福島駅から王子駅へ。


 盆休みはあちこち出かけたので今日の休みは自宅でのんびりと思っていたのだが、昨夜、知人のSNSを見ていてどうしても行ってみたい場所が出てきたので急遽予定を変更する。



 それは福島県立美術館でやっている“イラストレーター 安西水丸展”。会期が9月2日までということなので、後1週間で終わってしまう。行くなら今日だ。


 東京駅から東北新幹線に乗って福島駅へ。駅前からバスで福島県立美術館前というバス停まで行く。この美術館に来るのは初めて。敷地の入口から建物の入口までの広々としたスペースと美術館の背後に青々とした緑に囲まれた山がデンと構えているのがとてもいい。この光景にまず気分が何段階かあがる。


 今回はこの展示だけを見にきたので時間は充分ある。2時間近くかけてゆっくりと見る。展示の量も豊富だから時間をかける甲斐もある。電通から平凡社を経て『ガロ』デビュー、そして独立してイラストレーターに。それらの流れを辿るイラストや漫画などの原画や様々なポスター等が展示されている。


 やはり、僕が安西水丸というイラストレーターを認識したのは村上春樹本の装丁者としてなので、“ぼくと3人の作家”のコーナーの村上春樹編が懐かしい(他には嵐山光三郎編と和田誠編)。その意味で「中国行きのスロウ・ボート」が安西水丸デビューになる。一番印象深いのは手書きの文字も配した「蛍・納屋を焼く・その他の短編」かな。



中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)



 2014年3月に亡くなるまでは普通に好きなイラストレーターのひとりだったのだが、その後なぜかどんどん好きの度合いが強くなって行く気がする。シンプルな線で10代で憧れた“西洋的なもの”をシンプルに描き出すその世界に魅かれる。20歳ほど上だけれども高校の先輩であることも親近感を感じる理由になっているかもしれない。


 
 売店で図録や水丸デザインのマグカップなどを買い、満足して美術館を出る。帰りは美術館図書館前駅から福島交通飯坂線に乗って福島駅へ。小さなホームに停まる二両編成の電車は心和むものがある。



イラストレーター 安西水丸


 東北地方に大雨の予報が出ているので、遅めの昼食は駅ビルですます。午後遅い新幹線で帰る。

 駅ビル内の岩瀬書店という本屋で福島の特産品を売っていたので玉鈴醤油の“丸大豆天然醸造手しぼり 福島県産原料しょうゆ 限定品”という濃口醤油を買った。




 車中の読書はこれを再々読。


いつか王子駅で (新潮文庫)


 これが最初に読んだ堀江本。単行本で読み、文庫になってもう一度読み、最近地元の古本屋で見かけて久しぶりに読みたくなって持っているのにもう1冊文庫を買ってしまった。三読してやはりこの本は「本好きの本好きによる本好きのための散文」だなあと思う。この本を読まなければ、名作短編集「雪沼とその周辺」を読むこともなかっただろうし、島村利正の小説を読むこともなかっただろうな。