「銭湯断片日記」を買った日。

4月から始まった仕事の新体制にもようやく慣れてきたのだが、やはり疲れる。

 

 

 昨日は、夕方から歯医者の予約が入っていたので少し早めに退勤する。疲労感からか何やら甘いものが食べたくなったので、パンケーキミックスを買って帰り、大きめのパンケーキを3枚焼いて夕食にした。1枚目は火力弱く失敗。2枚目はまあまあ。3枚目はこんがり上出来。パンケーキがうまく焼けただけで自分を褒めてやりたくなるのは仕事で自分を褒めることができていないからかもしれない。

 

 

 

 今日から9連休。しかしそれは職場の話。自分の仕事がないのは今日1日だけ。明日から6日までは連日仕事が続く。だから今日は唯一の休日。7時まで寝ていようと思ったのだが、快晴の朝日が部屋に差し込み6時に目が覚めてしまう。寝足りないのだが、眠くない。仕方がないので起きて朝風呂。

 

 

 

 湯舟に睡眠不満足の体を横たえながら、「夢の中で会えるでしょう」のいろいろなバージョンを聴く。この間、ザ・キングトーンズの内田正人さんが亡くなった。その記事を読んでいて氏が自分の職場と関わりのあった人であることを知った。TOKYOFMの「山下達郎のサンデー・ソングブック」が2週連続で内田正人追悼企画を行っていた。ザ・キングトーンズ山下達郎大瀧詠一の関係など興味深いプログラムであったが、ザ・キングトーンズのために曲を書いたミュージシャンに高野寛がいて、その曲が「夢の中で会えるでしょう」であることも知った。

高野寛自身のバージョンや彼とザ・キングトーンズの共演、鈴木雅之のカバーアルバムに高野寛が参加したものなどそれぞれ悪くないのだが、やはりザ・キングトーンズの1995年のアルバム「SOUL MATES」で彼らが歌うバージョンが一番好きだな。

 


夢の中で会えるでしょう/高野寛 & キングトーンズ

 

 トーストとハムエッグの遅い朝食を済ませ、昼前に家を出る。貴重な休日を好きな本を買うために費やすつもり。これが絶好のストレス解消であることを平成の御代よりも長い人生で学んだ。

 

 

 

 駅に向かうバスに乗る時にカバンに本を入れてくるのを忘れたことに気づく。今日の携帯本を北村薫「中野のお父さんは謎を解くか」(文藝春秋)と決め、車内で読むのを楽しみにしていたのに残念だ。このライトな“円紫師匠と私”シリーズとも言える本に関わる日常の謎を解くシリーズは楽しくて、第1作「中野のお父さん」に続いてこの第2作も面白く読んでいた。これまでに短編を3つ読んだ。4つ目の「パスは通ったのか」に早稲田の古書現世店主の向井透史さんが書いた「早稲田古本屋日録」(右文書院)が出てくることを知り、今日満を辞してこれを読むつもりだったのに。

 

 

中野のお父さんは謎を解くか

 

 

 仕方がないので、駅ビルの本屋で代わりに読むための文庫本を買う。

 

-宮部みゆき「誰か somebody」(文春文庫)

 

 

誰か―Somebody (文春文庫)

 

 

 これまで新作・準新作の2冊を読んだ“杉村三郎シリーズ”の第1作。いよいよ私立探偵杉村三郎が誕生する前史を辿ることになった。

 

 

 

 宮部みゆきクオリティと電車の心地よい揺れで気持ちよく読書が進むうちに神保町に到着。東京堂書店で2冊。

 

-山本善行×清水裕也「古書店主とお客さんによる古本入門 漱石全集を買った日」(夏葉社)

-高木伸幸編「井上靖未発表初期短篇集」(七月社)

 

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井上靖 未発表初期短篇集

 

 前者は京都の古本屋“善行堂”店主の山本善行さんと夏葉社のコラボ本の1冊。これまでもこのコラボで魅力的な本を何冊も出している。もちろんこれも迷わず買います。

 

 

 後者は故曾根博義先生の企画立案していた本がその遺志をついで出版されたということが書かれていたのでこちらも買わないわけにはいかない。この本に収録されている未発表初期作品草稿が発見され時にその整理を行った曾根先生が書いた解説も収録されている。

 

 

 

 神田伯剌西爾で神田ブレンドとカボチャタルトを頼み、「漱石全集を買った日」の善行さんによる前書きを読む。対話する古書店主の面目躍如の姿にこの本を読む意気が揚がる。

 

 

 

 

 神保町から地下鉄を乗り継いで雑司ヶ谷駅へ。この駅はいつも風が強く吹いている。エスカレーターに乗りながらまるで自分がT.M.Revolutionにでもなったような気分になる(この喩えも平成とともに忘れられていくのだろうな)。風の中で今日初めてツイッターを開いて本日が谷中千駄木一箱古本市開催日であることを知る。知っていたら午前中に寄ったのにと思うが後の祭り。

 

 

 

 歩いて古書往来座へ。店番ののむみちさんに挨拶をし、店内をぐるりと回る。いつ来ても本は豊富であり、ジャンルも多彩でいい本屋だなあと思う。次の場所まで30分以上時間を潰さなければならなかったのだが店内にいるとそんな時間はあっという間に過ぎていく。新刊の時には値段が折り合わず見合わせた本をここで購入。

 

 

-渡部直己編著「日本批評大全」(河出書房新社

 

 

日本批評大全

 

 

 のむみちさんとあれこれおしゃべりをしているうちにちょうどいい時間となったので店を後にする。目白駅方面に向かって歩き、ちょうど3時少し前にブック・ギャラリー・ポポタムに到着。今日の目的はここにあった。

 

 

 イラストレーターの武藤良子さんが金沢の限定本出版社“龜鳴屋”から新刊「銭湯断片日記」を出版し、その記念イベントが昨日までの3日間ポポタムで開かれていた。しかし仕事で行けず、せめて本だけでも手に入れたいと取り置きを武藤さんにお願いしておいたのだ。日曜の今日取りに行くと武藤さんにメッセージを送り、ポポタムが今日は搬入日のため休みであることを知る。それでも午後3時には店主の大林さんが店にいるからと教えてもらい時間を見計らってこちらに来たというわけ。

休みにも拘らず、大林さんは店内にまだ並べてあった龜鳴屋の本を見せてくれた。本来、限定本を通販で扱うこの出版社の本を店頭で買える機会はほとんどない。そんな機会を独り占めする恍惚と喜びを抱きながら、持っていなかった本を購入。

 

-武藤良子「銭湯断片日記」

-室生洲々子編「犀星スタイル」(絵・武藤良子

-田中康義「豆腐屋はオカラもつくる 映画監督小津安二郎のこと」

 

 

 

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 以上の龜鳴屋本の他に武藤さんが題字を書いた石神井書林の古書目録104号も手に入れた。石神井書林内堀弘さんも僕同様武藤さんの書き文字に魅せられた一人だ。「銭湯断片日記」には栞として内堀さんが書いた「武藤さんの字」という短文が入っている。古書目録100号の題字を武藤さんに依頼した時の思い出を書いたもの。僕もその昔、職場で作ったTシャツに武藤さんの字で勤め先の名称を書いてもらったことがある。そのTシャツは今でも大事に手元に残してある。武藤さんが自分の書き文字で曇天画のTシャツを作るよりちょっと前の話だ。武藤文字でTシャツを作ったのは自分が最初ではないかと内心自慢に思っている。 

 

 

 

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 取り置きをお願いした「銭湯断片日記」には、武藤さんのイラストと文字をあしらったポポタム限定カバーが付けられ、武藤さんのサインと限定079番の数字(書き文字)が入っていた。

 

【追記】

漱石全集を買った日」の装画も武藤さんだったことを後で知った。