シュトーレンでシュトーレンを買う。

 あっという間に師走も中旬が過ぎ、明日からもう下旬に突入しようとしている。冬が来るのかいなと思いながらスタートした12月も1週間ほどたったら突然冬になった。ダウンコートを着て、車中で中野翠「ズレてる、私!?」(毎日新聞社)を読みながら墓参りに行ったのが12月9日。『サンデー毎日』の連載コラムをまとめたこのシリーズの最新刊を読むと本当に年末が来たのだと思う。今年もやっぱり年末は来たのだった。


ズレてる、私! ? 平成最終通信



 今日は、11月23日の屋内仕事の休日出張の代休を取る。のんびり朝風呂で12月16日にTOKYOFMで放送された「村上RADIO」(“ムラカミレディオ”と発音される)の第3回を聴く。今回はクリスマスソング特集。1曲目が小野リサ「winter wonderland」。この曲の入っているボサノバ・クリスマスアルバムをよく聴いているのでちょっとうれしい。スポンサーが“大日本印刷”というのも村上春樹という作家がいかに出版界にとって大切な存在と考えられているかが感じられて面白い。それにしてもこんなに「レディオ」という言葉を繰り返し聴くのは徳永英明以来ではないだろうか。「この間、ちょっとエクアドルに行ってきた」(“ちょっと”って)や「いいですよね、猫山さん?」(猫山さん=謎の猫)に呼びかけたりとツッコミどころに事欠かないユルい感じが休みのぼんやりした朝にちょうどいい。ビーチ・ボーイズクリスマスアルバムが欲しくなった。



 10時過ぎに家を出て、日比谷に向かう。映画「ボヘミアン・ラプソディ」を見に行くのだ。洋楽に疎い学生時代を過ごしてきた身ではあるが流石にQueenの歌は何度となく耳にしてきた。友人にもフレディ・マーキュリーを敬愛する人物がいて(風貌も似ていた)、彼がカラオケで熱唱するのを間近で見ていたりしたので曲は知っているのだが、Queenというバンドやフレディの事はほとんど知らないと言っていい。もちろん、彼がエイズで命を落としたことぐらいは知っていた。というかそれくらいしか知らなかった。知らないからこそちょっと興味があった。


 本日の携帯本はアンソニーホロビッツカササギ殺人事件 上」(創元推理文庫)。面白いとの評判を聞いて買っておいたのを満をじして読み始める。最初に出て来る「カササギ殺人事件」のゲラを読む女性編集者の住まいがハイゲート駅の近くにあると書かれていて、その昔ハイゲートにあった墓地にマルクスの墓を見に行ったことなどを思い出し、ロンドンの街に思いを馳せる。ロンドン好きなので、この街が出てくる作品は小説でも映画でも好物なのだ。



カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)



 日比谷に到着。映画は13時からなので、まだ時間がある。まずは銀座まで歩いて教文館へ。

谷口ジロー (コロナ・ブックス)



 コロナブックスの1冊。なぜかコロナブックスを置いてある地元の本屋にはいつまでたっても入ってこないのでこちらで購入。そして、今日は本だけではなく、4階でシュトーレンを入手。ここで“ドイツパンの店 タンネ”人形町店のシュトーレンを売っているとネットで知って買ってみる。埼玉でドイツパン屋を営んでいる知人が作るシュトーレンを好んで食べているうちにシュトーレンそのものに対する興味が出てきて他の店のものも食べてみたいと思うようになった。知人のものを美味しいと感じ、その思いから同僚や知人に勧めている。その美味しさを相対的に判断する責任が勧めている自分にはあるのではないかとも考える。まあ、それは大義名分で、ただ色々と食べてみたくなったというのが正直なところ。先日、職場へ知人の店からシュトーレンが届いた。同僚からのリクエスト分である。すでに代金は立て替え前払いで済ましてあるため、同僚が払うものは全て我が財布の中に入る。その日の帰りに地元の駅ビルに入っている洋菓子屋のシュトーレンをその金で購入。そして、今日のシュトーレンもその金で支払った。これじゃまるで、シュトーレンを売ってシュトーレンを買っているようだなと思う。



 いつものように教文館の後は山野楽器。アナログレコードのコーナーで50%offになっていたこちらを。

  • STANLEY TURRENTINE「JUBILEE SHOUT!!!」(BLUENOTE)


Jubilee Shout [Analog]



 若くして亡くなったピアニストのソニー・クラークの最後の録音盤である。LPなのだが45回転の高音質盤なのが面白い。





 ミッドタウン日比谷内にあるTOHOシネマへ。ビルの4階にあり、窓から日比谷公園が見える。高校時代日比谷乗り換えで通学していたため、時間のある時などに日比谷公園を歩いたことを思い出す。金のない高校生にとって無料で入れる公園は暇つぶしにちょうどよかったのだ。


 IMAXのスクリーンは時間帯が合わなかったので、音響のいいDolby-ATMOSのスクリーンにする。今日はレディースデイのため、会場の9割近くが女性。まるで女性専用車両に間違えて乗り込んだような居心地の悪さを感じる。それも映画が始まり、フレディ・マーキュリーの歌声を体に感じているうちにすぐに忘れてしまう。インド系英国人として差別を受け、己の出自や容姿にコンプレックスを持っていた若者が、音楽をパフォーマンスすることに生きる喜びを見出し、その夢を実現していくサクセスストーリーの中に、己の中にある抗いがたいセクシャリティに直面し、愛する女性とすれ違わなくてはならならい苦悩が描かれる。「ボヘミアン・ラプソディ」の制作過程や「ウィ・ウイル・ロック・ユー」の制作秘話など見所はいろいろあるがやはり圧巻はラストのウエンブリースタジアムでの「ライブ・エイド」コンサートの再現シーンだろう。この20分余りのライブシーンは音楽の力というものをグイグイと突きつけられる。以前に動画サイトで見たことがある実際の「ライブ・エイド」がほぼ忠実に再現されており、そのクオリティも見事なのだが、やはり何よりもフレディ・マーキュリーの歌の力が凄いのだ。こうして改めて聴いてみると彼の曲と歌の良さがよくわかる。リピーターが多いのも、映画に合わせて歌える上映会があるのもこのラスト20分のためだろうな。



 地元に戻り、書店を覗いたらデアゴスティーニの「クイーン・LPレコード・コレクション」が置いてあり、映画の中で重要なシーンを担っていたアルバム「A NIGHT AT THE OPERA」(オペラ座の夜)があったので思わず買ってしまう。「ボヘミアン・ラプソディ」が入っている4枚目のアルバムなのだが、聴きたかったのはA面に入っている「I'M IN LOVE WIHT MY CAR」。なぜこれを聴きたくなるかは映画を見た人ならわかってくれるはず。



クイーンLPレコードコレクション 180g重量盤 創刊号オペラ座の夜/A Night At The Opera/Queen ボヘミアンラプソディ収録 公式マガジン付 (クイーン・LPレコード・コレクション)



 帰宅して、YOUTUBEで「ライブ・エイド」の映像を繰り返し見直してしまう。そして数種類のシュトーレンを食べてしまう。仕方ないですよね、猫山さん。