アンケートという駅弁。

 昨日は、職場の同僚たちとの食事会が夕方から予定されていた。仕事を終えるとまだ2時間ほど時間がある。時間潰しに本屋を周遊することにする。

 

地元の古本屋を覗いてから、駅ビルの新刊書店へ。

 

-『群像』3月号

 

群像 2020年 03 月号 [雑誌]

 

 

お目当ては橋本倫史「水了軒の滊車辨」。“追悼 坪内祐三”としてこの一編だけが掲載されていることといい、他のページとは違う上のスペースをあけたレイアウトでゆったりと組まれていることといい、なにか特別な文章という感じを与えてくれる。横浜駅に向かう列車の中で読んだ。橋本さんと坪内さんの銀座での偶然の出会い。『坪内祐三は二〇〇六年の時点で絶望していた』という街への言葉。その言葉の意味を確認する意味でも「復活」した水了軒の駅弁を一度食べてみようと思う。失われてしまったものは残っているものを手掛かりとして想像するしかないのだから。

 

 

まだ時間があるので白楽駅で途中下車。久し振りにツイードブックスを覗く。先日の月曜日に白楽に来たのだが、この店は月曜定休。代わりに鉄塔書院(この店が健在なのはうれしい)で、宮田恭子「ジョイス研究」(小沢書店)と北村富治「『ユリシーズ』案内 丸谷才一・誤訳の研究」(宝島社)を購入した。

ツイードブックスでもこの夏ダブリンに行く準備のためのジョイス本を入手。

 

-柳瀬尚紀「フィネガン辛航紀」(河出書房新社

-北村富治「『ユリシーズ』詳解」(洋泉社

 

 

フィネガン辛航紀―『フィネガンズ・ウェイク』を読むための本

 

『ユリシーズ』註解

 

 久し振りのツイードブックスは前と変わらずいい古本屋だった。鉄塔書院といい、ここといい白楽にはいい店が多いといつも思う。

 

 

 それから横浜駅へ行き、同僚たちとおいしい熟成肉を食べて帰宅。

 

 

 

 今日は録画しておいたドラマ「古滝兄弟と四苦八苦」(野木亜紀子脚本・山下敦弘監督)を見ながら遅い朝食をとってから神保町へ。『みすず』の読書アンケート号を買いに行く。

 

 車中では若竹七海「静かな炎天」(文春文庫)を読む。今年1月から始まったNHKのドラマ「ハムラアキラ」の第1話を見たら主演のシシド・カフカの存在感が原作の葉村晶のイメージをいい感じに裏切っていて面白かった。しかし、まだ読んでいない原作をベースにしたドラマを先に見てしまうことに抵抗があり、第2話「静かな炎天」は録画しておいて観る前に原作を読もうと考えてカバンに入れてきた。

 

 

静かな炎天 (文春文庫)

 

 神保町へ到着。東京堂書店へ。

 

-『みすず』読書アンケート号

-山田稔山田稔自選集 Ⅱ」(編集工房ノア

-マティアス・ボーストレム「〈ホームズ〉から〈シャーロック〉へ 偶像を作り出した人々の物語」(作品社)

 

 

〈ホームズ〉から〈シャーロック〉へ――偶像を作り出した人々の物語

 

 

 

 年の初めに『みすず』のこの号を読むのが毎年の恒例。今年も無事入手できた。

山田稔自選集」は全3巻のうちの第2巻がでた。すでに持っている第1巻は、毎晩寝床に入ってから収録されている散文を一編ずつ読むのを楽しみにしている。読み終わったらこちらにバトンタッチするのだ。

 「〈ホームズ〉から〈シャーロック〉へ」はコナン・ドイルが世に出したホームズの物語がドイルの死後どのように享受され、どのように二次創作されていったかについての本。こちらはこの夏のロンドン行きのための資料。

 

 

 続いて三省堂書店へ。

 

-北川扶生子「漱石文体見本帳」(勉誠出版

-シルヴィア・ビーチ「シェイクスピア・アンド・カンパニイ書店」(河出書房新社

 

 

漱石文体見本帳

 

シェイクスピア・アンド・カンパニイ書店 (KAWADEルネサンス)

 

 前者は、ロンドン関係で漱石の倫敦留学について興味があるので最近また漱石本を集めだしているため。

 後者は、パリにあった書店の店主の回顧録ジョイスの『ユリシーズ』を出版したのはこの店だった。古い版で持っていたと思うが新版が自由価格本として半額以下で出ていたので購入。

 

 

 カバンがずしりと重くなったところで神田伯剌西爾へ。ブレンドとシフォンケーキをたのんでから『みすず』を開く。細かい活字を追いながら濃いめのブレンドを飲むひと時は一年に一度のものだけに喜びもひとしお。目次に“坪内祐三”の名前を見つけてそのページに飛ぶ。生前にすでにアンケートは送られていたのだなと思う。坪内さんは文春新書を1冊だけ挙げている。文学関係ではない書名なのだが、その理由を読んでなるほど坪内さんの好奇心の中心を射抜く内容なのだと納得する。

 

 

 帰りの車内も前かがみになって『みすず』の細かい活字を追う。これが同じサイズの文字で書かれた電子機器のマニュアルだったらとても読んでいられない。中身が魅力的なものであれば、目は活字を追うことをやめはしないのだ。