今夜のカレー、明日のパン。

 お盆休みなので墓参りに行くことにする。


 父母の眠る霊園の最寄り駅までは電車で約1時間40分ほどだ。誰にも邪魔されずに読書に浸れる貴重な時間。何を読もうか少し考えてこれにする。


さざなみのよる


 2016年の正月と2017年の正月にNHKで新春スペシャルドラマとして2回放送された「富士ファミリー」の番外編というような設定になっている小説。木皿泉脚本のドラマは原則観ることにしているので、当然両方とも観ている。山梨県にあるコンビニとは呼べない何でも屋「富士ファミリー」が舞台。その家の娘が、鷹子(薬師丸ひろ子)、ナスミ(小泉今日子)、月美(ミムラ)。そこに父方の叔母である笑子バアさん(片桐はいり)やナスミの夫の日出夫(吉岡秀隆)が絡んでくるという役者陣。次女のナスミはすでに癌で他界しており、実家に幽霊となって現れるが、その姿は笑子バアさんにしか見えないという設定だった。

 「さざなみのよる」に戻ると、そのナスミの生前の話がメインになっている。余命を宣告されたナスミと彼女に関わっていた人たちの物語。死んだナスミが生きている者たちに何を残していったかが語られる。墓参りの道中で読むのにはちょうどいい本だと思う。



 八月も半ばを過ぎたというのにまだ猛暑日が続いている。最寄り駅から霊園まで歩くこちらに容赦なく強烈な日差しがぶつかってくる。途中、古利根川を渡る。最近の大雨のせいか、川の水は溢れんばかりに多い。それが川の流れをゆったりしたものに見せてくれ、気持ちがちょっと落ち着く感じ。さざなみも立たない。


 花を買い、持って来た雑巾で墓を水拭きする。弟一家が来た後なので、ほとんど汚れていない。軍手をして墓の周りの雑草を抜き、線香をたてて花と飲み物を供えて墓参りは終了。昨年の4月に野外仕事から屋内仕事に変わったため、仕事で日焼けすることはほとんどなくなったのに、この1週間の京都、尾道、墓参りで久方ぶりに日焼けしてしまった。



 墓参りの後は恒例のパン祭り。数駅先にある知人のパン屋に行く。店内では子どもたちにミニパン作りを教えるイベントをやっていた。昼食として店内で食べる惣菜パンの他に明日の朝食用の食パン、今夜の夕食用のバゲット、お菓子のラスクなどを山のように買い込む。普段は炭水化物の量をコントロールしているのだが、この店に来た時はリミッターを外してもいいことにしているので我慢はしない。イートインコーナーに座り、買ったばかりのコロッケパンにかぶりつく。無料のコーヒーも美味しい。店長である知人とあれこれ話す。店内にはBGM用にプレゼントしたJAZZのCDが流れている。子供たちの声がする光溢れる午後の店にマイルス・デイビスのミュートプレイが光るバラードがナイトムードを醸し出しているのがなんだか申し訳ないような気がしてくる。猛暑の墓参りのダメージと腹一杯の炭水化物による血糖値の上昇で頭がぼうっとして来た。帰りの車内は爆睡してしまうかもしれないと思いながら、店を出る。今夜は、買い置きのレトルトカレーを温めて、カリカリに焼いたバゲットにバターを塗り、カレーをつけて食べようと思う。