極楽までに何買える。

 

 

 

 

 先日、職場の同僚が亡くなった。病気療養で休職をしていたのだが、体調もよくなり、この春から復帰するつもりであると正月に届いた年賀状にも書いてあった。ああ、元気なんだなあとホッとしていたのだが、病気とはまったく関係のない事故で復帰の夢はかなわなかった。

 

 

 ただ、その事故は彼が学生時代からずうっと続けていた大好きな趣味の最中に起こったことだった。行きたくもない場所でやりたくもないことをやって命を落としたのではなかった。誰かのミスに巻き込まれたのではなかった。自分の好きなことに熱中している時のアクシデントだった。それが不幸中の幸いだと思う。通夜で彼の安らかな顔を見ながら、あと何年生きるか分からないが、自分も好きなことをやりながら死にたいものだと思った。

 

 

 

 そうは言っても、彼のようなスポーツをやる趣味のない僕にとって、好きなことをやりながらの最期とは、本屋か自宅で本の下敷きになっている自分の姿くらいしか想像はできないが。

 

 

 

 ということで、今日も好きな本を買いに行く。

 

 

 車中は、橋本倫史「ドライブイン探訪」(筑摩書房)を読みながら。橋本さんが個人で出していたミニコミ『月刊ドライブイン』全12冊を加筆修正して単行本にしたもの。『月刊ドライブイン』は、行きつけの古本屋や新刊書店に置いてあるのを見かけると買っていたのだが、全てを買い揃えることができなかったので、1冊にまとめられたのはありがたい。1982年生まれの著者が物心ついた時にはすでにドライブインの時代は終わっており、車で出かけても寄るのはファミレスやマクドナルドだったという。著者より20年近く前に生まれたこちらは、子供の頃に車に乗せられて街道を走れば、道の左右には数え切れないほどのドライブインがあった。車で出かけてチェーン店のファミレスに初めて入った時には大学生になっていた。その後、院生の時に女友達とディズニーランドに車で行った帰りに食事をしたのは、ファミレスの藍屋だったから、もうその頃にはドライブインは姿をずいぶんと減らしていたのだろう。そして、今や絶滅危惧種となったドライブインを全国200軒近くまわり、その中から再訪して店主に話を聞いた20軒ほどの記録がこの本に収められている。読み始めてすぐに気づくのは、これはそのドライブインを経営していた人々の記録だけではなく、その店があった町の歴史であり、ドライブインの時代を築き、そしてそれを失っていった日本という国の歴史の記録でもあるということだ。著者は古い雑誌やその地方の記録などにも目を通し、1軒のドライブインが存在する(した)というドラマを奥行き深く、丹念に描き出している。

 

ドライブイン探訪 (単行本)

 

 

 本を買う前に寄りたい場所があるので、地下鉄を乗り継いで日本橋駅で下車。B8出口を出てすぐのビルの2階にあるレストランへ入る。近江牛が売りのこのレストランの店長が知り合いなのだ。実はそのことを知ったのは今年に入ってから。知人たちとの新年会で、久しぶりに会って「じゃあ、そのうち食べに行くよ」と約束したのを思い出したというわけ。カウンターとテーブル席が5席ほどという小さい店のため、満席だったら場所だけ確認しておこうと思ったのだが、ビジネス街の日本橋の日曜はそれほど人も多くなく、席も空いていた。店内に知人の姿はなく、奥にいるのかもしれないが、海原雄山じゃないんだから「店長を呼べ」と言うのも迷惑なので、黙ってカウンターに座る。せっかく近江牛専門店に来たのだから1日限定10名のランチメニューを頼む。近江牛づくしの料理で、ポン酢のジュレがかかったローストビーフが前菜で、メインが近江牛三種の食べ比べ。醤油や味噌など違う味付けと部位になっており、3種類ともに美味い。4、5人の男性たちがキッチンやホールを小気味よく動いている。まだ20代の彼女が彼らを束ねているのかと感心する。落し物をして泣きべそをかいていた中学生の頃から知っているので、感慨深い。店を出てから、美味しかったとメールを送る。

 

 

 

 せっかく日本橋に来たのだからと、銀座に出て教文館へ。

 

 

 今日の目的は、先日亡くなった橋本治の未所持本の購入である。彼が『芸術新潮』に連載していた「ひらがな日本美術史」は全7巻で新潮社から出版されている。大判の本で、カラー図版も美しく、その作品や作者について著者が独特の視点とわかりやすい文章とで説明してくれるこのシリーズは、美術に疎い僕にはとてもありがたいのだ。しかし、訃報を受けて家の本棚を探してみると全7巻のうち1~4巻までしか持っていないことが判明した。全部持っているつもりだったので驚き、これはこの機会に揃えておかなくてはと今日の買い物となった。店内に橋本作品はいくつかあったが、肝心の「ひらがな日本美術史」は見当たらず。その代わり、この本を見つけて購入。

 

 

-イルメラ・日地谷・キルシュネライト編「〈女流〉放談 昭和を生きた女性作家たち」(岩波書店

 

〈女流〉放談――昭和を生きた女性作家たち

 

 編者が1982年に佐多稲子円地文子河野多恵子石牟礼道子田辺聖子三枝和子、大庭みな子、戸川昌子津島佑子金井美恵子中山千夏といった女流作家たちに行ったインタビュー集。日本では初めて活字化されるものだと言う。この本を選んだのは、その中身以上に編者であるドイツの日本文学研究者・イルメラ・日地谷・キルシュネライトへの興味によるものだ。彼女がドイツ語で書いた日本の私小説研究論文が邦訳され、1981年に「私小説 自己暴露の儀式」として平凡社から出版された。それをたまたま古本屋の棚に見つけて面白く読んだ記憶がある。もう20年以上前のことなので、何が面白かったかははっきりとは覚えていないのだが、それまでの日本人が書いた私小説論とは一味違うアプローチに魅力を感じたのははっきりと覚えている。その彼女の名前を久しぶりに思い出させてくれた。

 

 

 

 当初の目的は橋本治本であるため、ここで終わるわけにはいかない。日比谷まで歩いて三田線で神保町へ。

 

 

 東京堂では、橋本治追悼コーナーができていたが、そこにも美術の棚にも「ひらがな」はなし。その代わりにまだでないのかと気になっていたこの雑誌を見つける。

 

 

-『みすず』2019年1・2月号 “読書アンケート特集”

 

 

 

 毎年この号を楽しみにしている。今年の表紙の写真は美術館でフェルメールの絵画を見る人かと思いながら、サイン本のコーナーを見ていると買い逃していた本を見つける。

 

 

 

-植本一子「フェルメール」(ナナロク社)

 

フェルメール

 

 写真家で文筆家の植本一子が7カ国17の美術館を巡り、そこにあるフェルメールの絵を写真に撮り、その旅を文章で記録した本。カバーの写真が先ほどの『みすず』と同じことに気づく。『みすず』も彼女の写真を使っていたのだ。

 

 

 

 また、別の本に寄り道してしまった。次は三省堂へ。美術の棚で目的の本を発見。

 

 

-橋本治「ひらがな日本美術史5」(新潮社)

-橋本治「ひらがな日本美術史7」(新潮社)

 

 

ひらがな日本美術史5

ひらがな日本美術史 7

 

 

 

 

 残念ながら6巻だけは売れてしまっていた。でも、構わない。また、今度それを探しに本屋を回る楽しみが残るから。

 

 

 

 

 今日は好きなことを思い切りやる日と勝手に決めているので、これで終わらない。今度はディスクユニオンへ。

 

 

-THAD JONES「MAD THAD」

-LOU DONALDSON「LOU TAKES OFF」

 

Mad Thad

Lou Takes Off

 

 中古レコードを2枚。サド・ジョーンズのアルバムは彼の他に、ジミー・ジョーンズ、エディ・ジョーンズ、エルビン・ジョーンズクインシー・ジョーンズとメンバーがジョーンズだらけ。その点が「MAD」なのかもしれない。ルー・ドナルドソンの方は、難しいこと言いっこなしのジャムセッションソニー・クラークの参加もポイント。ジャケット写真は宇宙ロケット。1957年の作品であることを考えるとソ連スプートニク1号だろう。この後、1960年代になるとアメリカもソ連を追ってアポロ計画を進めていく。このアポロ時代はまたドライブインの時代でもあった。

 

 

 

 

 買い物を終えて、神田伯剌西爾へ向かう。ここで買った『みすず』読書アンケート号を読むのが恒例なのである。店の隣の小宮山書店の100均棚に橋本治無花果少年と桃尻娘」(講談社文庫)を見つける。高野文子装画のカバーが魅力的。買ってから、伯剌西爾の階段を降りる。

 

 

無花果少年(ボーイ)と桃尻娘 (講談社文庫)

 

 

 コーヒーを飲みながら、ざっと目を通す。人文系の本では、黒川創鶴見俊輔伝」(新潮社)と三浦雅士「孤独の発明」(講談社)が多く取り上げられていた感じ。2冊とも持っているので、読まなくてはという気持ちが強くなる。そして、また欲しい本が何冊も増える。困るような嬉しいようなこの気持ちを味わうために『みすず』の細かい文字をひたすら追う。

 

 

 

鶴見俊輔伝

孤独の発明 または言語の政治学

消えたトンカツ。

 

 

 先週の日曜は休日出勤だったので、今日は久しぶりの休日。


 朝風呂で、古今亭志ん生厩火事」・「妾馬」を聴く。NHK大河ドラマ「いだてん」で物語の語り手が志ん生ビートたけし)だから、その影響で最近は寝る時にも志ん生を聴いている。いつも志ん生を聴きながら寝ているという山下達郎がラジオで「志ん生の声がいい」と褒めていたが、その通り。一聴ガラガラ声のように思えて重役の武士や年増の声など艶のあるいい声なのだ。

 

 昼前に家を出る。向かうは谷根千。最近、ツイッター谷中銀座にある古書信天翁が店を閉めることになり、在庫一掃の閉店セールをやっていると知った。今日はそのために出かけるつもりであった。それが昨日のツイッターで店主インフルエンザのため急遽店を閉めるという告知があり、予定がとんでしまった。しかし、谷根千には他にも店はある。しばらく谷根千に足を向けていなかったということもあり、出かけることにする。

 

 車中の読書はこれ。


-堀井憲一郎「1971年の悪霊」(角川新書)


1971年の悪霊 (角川新書)


 2009年に行われた政権交代民主党が選挙で自民党を倒したあの夏の根拠もなく日本が盛り上がってしまっていた雰囲気に対する違和感を感じた著者が、その原因を自身が中学生だった1971年を中心としたあの時代にみる本。

 


 千代田線の根津駅で下車し、千駄木方面に向かって不忍通りを歩く。途中で通りを右に入り、ひるねこBOOKSへ。ここへ来るのは初めて。こぢんまりとした店内は明るく、小さな展示スペースなどがあり、小さな店なのだが不思議と開放感がある。店名から分かるようにネコの本が充実している。せっかくなのでそこから1冊。

-「作家の猫 2」(平凡社コロナ・ブックス)


作家の猫 2 (コロナ・ブックス)

 

 カバーの写真は谷啓家の猫・ゴマ。なぜか谷啓らしさを感じさせる寝姿がいい。

 

 また不忍通りに戻って往来堂書店を覗いてから、古書ほうろうへ。久しぶりに来たのだが、以前と変わらず本の量が多く店内の充実度が高い店だ。その本の中で面陳されていたこの本に目が止まる。


-矢部登「田端抄」(龜鳴屋)


 金沢の限定本出版社・龜鳴屋の本は造本・内容共に素晴らしいものが多い。この本もひと目見てすぐに気に入った。古本の棚の上のスペースに飾ってあったので古本だと思い、値段の書き込みがな買ったのでレジで値段を聞くと新刊で定価販売だと知る。もちろん、新刊で買いたかった本なのでそのまま購入。

 

 時刻は2時を過ぎ、空腹を覚える。トンカツが低糖質食品であるというネット記事を目にし、「確かにライスを食べなければ、糖質は衣の部分だけだから、そんなに糖質は高くないよな」と思ったところなので、無性にトンカツが食べたくなる。スマホで近くのトンカツ屋を調べて“とんかつみづま”を見つけて行ってみるが、「準備中」の札が。昼の営業は2:00までで、夜の部は5:00開始とのこと。残念。


 諦めて谷中銀座へ向かう。一歩足を踏み込むとどこから湧いたのかと思うくらい谷中銀座の通りには人がひしめき合っている。冷たい北風が吹いているというのに、多くの店の前には行列ができている。腹は減っているが、この寒空に野外で並んでまでものを食べたいとは思わない。銀座を素通りして、夕やけだんだんの階段を登る。登り切ったところに古書信天翁の入っているビルがある。場所だけ確認して日暮里駅へ。


 日暮里駅から山手線で駒込駅へ。駒込駅から歩いてBOOKS青いカバに行く。店の前の通りが不忍通りであることに気づく。さっきまで歩いていた道をそのまま歩いてきたらここに来るんだ。開店してすぐに来たのがもう2年前になる。それ以来2度目。前回はまだ開店早々のため埋まっていない棚があったのだが、今や店内にはみっちりと本が詰まっている。新刊と古本の両方を扱っている店なので、新刊と古本の両方を買う。


-宇田智子「市場のことば、本の声」(晶文社
-横田順彌「雑本展覧会」(日本経済新聞社


市場のことば、本の声
雑本展覧会―古書の森を散歩する

 

 前者は新刊。出た時に買おうと思っていて買い逃していた。著者は那覇市の“市場の古本屋ウララ”の店主。2月にイラストレーターの武藤良子さんがこの「ウララ」で原画展を開くと知り、この本のことを思い出した。沖縄には一度も行ったことがない。この機会に原画展を見がてら行ってみたいが、一年で一番仕事がヤバイ時期なので無理というものだろうな。

 後者は古本。先日横田順彌氏が亡くなった。世間では横田氏と言えばSF小説の人なのであろうが、僕にとっては古書収集家、古本の人。押川春浪や天狗倶楽部に関する著作があるため「いだてん」がらみで注目が高まっている作家でもある。この機会に絶版になっている本が復刊されることを願う。

 

 本以外に、新しくできた“青いカバ”オリジナルのトートバッグも購入し、今日買った本をそのトートに入れる。店を出るともう午後3時。空腹も絶頂である。「駒込 とんかつ」でググってみる。日曜営業の店は軒並み「昼2:00まで、夜5:00から」となっている。これって「日本とんかつ協会」の規則でもあるのではないかと考えてしまう。なんでみんな足並み揃えてこの世から3時間だけトンカツを消してしまうのか。古の表現を使えば「CIAの陰謀」というやつだろう。周囲には苦手なタイ料理かそそらないチェーン店しか見付からず、トンカツは地元で食べることにして、三田線千石駅まで歩いて地下鉄に乗り、そのまま帰る。

 

 地元に着いたのは4時。いつも行く日曜営業のトンカツ屋に行くもここも「空白の3時間」で5時再開。もう1軒の店も同様であった。これはもうなんらかの圧力がトンカツ業界にかかっているとしか思われない。午後2時から5時までにトンカツを供給する店の店主は人知れず暗殺されているのではないかと妄想してしまうくらいトンカツ欠乏症に苛まれてしまっている。こうなったらトンカツ屋のトンカツでなくてもいいと発想を転換して、大戸屋へ行ってみる。ここのメニューにトンカツがあったはずだ。あった、ありました。“四元豚のロースカツ”単品と手作り豆腐でおやつより遅い昼食。

 


 帰宅して「いだてん」第4回を観る。金栗四三が履く足袋を作る足袋屋の店主としてピエール瀧登場。電気グルーヴ30周年の今年は1年限定で「ウルトラの瀧」に改名しているはずなのだが、さすがにNHKはその遊びを認めてくれなかったらしい。役所広司ピエール瀧、足袋という組み合わせはTBSドラマ「陸王」以外の何物でもない。どこまで意識したキャスティングなのだろう。それを含めて宮藤官九郎脚本は目が離せない。


 そう言えば根津から千駄木にかけての不忍通りの街灯には“金栗四三 青春の地”というのぼりが立っていたのを思い出した。

途中乗車の旅。

 


 年が明けた。

 元旦は例年通り、古今亭志ん朝「御慶」を聴きながら朝風呂に入ってスタート。


 朝食をとりながらテレビで「ニューイヤー駅伝」を観る。

 
 届いた年賀状をチェックし、出していない人の分を新たに書き、出しにいくついでに買い物。それ以外はほとんど外へ出ず家でじっとしている。


 家にいて掃除をしたり、日に3度の食事を作ったりしていると手にひび・あかぎれがいとも簡単にできる。ヒビケア軟膏やキズパワーパッドでケアすると治りも早いのだが、家事は待ってくれないのでまたすぐに「痛っ!」となる。その繰り返し。一日家にいると家事労働の大変さがよくわかる。

 

 2日から箱根駅伝が始まるので、予習としてこの本を読む。


-碓井哲雄「箱根駅伝 強豪校の勝ち方」(文春新書)


箱根駅伝 強豪校の勝ち方【電子書籍】[ 碓井哲雄 ]


 毎年、日本テレビ箱根駅伝の解説者として顔なじみの碓井哲雄さんの箱根駅伝本。著者は、中央大学OBの箱根駅伝選手で、中大のコーチや実業団のHONDAの監督の経験もある。近年の東洋大学青山学院大学を中心とした箱根駅伝のことは生島淳さんの本などで読んでいるので、その部分よりも戦後の1960年代の中央・日大が全盛を誇った時代の話などが興味深かった。今でもこの2校を日テレのアナウンサーが「古豪」という言葉で表現するが、なぜそう呼ばれる活躍ができたのかをちゃんと教わったのは初めてだ。1964年の東京オリンピックの候補選手で、円谷幸吉とも一緒に練習した経験もあり、長年箱根駅伝の解説者をしてきた著者だからこそ、昔から現在までの箱根を実体験として語ることができるわけだ。碓井さんの話をスポーツライター武田薫氏がまとめたものなので読みやすい。正月にぼんやり読むのに向いている。個人的には、著者の生い立ちを語った章に出てくる、「髭の伊之助」の話や力道山道場の吉村道明とプールに忍び込んで警察に捕まる話などに思わずニンマリしてしまった。

 

 今日(2日)は、朝から箱根駅伝。母校は今年も古典落語のように同じ轍を踏んで、同じオチで往路を終える。青山学院の思いがけない不調で、レースとしては目の離せない展開となった。明日の復路も最後まで見てしまうだろうな。

 

 母校の箱根到着を見届けてから外出。ここ数日地元の街から出ていなかったので、読書を兼ねて馬車道ディスクユニオンまで初買いに。


-TUBBY HEYES「RETURN VISIT」(fontana)
-BENNY GREEN「45Session」(BULENOTE)
-KENNY DORHAM「JEROME KERN SHOWBOAT」(TIME)

 

 

リターン・ヴィジット!(紙ジャケット仕様)
Why Do I Love You (Remastered)
ショウボート

 

 


 タビー・ヘイズは英国のテナー・ビブラフォン奏者。彼がアメリカに来てニューヨークのミュージシャンと共演したアルバム。ローランド・カークとの共演が面白そう。


 2枚目はベニー・グリーン目当てではなく、サイドメンとして入っているピアニストのソニー・クラーク目当て。


 最後は、トランペットのケニー・ドーハムがミュージカルの「ショー・ボート」の楽曲をジャズで演奏したアルバム。テナーがジミー・ヒース。その名の通り、地味な2管にケニー・ドリュー、ジミー・ギャリソン、アート・テイラーというリズム隊。全員、モダンジャズの御用達みたいなミュージシャンばかりなのだが、この組み合わせは珍しいのではないかと思って選ぶ。

 

 車中の読書はこれ。


-若竹七海「錆びた歯車」(文春文庫)

 

錆びた滑車 (文春文庫) [ 若竹 七海 ]

 

 女探偵・葉村晶シリーズの最新刊。実は、このシリーズを一度も読んだことがない。以前から評判は聞いていたし、ミステリーのアンケートでも上位に入っていたので、読んでみる気になった。このシリーズ途中参戦方式は、昨年原尞「それまでの明日」で私立探偵・沢崎シリーズを最新刊から読み始めるということをやってみたら充分楽しめたのに味をしめ、今回もそのやり方で手を出したというわけ。その他にも文春文庫の最新刊で「『御宿かわせみ』ミステリ傑作選」も買ってある。この有名なシリーズもまだ1冊も読んでいないのだが、ちょっとこの本でつまみ食いをしてみようかと思っている。まだ、買ってはいないが、宮部みゆきの杉村三郎シリーズも文庫の最新刊「希望荘」(これも文春文庫だ)あたりから入ってみようかな。シリーズものを1冊目から全部読もうとするのはちょっと腰が引けてしまう。そのために食わず嫌いで終わるより、途中乗車でもいいから今目の前にあるものに触れてみたほうがいいだろうという感じ。

 

「御宿かわせみ」ミステリ傑作選 (文春文庫) [ 平岩 弓枝 ]
希望荘 (文春文庫) [ 宮部 みゆき ]

 


 遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。


 


 

スキヤキ。

 昨日、今日と家の大掃除に取り組む。昨日は窓や玄関の外回り。今日は部屋の中を片付ける。昨日聴いた山下達郎「サンデー・ソング・ブック」(TOKYOFM)で、12月30日が大瀧詠一の命日であることを取り上げていたため、今日の作業は大瀧詠一を聴きながら。

  • 「NAIAGARA CALENDAR」

ナイアガラ・カレンダー [ 大滝詠一 ]



 1曲目の「Rock'nRollお年玉」から12曲目の「クリスマス音頭〜お正月」まで1年間を描くトータルアルバム。大晦日に聴くには持ってこいの一枚。音楽は快調に流れていくが、部屋の片付けは思うように進まない。結局、リビングの床に積んでいた本を移動させることで妥協する。とりあえず、ガランとして広くなったリビングで年を越すことができるようになった。


 大掃除がひと段落ついたところで買い物に出る。駅ビルの本屋に寄るが、さっきまで大量の積読本を移動させていたばかりなので、珍しく手が出ない。「家にある本を読め」という声が頭の中に響き渡る。手ぶらで店を出る。夕食の食材と正月飾りを買って帰宅。


 マンションのドアに付ける飾りなので、小ぶりのものを選んだのだが、袋を開けてみると内装の厚紙に小さく「交通安全」と書いてあった。どうやら自動車に飾るものらしい。そういえば、例年買ってくるものにはついていない接着用の吸盤がある。仕方がないので、ドアに吸盤で貼り付ける。車は持っていないが、これを飾っておけば家に車が飛び込んでくることはないだろう。4階なので、車が飛び込むのは至難の技なのだが。




 今年も大晦日はすき焼き。福島で買ってきた地産の醤油をここで使う。本みりんを出してみたらちょっと色が濃くなってしまっていたので、代わりに日本酒を使う。紅白歌合戦を見ながらすき焼きを食べる。いい肉を買ってきたのでうまいのだが、どうも酒のアルコールが充分飛んでなかったらしくだんだんとぽうっとしてくるのを感じる。すき焼きで酔ったのは初めてだ。



 今年も暮れていく。この不定期のブログにお付き合いいただきありがとうございました。「はてなダイアリー」来年終了につき、そのうち「はてなブログ」へ移行して今後もマイペースで続けていきたいと思います。


 年齢的にも色々と難しいことが多くなっていくとは思いますが、来年はうつむいてばかりでなく上を向いて歩こうと思います。


 みなさま、よいお年を。

天下に一冊。

 今日は屋内仕事が休み。年末最後の3日間の休みはやること(大掃除その他)が目白押しのため、遠出をするのは今日がラストチャンスということで、新幹線に乗り京都へ向かう。先月『ぽかん』最新号(8号)も出たのでそれも手に入れたい。


 車内では「カササギ殺人事件」の続きを読む。やっと下巻に入った(読むのが遅いのです)。下巻を読み始めると、この長編が何故上下巻に分かれているのかがよく分かる。



カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)


 11時前に京都着。もっと早い時間の列車でも来られたのだが、来たところで行きたい本屋が開いてなければ意味がないので、この時間がベスト。さすがの京都も平日の水曜日なので、それほどは混んでいない。ここからは勝手知ったるいつものコース。出町柳へ出て自転車を借りる。鴨川を渡り、出町枡形商店街へ。小ぶりなアーケードの商店街の中に“出町座”というミニシアターや古本屋があると知り寄ってみる。映画をみる余裕はないので、古本屋の“ふるほん上海ラヂオ”へ。自分の本を3冊持っていくと店にある1冊と交換できるというサービスをやっている。店にいる時にも本を持ってきたおじさんが交換してもらっていた。初めての店なので挨拶がわりに1冊。

  • 高島俊男「ほめそやしたり、クサしたり」(大和書房)


ほめそやしたりクサしたり



 講談社エッセイ賞受賞の「本が好き、悪口言うのはもっと好き」に続く、第2弾エッセイ集。「本が好き」が2度も文庫化されている(最近もちくま文庫版が出た)のだが、こちらは親本絶版のまま。1冊持っているが、美本で安かったので買っておく。誰かにプレゼントしてもいいし。


 商店街にあるもう一軒の古本屋“エルカミノ”にも寄りたかったのだが、まだ準備中だったので諦める。



 丸太町通まで下り、誠光社へ。出ていることを知らなかった本と雑誌を購入。

  • ブルボン小林「ザ・マンガホニャララ」(kraken)
  • 『街の手帖 池上線』(コトノハ)


ザ・マンガホニャララ 21世紀の漫画論



 前者は『週刊文春』で連載していた「マンガホニャララ」の2013年2月14日号から2018年5月27日号までの連載をまとめたものが中心となっている。2008年から始まった連載はこれまで「マンガホニャララ」と「マンガホニャララロワイヤル」の2冊として文藝春秋から出版されていたが、「ロワイヤル」の売り上げが悪かったので3冊めは文藝春秋から出してはもらえなかったとこの本の「あとがき」に書いてある。今年の10月に書かれた「あとがき」の最後には《まだまだ連載は続く(多分)》と書かれていたのだが、12月27日号で連載は最終回を迎えた。年の瀬の寒さがなんだか身にしみる。

 後者は五反田南部古書会館で行われた第45回「本の散歩展」の密着レポが載っているので購入。東京大田区で作られた池上線のミニコミを京都で買うこの倒錯した感じ。嫌いじゃない。




 鴨川をもう一度渡り、二条通りに出て、みやこめっせ前の蔦屋書店をのぞいてから白川通に左折し、銀閣寺方面に向かいホホホ座へ。ここでも出ていたことを知らなかったCDを1枚。

  • 矢野顕子「ふたりぼっちで行こう」(VICTOR)

ふたりぼっちで行こう (初回限定盤)


 矢野顕子のデュエット集。お相手は吉井和哉YUKI奥田民生大貫妙子上妻宏光平井堅前川清など。



 時刻は1時を回り、空腹を覚える。自転車は白川通を進み恵文社一乗寺店を目指している。昼を食べるのならあそこでと以前から思っている場所がある。それはこの通りに面している“天下一品”の総本店である。このラーメンチェーンのことは知っていたのだが、まだ一度も入ったことはなかった。その総本店がこの場所にあることに驚きつつこの前の道を何度となく通ってきた。これまでも入ろうと思ったことはあったのだが、その度に店の前の行列に気後れして素通りすることになった。今日は、平日ということもあるのか、店の前に誰も並んでいない。これはチャンスと自転車を駐めて入店。入ってすぐに「今日はもう餃子は終わりました」と告げられる。頭の中にラーメンと餃子のセットを思い浮かべていたので出鼻をくじかれた感じ。周りは常連ばかりで、誰もメニューなど見ていない中でメニューを凝視し、悩んだ末にラーメンと回鍋肉の定食を頼む。この手の店のお約束で、店員の矢継ぎ早の質問に答えないと注文もさせてくれない。「スープは“こってり”か“あっさり”か」、「麺は“普通”か“細麺”か」、「ニンニクは入れるのか入れないのか」など。なんとか課題をクリアして、こってりのスープに入った普通の麺をニンニク抜きでいただく。ラーメンは悪くなかったのだが、店内のポスターにある“聖地巡礼”の言葉がちょっと気になる。店を愛する客が総本店を“聖地”と呼ぶのは気にならないが、店側が己をそう称するのはちょっとねと思ってしまう。まあ、一度入れたから満足する。



 恵文社一乗寺店は行く度に店舗が左右に広がっているのではないかと思う。ここで今回の京都来訪の目的の一つである『ぽかん』を入手。『ぽかん』の表紙の装画の入った便箋がサービスでついていた。



 来た道を銀閣寺前まで引き返す。銀閣寺の入口近くの白川通沿いに新しいコーヒースタンドが出来ていたのでそこでホットコーヒーを二つテイクアウト。ニューウェーブ系の店で若い女性が独りでやっている。こちらも、「ホット2つ」といったいい加減な注文は許してもらえない。まず豆の種類を選び(「オリジナルブレンドで」)、そして淹れ方を選ぶ(「ペーパードリップで」)。


 そのコーヒーを手土産に善行堂の扉を開ける。いつも通り突然の来店に山本善行さんがいつものように驚いてくれる。ああ、また善行堂に来ることができたなあとうれしくなる。善行さんは白い頬髭が生えており、なんだか植草甚一みたいでカッコいいなと思う。店にはジャズのレコードがかかっている。持ってきたコーヒーを飲みながら楽しくおしゃべり。そして店の棚をじっくりと見せてもらう。今日は5冊ほど選ぶ。
その中でも一番の買い物は保昌正夫「七十まで−ときどき勉強ほか」(朝日書林)。著者の70歳を記念して出版された限定500部の雑文集。恩師・薬師寺章明先生への追悼文が入っているだけでなく、ページに倉敷の蟲文庫のしおりが挟まれているという逸品だ。限定500の中でもこんな本はこの1冊だけだろう。以前に蟲文庫に置かれていた本なのかもしれない。



 1時間半ほどお邪魔して善行堂を後にする。出町柳で自転車を返し、電車で京都市役所前へ。三月書房をのぞいてから“100000tアーロントコ”と“WORKSHOP RECORD”の入ったビルへ行く。ここからはレコードタイム。前者で1枚。後者で2枚。

With the Benny Goodman Sextet [12 inch Analog]

グレン・ミラー物語(紙ジャケット仕様)

Another Opus(US STATUS RVG刻印,ST8244)[Lem Winchester][LP盤]


 京都駅で50円引きのカツサンドを買ったら賞味期限が19時までですと言われる。新幹線に乗り込んで早速カツサンドを口に運び、また「カササギ殺人事件」を読みながら帰る。

サラダ or ドレッシング。


 今年の仕事も山を越えた。仕事は28日まであるが、屋内仕事のみのため一日の半分を職場にいるというような状態にはならない。気持ちが軽くなる。



 山となった(比喩ではない)積読本を読んだり、録り溜めてあるドラマなどに向き合うビッグチャンスなのだが、そんな時に限って魅力的なニューカマーに目を奪われることになる。以前に出た成瀬巳喜男のDVDBOXに入らず、単品のDVDも発売されずにきた「晩菊」(1954)がネット配信で販売されたことを知る。早速購入して視聴。杉村春子主演。芸者あがりで金貸しをやっている“きん”(杉村春子)と元芸者仲間の“たまえ”(細川ちか子)、“とみ”(望月優子)の3人の中年女性をめぐる物語。ここに“のぶ”(沢村貞子)が絡む。この地味に凄い女優たちの共演が見所。いつもながらに杉村春子のうまさに魅了される。過去に心中をしようとした相手で、今は落ちぶれてしまった“関”(見明凡太郎)をにべもなく追い返した後、昔好きだった“田部”(上原謙)の来訪には上気し、嬌声まで上げてみせるその振り幅の見事さ。ただ、その田部も結局は自分の金目当てだと知ったきんの心理が杉村春子のモノローグ(内面の声)として語られるのが気になった。ここ以外では一切心情をモノローグで表現する手法は使われていないためこの場面だけ唐突に感じてしまう。それに、杉村春子だものそんな言葉による説明を使わなくても演技でそれを充分伝えられるだろうに。成瀬巳喜男杉村春子を信用していなかったのか、それとも観客を信頼していなかったのか。どちらかとすればたぶん後者だろうな。望月優子のとぼけた味わい、有馬稲子(とみの娘役)のあっけらかんとした娘ぶり。最初と最後にだけ出てくる加東大介の安定感。ほぼ何も起こらない面白さ。いい映画だ。


 「晩菊」の他に「驟雨」(原節子)、「女の座」(笠智衆高峰秀子)、「あらくれ」(高峰秀子)も配信されている。今のところDVD発売の予定はなさそうなので、これらも配信で観ておきたいと思っている。



 昨日は土曜日なので半ドン。午後から神保町に行く。年末恒例の雑誌『フリースタイル』の“THE BEST MANGA 2019 このマンガを読め!”号を購入するためである。この雑誌は地元の本屋には入らない。まだ昼食をとっていなかったのでキッチン南海で久しぶりのカツカレー。3時の中休み前にギリギリ入店できて喜んでいたら、椅子から転げ落ちて床にゴロンと横になってしまう。腰掛け方が浅く、背もたれがなく、真ん中が盛り上がっている丸椅子のため、尻がずり落ちたのだ。店内の注目を浴びて恥ずかしい。最初のトリプルアクセルで転倒したものの、気を取り直して残りのプログラムに挑むフィギアスケートの選手のように目の前のカツカレーに挑み、無事完食する。



フリースタイル41 THE BEST MANGA 2019 このマンガを読め!


 『フリースタイル』を入手して、神田伯剌西爾へ。コーヒーを飲みながら今年のベストマンガのアンケート結果を読む。1位は鶴谷香央理「メタモルフォーゼの縁側」(KADOKAWA)。このマンガは第2巻まで出ており、すでに読んでいる。『週刊文春』の長嶋有「マンガホニャララ」で褒められていたのを見て早速手に入れて第1巻を読んだ。夫を亡くし一人で書道教室をやっている75歳の老女とBLマンガが大好きで書店でアルバイトをしている女子高校生との交流を描いた物語。年の離れた二人がボーイズラブマンガを仲介として仲良くなっていく。高齢化社会の理想的な世代間交流のあり方としてほっこりとするマンガ。1位という結果に納得する。



メタモルフォーゼの縁側(1) (単行本コミックス)


 マンガといえば伯剌西爾で知らなかった情報を得る。先日読んだ加納梨衣「スローモーションをもう一度」(小学館)の著者が伯剌西爾でアルバイトをしていたとのこと。昔から通っている店なので、たぶん見たことのある人なのだろうな。第4巻に伯剌西爾をモデルとした喫茶店が出てくると言われてその場面を見たらどこからどう見てもこの店(店名も“ブラジル”)だ。言われるまで気づかないとは一体どこを見ていたのやら。



スローモーションをもう一度 4 (ビッグコミックス)


 今日は休み。読みかけの「カササギ殺人事件」を読み進めたいし、西荻窪で“オカタケ・古ツアの古本ガレージセール”があるので昼前に出かける。家にいるとなかなか本を読み進められないことが多い。他のことをやってしまったり、読みながらすぐ寝落ちしてしまったりしてしまう。電車の移動中が一番読書が進むのだ。


 小雨のそぼ降る西荻窪に到着。ガレージセールの会場である銀盛会館にいく道中にある盛林堂に寄る。店内にある岡崎武志棚と塩山芳明棚から1冊ずつ選ぶ。

ガルシア=マルケス「東欧」を行く
隠れたる事実 明治裏面史 (講談社文芸文庫)


 共に欲しいと思っていた新刊2冊。盛林堂を出て、銀盛会館へ。本当にガレージのような場所に本がずらりと並んでいる。そして奥にはオカタケ・古ツアのお二人が並んで座っているのがなんとなく微笑ましい。強者二人の蔵書放出なのだから魅力的な本が並んでいる。「ちくま文庫講談社文芸文庫を安く出しているよ」と岡崎さんから声を掛けられる。おっしゃる通りなのだが、それらの魅力的な本のほとんどをすでに持っているため買うことができない。持っていて嬉しいんだか残念なんだかよくわからない状態でガレージをぐるぐる回る。それでも気がつくと9冊ほど手にしていた。その1冊は盛林堂が出版元となっている岡崎武志素描集「風が穏やかな日を選んで種をまく」。主に映画の一場面を色鉛筆でスケッチしたもの。No.6「男と女」やNo.29「冒険者たち」などに惹かれる。前者は犬を連れた男の後ろ姿。犬をつなぐリードの長さが絶妙。なぜ絶妙なのかは説明できないがそうとしか思えないのだ。後者は、トラック(荷台に小さなクレーンが付いているタイプ。なんという名前なのだろう)とそれに上から近づく二重翼の小型プロペラ機を描く。プロペラ機のしなり具合と哲学者のようなトラックの姿が好き。これだけ買って4千円でお釣りがくる。



 カバンが本でパンパンだし、雨も降っているので大人しく地元にまっすぐ帰る。買うだけでなく、読むことも目的の外出なので、帰りの車内もひたすら「カササギ殺人事件」。



 地元の駅ビルでリンゴとミカンの詰め合わせ袋を買う。店内のあちこちでクリスマス用のチキンを売っている。定番の骨つきチキンが苦手なので、その代わりに大戸屋で遅めの昼食としていつもの“鶏と野菜の黒酢あん”単品と手作り豆腐を注文する。1年ほど前に後払いから前払いシステムに変更したと思ったら、今月になって来てみるとまた後払いシステムに戻っていた。ここの大戸屋はなんだか迷走しているように見える。前払いシステムの時に注文して1時間ほど料理が出てこないことがあり(読書に耽っていたのであまり時間を気にしていなかったのだが自分より後に入った人が自分と同じ料理を食べて出ていくのを見て流石にこれはおかしいと気づいた)、しばらく入るのをやめていたのだが、空いている時間なら大丈夫だろうと今月からまた利用するようになった。今日は、単品の注文でも付くはずのサラダがなかった。前回同じ品を注文した時に、店の人から「単品でもサラダは付きますから」とちょっと自慢げに言われていたので尚更サラダの不在に目がいってしまう。しかも、ドレッシングの入った小さな容器は運ばれてきた盆の上に乗っているではないか。サラダにドレッシングをつけるのを忘れてしまうのはわかるのだが、ドレッシングにサラダをつけ忘れるのはちょっとわからない。面白いのでそのまま何も言わずに食べる。以前にも書いたが、この黒酢あんと豆腐の組み合わせを好むのは、豆腐にかけるように付いてくる削り節を黒酢あんの料理にかけて食べるのが好きだからなのだが、豆腐にはもう一つ小さな容器(ドレッシングと同じもの)に入った生姜も付いており、この生姜の処置にこれまで困っていた。もともと豆腐に薬味はいらないタイプであり、しかも刺激の強い生姜によって豆腐自体のもつ味わいが消えてしまうのが嫌なのだ。前回、この組み合わせを頼んだ時、ふと思い立って黒酢あんと鰹節がまぶされた鶏の唐揚げに生姜を乗せて食べてみたらこれがジャストフィット。うまいのである。これまで持て余していた生姜が、こんなに魅力的なものになるなんて思いもよらなかった。今日などは、もう少し生姜の量が欲しいとさえ思っている自分に気付く始末。「鶏と野菜の黒酢あん」の奥は深い。また、次回も同じ組み合わせを頼んでしまうと思う。サラダの有無など問題ではない。ただ、この迷走する大戸屋がこの街からなくなってしまうことだけが不安である。

シュトーレンでシュトーレンを買う。

 あっという間に師走も中旬が過ぎ、明日からもう下旬に突入しようとしている。冬が来るのかいなと思いながらスタートした12月も1週間ほどたったら突然冬になった。ダウンコートを着て、車中で中野翠「ズレてる、私!?」(毎日新聞社)を読みながら墓参りに行ったのが12月9日。『サンデー毎日』の連載コラムをまとめたこのシリーズの最新刊を読むと本当に年末が来たのだと思う。今年もやっぱり年末は来たのだった。


ズレてる、私! ? 平成最終通信



 今日は、11月23日の屋内仕事の休日出張の代休を取る。のんびり朝風呂で12月16日にTOKYOFMで放送された「村上RADIO」(“ムラカミレディオ”と発音される)の第3回を聴く。今回はクリスマスソング特集。1曲目が小野リサ「winter wonderland」。この曲の入っているボサノバ・クリスマスアルバムをよく聴いているのでちょっとうれしい。スポンサーが“大日本印刷”というのも村上春樹という作家がいかに出版界にとって大切な存在と考えられているかが感じられて面白い。それにしてもこんなに「レディオ」という言葉を繰り返し聴くのは徳永英明以来ではないだろうか。「この間、ちょっとエクアドルに行ってきた」(“ちょっと”って)や「いいですよね、猫山さん?」(猫山さん=謎の猫)に呼びかけたりとツッコミどころに事欠かないユルい感じが休みのぼんやりした朝にちょうどいい。ビーチ・ボーイズクリスマスアルバムが欲しくなった。



 10時過ぎに家を出て、日比谷に向かう。映画「ボヘミアン・ラプソディ」を見に行くのだ。洋楽に疎い学生時代を過ごしてきた身ではあるが流石にQueenの歌は何度となく耳にしてきた。友人にもフレディ・マーキュリーを敬愛する人物がいて(風貌も似ていた)、彼がカラオケで熱唱するのを間近で見ていたりしたので曲は知っているのだが、Queenというバンドやフレディの事はほとんど知らないと言っていい。もちろん、彼がエイズで命を落としたことぐらいは知っていた。というかそれくらいしか知らなかった。知らないからこそちょっと興味があった。


 本日の携帯本はアンソニーホロビッツカササギ殺人事件 上」(創元推理文庫)。面白いとの評判を聞いて買っておいたのを満をじして読み始める。最初に出て来る「カササギ殺人事件」のゲラを読む女性編集者の住まいがハイゲート駅の近くにあると書かれていて、その昔ハイゲートにあった墓地にマルクスの墓を見に行ったことなどを思い出し、ロンドンの街に思いを馳せる。ロンドン好きなので、この街が出てくる作品は小説でも映画でも好物なのだ。



カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)



 日比谷に到着。映画は13時からなので、まだ時間がある。まずは銀座まで歩いて教文館へ。

谷口ジロー (コロナ・ブックス)



 コロナブックスの1冊。なぜかコロナブックスを置いてある地元の本屋にはいつまでたっても入ってこないのでこちらで購入。そして、今日は本だけではなく、4階でシュトーレンを入手。ここで“ドイツパンの店 タンネ”人形町店のシュトーレンを売っているとネットで知って買ってみる。埼玉でドイツパン屋を営んでいる知人が作るシュトーレンを好んで食べているうちにシュトーレンそのものに対する興味が出てきて他の店のものも食べてみたいと思うようになった。知人のものを美味しいと感じ、その思いから同僚や知人に勧めている。その美味しさを相対的に判断する責任が勧めている自分にはあるのではないかとも考える。まあ、それは大義名分で、ただ色々と食べてみたくなったというのが正直なところ。先日、職場へ知人の店からシュトーレンが届いた。同僚からのリクエスト分である。すでに代金は立て替え前払いで済ましてあるため、同僚が払うものは全て我が財布の中に入る。その日の帰りに地元の駅ビルに入っている洋菓子屋のシュトーレンをその金で購入。そして、今日のシュトーレンもその金で支払った。これじゃまるで、シュトーレンを売ってシュトーレンを買っているようだなと思う。



 いつものように教文館の後は山野楽器。アナログレコードのコーナーで50%offになっていたこちらを。

  • STANLEY TURRENTINE「JUBILEE SHOUT!!!」(BLUENOTE)


Jubilee Shout [Analog]



 若くして亡くなったピアニストのソニー・クラークの最後の録音盤である。LPなのだが45回転の高音質盤なのが面白い。





 ミッドタウン日比谷内にあるTOHOシネマへ。ビルの4階にあり、窓から日比谷公園が見える。高校時代日比谷乗り換えで通学していたため、時間のある時などに日比谷公園を歩いたことを思い出す。金のない高校生にとって無料で入れる公園は暇つぶしにちょうどよかったのだ。


 IMAXのスクリーンは時間帯が合わなかったので、音響のいいDolby-ATMOSのスクリーンにする。今日はレディースデイのため、会場の9割近くが女性。まるで女性専用車両に間違えて乗り込んだような居心地の悪さを感じる。それも映画が始まり、フレディ・マーキュリーの歌声を体に感じているうちにすぐに忘れてしまう。インド系英国人として差別を受け、己の出自や容姿にコンプレックスを持っていた若者が、音楽をパフォーマンスすることに生きる喜びを見出し、その夢を実現していくサクセスストーリーの中に、己の中にある抗いがたいセクシャリティに直面し、愛する女性とすれ違わなくてはならならい苦悩が描かれる。「ボヘミアン・ラプソディ」の制作過程や「ウィ・ウイル・ロック・ユー」の制作秘話など見所はいろいろあるがやはり圧巻はラストのウエンブリースタジアムでの「ライブ・エイド」コンサートの再現シーンだろう。この20分余りのライブシーンは音楽の力というものをグイグイと突きつけられる。以前に動画サイトで見たことがある実際の「ライブ・エイド」がほぼ忠実に再現されており、そのクオリティも見事なのだが、やはり何よりもフレディ・マーキュリーの歌の力が凄いのだ。こうして改めて聴いてみると彼の曲と歌の良さがよくわかる。リピーターが多いのも、映画に合わせて歌える上映会があるのもこのラスト20分のためだろうな。



 地元に戻り、書店を覗いたらデアゴスティーニの「クイーン・LPレコード・コレクション」が置いてあり、映画の中で重要なシーンを担っていたアルバム「A NIGHT AT THE OPERA」(オペラ座の夜)があったので思わず買ってしまう。「ボヘミアン・ラプソディ」が入っている4枚目のアルバムなのだが、聴きたかったのはA面に入っている「I'M IN LOVE WIHT MY CAR」。なぜこれを聴きたくなるかは映画を見た人ならわかってくれるはず。



クイーンLPレコードコレクション 180g重量盤 創刊号オペラ座の夜/A Night At The Opera/Queen ボヘミアンラプソディ収録 公式マガジン付 (クイーン・LPレコード・コレクション)



 帰宅して、YOUTUBEで「ライブ・エイド」の映像を繰り返し見直してしまう。そして数種類のシュトーレンを食べてしまう。仕方ないですよね、猫山さん。