目をつむり、耳をすます。


 昨日は誕生日だった。


 自分が何歳になったのかすら正確に把握しておらず、むしろ同僚の方がちゃんと覚えていて「○○さんて、今××歳ですよね」と声をかけられて「そうか、もう××なんだな」などと驚いているくらいだから、これといった感慨はない。


 昨年までは恒例行事として3月10日の夜に母親から電話があり、この日が自分の誕生日であることを嫌でも認識させられていたのだが、その母も他界したとなればもうそんな確認行為を強いるような物好きもいなくなった。


 そんな中で自分の誕生日の日付を思い出させるのはその翌日の3月11日という日だけになった。


 職場で14時48分に黙祷があった。もちろん、形式的な黙祷に何か意味があるとは正直思ってはいない。しかし、あの大きな災害を忘れつつある自分にあの日のぞわぞわとした思いを繰り返し思い起こさせることには意味はあると思う。だから、黙祷もちゃんとやりたかったのだが、放送がうまく入らず、いつの間にかずるずると始まり、もやもやとしている内に終了した。



 退勤して本屋へ。

  • 内田樹「街場の文体論」(文春文庫)
  • 本の雑誌』4月号
  • 『CULTURE Bros.』vol.2


 
街場の文体論 (文春文庫)
本の雑誌394号
CULTURE Bros. vol.2 (仮) (TOKYO NEWS MOOK 529号)




 『本の雑誌』は出版社特集。“出版社最初の一冊”は面白い企画。その出版社が最初に出した本を並べている。講談社が「明治雄弁集」、岩波書店夏目漱石こゝろ」、筑摩書房が「中野重治随筆集」などというのはさもありなんだが、ミステリーを得意とする出版社のイメージがある原書房の一冊などはかなり意外。文芸社のものは時代を感じさせる著者と書名だ。リストを眺めているだけで楽しい。その他、ひとり出版社のリアルと矜持を語った島田潤一郎「夏葉社の七年目」など読みどころ多し。



 『CULTURE Bros.』は“おそ松さんとラジオ特集”。TBSラジオ「たまむすび」のPodcastを通勤途中のバスで聴くのを日々の楽しみとしている者としてラジオ特集は見逃せない。また、シンガーソングライター北村早樹子インタビューも掲載されている。その付録として彼女のメールマガジンを編集・発行している古書現世店主・向井透史さんの文章が載っていて彼女との出会いを語っている。最新アルバム「わたしのライオン」を持っている者として興味深く読んだ。時評コラムの頁をめくっていたら古書往来座の店員ののむみちさんが「名画座手帳2016」について書いていた。彼女が考えた名画座好きにとっての理想の手帳が現実のものとしてカタチを持った。僕も先日往来座でのむみちさんから1冊購入した。単純に手帳としてちゃんと仕上がっているし、weeklyの頁の下にはその週に生まれそして逝った映画人の名前が列挙されているし、付録頁も充実しているし、手帳に付いている帯がまたいいし、と映画好きにはうれしい手帳だ。




わたしのライオン
名画座手帳2016



 夕食は雑誌『dancyu』に載っていた高橋みどりさんの“野菜のオイル蒸し”を作る。小松菜と砂糖ざやを鍋に入れ、その上にベーコンを敷いて、オリーブオイルと塩をかけて蓋をして10分蒸すだけ。簡単にできて、野菜をおいしく沢山とれるのがいい。ただ、つぶしたニンニク一片を入れ忘れたのが画竜点睛を欠いた。



dancyu(ダンチュウ) 2016年 04 月号




 昼間、黙祷をうまくできなかった代わりに、今年もこの曲を聴いて自分なりの黙祷としたい。