驢馬に乗って古本屋へ。

今日も出張だ。しかも小田原まで8時過ぎに行かなければならない。在来線を使うとバスの始発に乗っても危なそうなので、仕事の鬼となって(自分を甘やかして?)新横浜から新幹線に乗る。自宅を出て1時間で着いてしまった。出張先となる場所まで、急な坂を上っていく。道の左右にお寺がいくつもあり、緑も横浜より一色濃い感じがする。
今日も寒い。途中俄雨などあり、またも蓑虫状態。午後早く仕事が終わる。小田原駅近くにはブックオフもなく、さすがの「ミス古書」にも古本屋の記載がないので、そそくさと帰る。
車中の読書は、佐藤嘉尚「『面白半分』快人列伝」(平凡社新書)。活字が大きく、内容も楽しいため、さくさく読めてしまう。やはり、本書の読みどころは第2章「激しい夫婦−金子光晴・森三千代」にあると思う。この夫婦の尋常ならざるアジア・ヨーロッパ放浪に興味を持って中公文庫の「マレー蘭印紀行」、「西ひがし」、「ねむれ巴里」、「どくろ杯」などを買い込んであるのだが、未だ積ん読状態だ。また、この本には金子光晴の絵画展が開かれ、そのために西郊ロッヂングで金子氏が屏風絵を口から泡を吹きながら長時間掛けて描き上げる様子が出てくる。僕が詩人・金子光晴の画人としての一面を知ったのは、昨年古本屋で手に入れた今橋映子(編著)「金子光晴 旅の形象」(平凡社)によってである。この本には、金子氏が貧困に喘いだ海外放浪の中で描いた水彩画など30余点が掲載されている。この絵がいいのだ。山水画とビアズレーとルソーが入り交じったような不思議な世界。この人、やはりただ者ではないですね。
晴れたと思えば急にシャワーのような雨の降る中を帰宅。コンビニで買った「サンデー毎日」に掲載されている岡崎武志さんが文章を書いた「ふるほん文庫やさん」のグラビア記事に目を通す。最初のページに紙袋に入った文庫の写真があり、一番手前に角川文庫の坂口安吾「不連続殺人事件」が写っているのだが、これが映画(たしかATG)の1シーンの写真を使っていて、女性の胸が露になっている。まずこれに目がいってしまった。安吾に興味を持った高校時代に、この文庫を買おうと思いながら、この表紙が恥ずかしくて結局買えず、全集で読んだ記憶がある。(同じく角川文庫の夢野久作ドグラ・マグラ」も米倉斉加年の裸婦のイラストが凄すぎて買えず、そのトラウマのせいか未だに未読のままだ)。棚の遥か向こうまで中公文庫の肌色の背表紙が続く写真は、中公文庫好きには堪えられないものがありますね。一度、四方を中公文庫の棚で埋め尽くされた部屋で寝てみたいものだと思ったりする。幸せな一夜になるかうなされるか分からないが。
岡崎“文庫王”武志さんが、ピックアップしたという絶版文庫の写真の中では、田中小実昌「乙女島のおとめ」(集英社文庫と読める)が欲しい。どんな内容の本なのだろう(以前に岡崎さんが日誌で書いてくれていたような気もするのだが)。それから、鴨居羊子「わたしは驢馬に乗って下着をうりにゆきたい」(旺文社文庫っぽく見えるが確認できない)もすごい題名だな。なにも驢馬に乗って行かなくてもいいのに。
驢馬に乗っていくなら、本屋、それも古本屋がいい。前にギリシャサントリーニ島に行ったとき、フェリー乗り場から崖上の街まで驢馬に乗って上がれるのだが、1人では出発してくれず、複数のお客が来るまで待たされるのが嫌で乗るのを断念したことがある。そのサントリーニの街に夜になると露天の古本屋が出ていた(何故が脇に“MR.ビーンローワン・アトキンソンの等身大のパネルが置いてあった)。宿からあの本屋までのんびり驢馬の背に揺られて行ってみたら気持ちがいいだろうな、きっと。
【追記】
最初にこの日の日記を登録したとき、角川文庫の「ドグラ・マグラ」の表紙を池田満寿夫氏によるものと書いてしまったのですが、よく考えてみると米倉斉加年氏の絵であったと思い当たり、訂正しました。