消えたトンカツ。

 

 

 先週の日曜は休日出勤だったので、今日は久しぶりの休日。


 朝風呂で、古今亭志ん生厩火事」・「妾馬」を聴く。NHK大河ドラマ「いだてん」で物語の語り手が志ん生ビートたけし)だから、その影響で最近は寝る時にも志ん生を聴いている。いつも志ん生を聴きながら寝ているという山下達郎がラジオで「志ん生の声がいい」と褒めていたが、その通り。一聴ガラガラ声のように思えて重役の武士や年増の声など艶のあるいい声なのだ。

 

 昼前に家を出る。向かうは谷根千。最近、ツイッター谷中銀座にある古書信天翁が店を閉めることになり、在庫一掃の閉店セールをやっていると知った。今日はそのために出かけるつもりであった。それが昨日のツイッターで店主インフルエンザのため急遽店を閉めるという告知があり、予定がとんでしまった。しかし、谷根千には他にも店はある。しばらく谷根千に足を向けていなかったということもあり、出かけることにする。

 

 車中の読書はこれ。


-堀井憲一郎「1971年の悪霊」(角川新書)


1971年の悪霊 (角川新書)


 2009年に行われた政権交代民主党が選挙で自民党を倒したあの夏の根拠もなく日本が盛り上がってしまっていた雰囲気に対する違和感を感じた著者が、その原因を自身が中学生だった1971年を中心としたあの時代にみる本。

 


 千代田線の根津駅で下車し、千駄木方面に向かって不忍通りを歩く。途中で通りを右に入り、ひるねこBOOKSへ。ここへ来るのは初めて。こぢんまりとした店内は明るく、小さな展示スペースなどがあり、小さな店なのだが不思議と開放感がある。店名から分かるようにネコの本が充実している。せっかくなのでそこから1冊。

-「作家の猫 2」(平凡社コロナ・ブックス)


作家の猫 2 (コロナ・ブックス)

 

 カバーの写真は谷啓家の猫・ゴマ。なぜか谷啓らしさを感じさせる寝姿がいい。

 

 また不忍通りに戻って往来堂書店を覗いてから、古書ほうろうへ。久しぶりに来たのだが、以前と変わらず本の量が多く店内の充実度が高い店だ。その本の中で面陳されていたこの本に目が止まる。


-矢部登「田端抄」(龜鳴屋)


 金沢の限定本出版社・龜鳴屋の本は造本・内容共に素晴らしいものが多い。この本もひと目見てすぐに気に入った。古本の棚の上のスペースに飾ってあったので古本だと思い、値段の書き込みがな買ったのでレジで値段を聞くと新刊で定価販売だと知る。もちろん、新刊で買いたかった本なのでそのまま購入。

 

 時刻は2時を過ぎ、空腹を覚える。トンカツが低糖質食品であるというネット記事を目にし、「確かにライスを食べなければ、糖質は衣の部分だけだから、そんなに糖質は高くないよな」と思ったところなので、無性にトンカツが食べたくなる。スマホで近くのトンカツ屋を調べて“とんかつみづま”を見つけて行ってみるが、「準備中」の札が。昼の営業は2:00までで、夜の部は5:00開始とのこと。残念。


 諦めて谷中銀座へ向かう。一歩足を踏み込むとどこから湧いたのかと思うくらい谷中銀座の通りには人がひしめき合っている。冷たい北風が吹いているというのに、多くの店の前には行列ができている。腹は減っているが、この寒空に野外で並んでまでものを食べたいとは思わない。銀座を素通りして、夕やけだんだんの階段を登る。登り切ったところに古書信天翁の入っているビルがある。場所だけ確認して日暮里駅へ。


 日暮里駅から山手線で駒込駅へ。駒込駅から歩いてBOOKS青いカバに行く。店の前の通りが不忍通りであることに気づく。さっきまで歩いていた道をそのまま歩いてきたらここに来るんだ。開店してすぐに来たのがもう2年前になる。それ以来2度目。前回はまだ開店早々のため埋まっていない棚があったのだが、今や店内にはみっちりと本が詰まっている。新刊と古本の両方を扱っている店なので、新刊と古本の両方を買う。


-宇田智子「市場のことば、本の声」(晶文社
-横田順彌「雑本展覧会」(日本経済新聞社


市場のことば、本の声
雑本展覧会―古書の森を散歩する

 

 前者は新刊。出た時に買おうと思っていて買い逃していた。著者は那覇市の“市場の古本屋ウララ”の店主。2月にイラストレーターの武藤良子さんがこの「ウララ」で原画展を開くと知り、この本のことを思い出した。沖縄には一度も行ったことがない。この機会に原画展を見がてら行ってみたいが、一年で一番仕事がヤバイ時期なので無理というものだろうな。

 後者は古本。先日横田順彌氏が亡くなった。世間では横田氏と言えばSF小説の人なのであろうが、僕にとっては古書収集家、古本の人。押川春浪や天狗倶楽部に関する著作があるため「いだてん」がらみで注目が高まっている作家でもある。この機会に絶版になっている本が復刊されることを願う。

 

 本以外に、新しくできた“青いカバ”オリジナルのトートバッグも購入し、今日買った本をそのトートに入れる。店を出るともう午後3時。空腹も絶頂である。「駒込 とんかつ」でググってみる。日曜営業の店は軒並み「昼2:00まで、夜5:00から」となっている。これって「日本とんかつ協会」の規則でもあるのではないかと考えてしまう。なんでみんな足並み揃えてこの世から3時間だけトンカツを消してしまうのか。古の表現を使えば「CIAの陰謀」というやつだろう。周囲には苦手なタイ料理かそそらないチェーン店しか見付からず、トンカツは地元で食べることにして、三田線千石駅まで歩いて地下鉄に乗り、そのまま帰る。

 

 地元に着いたのは4時。いつも行く日曜営業のトンカツ屋に行くもここも「空白の3時間」で5時再開。もう1軒の店も同様であった。これはもうなんらかの圧力がトンカツ業界にかかっているとしか思われない。午後2時から5時までにトンカツを供給する店の店主は人知れず暗殺されているのではないかと妄想してしまうくらいトンカツ欠乏症に苛まれてしまっている。こうなったらトンカツ屋のトンカツでなくてもいいと発想を転換して、大戸屋へ行ってみる。ここのメニューにトンカツがあったはずだ。あった、ありました。“四元豚のロースカツ”単品と手作り豆腐でおやつより遅い昼食。

 


 帰宅して「いだてん」第4回を観る。金栗四三が履く足袋を作る足袋屋の店主としてピエール瀧登場。電気グルーヴ30周年の今年は1年限定で「ウルトラの瀧」に改名しているはずなのだが、さすがにNHKはその遊びを認めてくれなかったらしい。役所広司ピエール瀧、足袋という組み合わせはTBSドラマ「陸王」以外の何物でもない。どこまで意識したキャスティングなのだろう。それを含めて宮藤官九郎脚本は目が離せない。


 そう言えば根津から千駄木にかけての不忍通りの街灯には“金栗四三 青春の地”というのぼりが立っていたのを思い出した。