。次の高円寺では、このルールは適用しないということに決める。自分自身がルールブックなので、こういう時は便利だ。つまりは、いい加減に生きているということなのだけど。
さて、高円寺へ移動する。もう、4時近いのにまだ昼食を食べていない。実は、以前から高円寺にあるベトナム料理店「チョップスティック」に行きたいと思っており、そのためここまで空腹を我慢していたのだ。この店は、学生時代の恩師・紅野謙介先生(といっても面識があるだけで直接授業を受けたことはないのだが)のブログでフォーがおいしいと紹介されていたので知った。都丸書店の近くの細い路地を入ったところにある半分屋台のようなカウンターとテーブル席が少しだけの小さな店。牛スジのフォーとハーフサイズの海南チキンライスを頼む。寒さに縮んでいた身体に暖かいフォーが染み込んでいく感じ。花粉を感じ始めた鼻に、香草の香りが心地よい。予想以上に美味しい。これまで食べたフォーの中では一番ではないか。スープも全部飲み干した。ベトナム料理が好きな人は足を運んで損はない店だ。
中通りを歩いて十五時の犬に行く。この店には、初めて南部古書会館に来たときに場所が分からずさまよっていて偶然見つけたこの店の方に聞いたところ快く地図まで書いて教えてくれたという思い出がある。とても小さな店なのだが、暖房もつけずに頑張っている店主の方(若い男性)を見ていると何か買わずに出られなくなる。

なかなかみかけないちくま文庫としてどこかで名前が挙がっていたのを思い出し、手に入れておくことに。
次に向ったのは中央書籍。ここも中に入るのは初めて。邦画のビデオが沢山置いてある。

もう、買わないつもりだったのだが、欲しかった本が300円(多少鉛筆の線引きあり)だったので、買ってしまう。誰か止めてくれ。
その後、アジアンドックへも行ったのだが、なんとか持ちこたえて買わずに出る。小さいけれどステキなお店でした。
いつも、荻窪西荻中心にしか回っていなかったので、今日は初めて阿佐ヶ谷、高円寺の古本屋の質の高さを知ったというところか。さすが中央線沿線、参りました。
7時前に、コクテイルへ。ここで今晩、岡崎武志さんの「気まぐれ古書店紀行」刊行記念イベントがあるのだが、ここまで書くのに時間を取られて、もう寝る時間を過ぎてしまった。この続きは明日追記します。

【以下、翌日の追記】

コクテイル入口に行くと、前に女性3人の姿が、どこかで見た方がと思っていると南陀楼綾繁さんのところの一部屋古本市でご一緒したか猫さんだった。僕を覚えてくれていて声をかけてくださる。
他の二人は、岡崎さん命名の“古本おぎやはぎ”でか猫さんの相方の河野さんとネット古書店主であるうみ猫さんであった。
店内に入り、きょろきょろしていると岡崎さんが声をかけてくれる。岡崎さんの近くには「彷書月刊」編集長で古書店主の田村治芳さんの姿が。その後、続々と人が集まってくる。神保町の喫茶ぶらじるの竹内さん、「本のメルマガ」で向井透史さんと楽しいコンビを組んでいる柳瀬さんといった方々も来場。7時を過ぎて、イベントが始まった。
まず、第1部は岡崎さんによる「気まぐれ古書店紀行」についての話。雑誌には掲載されたが、事情によって本には収録されなかった古本屋の話などを面白く聞く。特に、「彷書月刊」での連載を取り持ってくれた坪内祐三さんと大宅文庫で偶然出会う話は興味深かった。この話の坪内バージョンが23日のジュンク堂で聴けるかもしれない。
第2部は、岡崎さん、田村さんに加えて坂崎重盛さんという豪華な3人による古本トークショー。岡崎さんと同じ関西出身という田村さんの巧みな語りに惹きつけられる。田村さんは「気まぐれ古書店紀行」における岡崎さんの仕事の意味づけをしっかりとした上で、楽しく茶化しているので安心して笑っていられる。東京出身の坂崎さんはほとんど聞き役に回っていたが、自己紹介で「最近『「秘めごと」礼賛』という本を書きました。名著です」と自画自賛しておられた。冗談ぽい口調の中にも自負が感じられる発言だった。これは読まなくてはと思う。
第3部は、本の装幀をされた興居島屋の石丸澄子さん、そして久住卓也さんを岡崎さんがゲストに迎え、工作舎の石原さんが進行役になり、「気まぐれ古書店紀行」の本作りに関わる話を中心に聞かせてくれる。石原さんの編集者としての誠実な仕事ぶりとその要求を見事カタチにした岡崎さんと石丸さんのすばらしさ。いい話を聞きました。
休憩時間に柳瀬さんが話しかけてくれる。「本のメルマガ」の「実録・がっちり買わなかったでショウ」の荻原魚雷さん篇がとても面白かったという話をする。魚雷さんに関する書けない話がいろいろあって面白そう。
また、イベントの最初に参加者の自己紹介が行われたのだが、僕が「晩鮭亭日常」をやっていると言うと、海ねこさんが「読んでま〜す」と声をかけてくれる。海ねこさんに「僕も海ねこさんのブログ読ませてもらってますよ。」とお伝えしたかったのだが、うまくきっかけがつかめなかったのでここに書いておきます。
去年の暮れのイベントでコクテイルに来たときには、岡崎さんおススメの“大正コロッケ”が売り切れで食べられなかったので、今回は早々に注文し、食べることができた。
店内には、石丸澄子さんと久住昌之さん製作によるオリジナル手ぬぐいが飾られ、1枚1000円で販売されていた。一番気に入ったのは売り切れだったが、その次に気に入ったものを2枚購入する。これをお土産として帰途に着く。楽しいひと時でした。
帰りの井の頭線で、「肩書きのない名刺」読了。三國さんの、対象との距離のとり方や自分自身を客観的に見る時の目線のあり方が好きだ。他の著作も是非読んでみたい。東横線に乗り換えて、本も買ってきた山口瞳「小説・吉野秀雄先生」に読み替える。その中から、「木山捷平さん」、「内田百?小論」、「曲軒・山本周五郎」を読んだ。