われ傍受に成功せり。

本日出張のため、いつもより朝がゆっくり。
出かける前に『考える人』秋号所収の坪内祐三「考える人」に目を通す。今回は吉行淳之介の巻。この連載はあと2回で終わりとなるそうで最後は福田恆存氏にすることを決めているそうだ。前回か今回で取り上げる予定だったという須賀敦子さんをぜひ次回にお願いしたいものだ。須賀さんの文章に一時期ハマっていたことがあり、当時出ていた本はみな片っ端から読んだ。河出書房新社から出た全集も毎月出ると買って揃えた。須賀さんの訳したアントニオ・タブッキの小説やウンベルト・サバの詩集も部屋のどこかにあるはずである。
都内の某所に10時から缶詰になって仕事。5時までかかる予定が3時半には終わってしまう。しめしめ、地下鉄で2、3駅行けばそこは神保町だ。火曜日に続いて今週2度目の来神(こんな言い方あるのでしょうか)。書肆アクセスを覗くと「須雅屋の古本暗黒世界」(id:nekomatagi)で紹介されていた雑誌「札幌人」2005年秋号が店頭に並んでいた。この号は古本屋特集で、須雅屋さんも紹介されている。
今日は畠中さんがいらっしゃったので、先日BOOKMANの会でお会いした『四季の味』編集者の藤田さんが自費出版されたという本の在庫を確認すると、下の棚から出してくれる。

  • 杉浦幸雄「漫画エッセイ おいしいネ」(駒書林)

『四季の味』に昭和58年から平成16年に渡って連載された食に関する漫画エッセイ80余編を集成したもの。大きな判型なのは、杉浦さんの絵をしっかり見てもらおうという藤田さんの考えなのだろう。文章はページの3分の1で、残りが絵に割かれている。杉浦氏の絵は、昭和レトロな懐かしさを感じさせながらも、古びないモダンさもある。チャップリンの「黄金狂時代」から有名な靴を食べるシーンを描いた一枚がいいな。
この2冊を持ってラドリオに入る。アイスコーヒーを飲みながらしばし眼福の時を過ごした。
その後、岩波ブックセンター田中小実昌「上陸」(河出文庫)を購入し、『図書』10月号を貰う。こんなふうに毎日本を買っているから、富豪のボンボンだなんて勘違いされるのだろうな。今日は昼食は弁当支給、夜は仕事で立食パーティーに出席のため2食分浮くので、その分の食費を本代に回しているつもりなのだが。
ということで、横浜のホテルで行われているパーティーに向かう。車中は小林桂樹「役者六十年」(中日新聞社)を読む。昭和17年から平成15年までのほぼ60年に渡る映画人生を語っている。出演作品数が260を超えるので、個々の映画に関する話は簡略なものなのだが、小林氏の真面目で誠実な人柄を感じさせる楽しい読物だ。これを読んでぜひ観てみたいと思った映画は、「裸の大将」(堀川弘通監督)、「江分利満氏の優雅な生活」(岡本喜八監督)、「三等重役」(春原政久監督)、「南の島に雪が降る」(久松静児監督)など。それから、小林氏と三船敏郎氏が立ち回りを演じた「侍」(岡本喜八監督・橋本忍脚本)のビデオを以前にブックオフで買っていたことを思い出した。今度観てみよう。
パーティーに遅れて参加。とりあえず料理を腹に詰め込もうとするが、途中で人につかまりパーティーの最後まで話し込まれて身動きとれず。人が帰り出した会場に残り、胃袋に少し補充をしてから会場を後にする。
帰宅すると9時を回っている。慌ててラジオをつけ、周波数1332kHzに合わせる。ザアザアという雑音の向こうに微かに男女の会話が聴こえる。まるで玉音放送を聴いている昭和20年にタイムスリップしたようだ。ラジオの場所を色々と変えるとどうにかクリアな音声となった。「蘇州夜曲」、「WHEN YOU'RE SMILIN'」などの歌が流れる。「胸の振子」になると電波の状態なのか、時折音が大きくなったり、小さくなったりする。これも昔の歌手の歌を昔のラジオで聴いているようで、逆に風情があっていいかもしれないと思える。なにはともあれ、アン嬢のラジオがどうにか聴けることがわかってホッとした。これで毎週金曜日の夜の楽しみができたぞ。

役者六十年